【コラム】農福連携を人権から考える 「働く場」か「安い労働力」か

この記事のポイント

1.農福連携は、障害者等が農業分野で活躍し、農業と福祉の双方の課題解決を図る取組として広がっている。
2.人権の視点では、就労機会、合理的配慮、工賃・賃金、本人の選択、地域参加を切り離して考えることはできない。
3.農福連携を持続させるには、「支援」や「美談」にとどめず、適正な対価と働きやすい環境を整える必要がある。

障害を理由とする偏見や差別をなくそう

農福連携は、農業と福祉が連携し、障害のある人などが農業分野で働く機会を広げる取組として進められてきた。農林水産省は、農福連携を、障害者等の農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいを創出し、社会参画を実現する取組として説明している。近年は、農業側の人手不足、福祉側の就労機会の確保、地域づくりを結びつける政策として、省庁横断で推進されている。

農業側の事情は切実である。農林水産省の資料によると、基幹的農業従事者数は平成12年の240万人から令和6年には111万4千人まで減少し、令和6年の平均年齢は69.2歳となった。65歳以上は79万9千人で全体の71.7%を占める。農福連携は、この担い手不足の文脈で語られることが多い。だが、ここで注意すべきなのは、障害者や福祉サービス利用者を、単に「足りない労働力」として見てしまう危うさである。

人権の視点から見ると、農福連携の中心に置くべきなのは、農作業を通じて誰がどのように働き、どのような対価を得て、どのように地域と関わるのかという点である。障害者権利条約は、障害者が他の人と平等に労働についての権利を有することを認め、その実現を保障・促進することを締約国に求めている。障害者基本法も、障害者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を確保されることを基本原則に掲げている。

農福連携の現場には、確かに可能性がある。農作業は、播種、除草、収穫、袋詰め、選別、出荷準備など、工程を細かく分けやすい。作業内容を整理すれば、障害特性や体調、集中できる時間に応じた役割をつくりやすい。屋外で体を動かすこと、季節の変化を感じること、収穫物が形として見えることは、本人の達成感や生活リズムにもつながる。農林水産省は、農福連携技術支援者、いわゆる農業版ジョブコーチの育成も進めており、農業者、福祉事業所、本人の三者をつなぐ専門人材の必要性が意識されている。

一方で、農福連携を「よい話」としてだけ扱うと、見落とされる問題がある。第一に、工賃・賃金の問題である。厚生労働省の令和5年度実績では、就労継続支援B型事業所の全国平均工賃月額は修正後で2万2,649円とされている。農福連携によって農産物の付加価値が高まり、販路が広がったとしても、その成果が本人の工賃や賃金、働き続けられる条件に結びつかなければ、人権の視点からは不十分である。

第二に、本人の選択の問題である。農作業が合う人もいれば、合わない人もいる。静かな環境で集中しやすい人、屋外作業で調子を崩す人、単純作業を好む人、販売や接客に関心を持つ人もいる。農福連携は、「障害のある人には農業が向いている」という決めつけではなく、本人が働き方を選ぶ選択肢の一つとして整える必要がある。働く場所を増やすことと、本人の希望を聞かずに誘導することは違う。

第三に、合理的配慮と安全管理である。農業には、機械、刃物、暑熱、農薬、重量物、傾斜地、長時間の立ち作業など、特有のリスクがある。作業を細分化し、道具や作業台を調整し、休憩を取りやすくし、指示の出し方を工夫することは、単なる親切ではない。障害者権利条約が示す「合理的配慮」を、農業の現場に即して具体化する作業である。

政策面では、農福連携は次の段階に入っている。令和6年6月5日に決定された「農福連携等推進ビジョン(2024改訂版)」では、令和12年度末までに農福連携等に取り組む主体数を1万2,000以上、地域協議会に参加する市町村数を200以上とする目標が示された。法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省が連携し、障害者だけでなく、社会的に支援を必要とする人の参画や、林福連携・水福連携にも対象を広げる方向が示されている。

ノウフクJASも、農福連携を社会に伝える仕組みの一つである。農林水産省は、ノウフクJASについて、農福連携の理念に共感する企業への販路開拓や、エシカル消費に関心を持つ消費者への訴求につながると説明している。これは、農産物を「安いから買う」のではなく、誰がどのように関わって生産したのかを含めて評価する仕組みである。ただし、認証やブランド化は、現場で働く人の処遇改善と結びついて初めて意味を持つ。

農福連携の人権上の価値は、障害者を農業に「参加させる」ことではない。本人が働く意味を持ち、対価を得て、地域の中で役割を持ち、必要な配慮を受けながら、尊厳を損なわれずに働ける環境をつくることにある。農業の担い手不足を補うことは大切だが、それだけを前面に出せば、福祉は農業の下請けになりかねない。逆に、福祉の側だけで完結すれば、農産物の品質、納期、販路、経営の視点が弱くなる。

必要なのは、農業者、福祉事業所、自治体、消費者が、それぞれの都合だけでなく、本人の働く権利を中心に置いて制度を組み立てることである。農福連携は、農村振興策であり、障害者就労支援策であり、地域共生社会の実践でもある。だからこそ、美談にしすぎず、工賃・賃金、合理的配慮、安全、本人の意思、販路形成を同じテーブルで扱う必要がある。人権から見た農福連携とは、農業に福祉を足すことではなく、働くことを通じて地域の側を変えていく取組である。

出典

出典 農林水産省「農福連携の推進」
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/noufuku/index.html

出典 農林水産省「農福連携等推進会議」
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/noufuku/suisin_kaigi.html

出典 農林水産省「農福連携等推進ビジョン(2024改訂版)におけるKPIについて」
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/noufuku/attach/pdf/suisin_kaigi-12.pdf

出典 農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」
URL:https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/pdf/1-2-03.pdf

出典 農林水産省「ノウフクJAS」
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/noufuku/noufuku_jas.html

出典 厚生労働省「平均工賃(賃金)月額の実績について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41739.html

出典 厚生労働省「令和5年度工賃(賃金)の実績について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001391049.pdf

出典 外務省「障害者の権利に関する条約」
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html

出典 外務省「障害者の権利に関する条約(和文テキスト)」
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000069541.pdf

出典 内閣府「障害者基本法」
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.html

出典 農福連携全国都道府県ネットワーク「ノウフクに取り組みたい方へ」
URL:https://noufuku.jp/know/participating/

人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、企業、公益団体、国際機関等が公表する一次情報をもとに、差別、労働、教育、福祉、司法・制度、外国人共生、ビジネスと人権などに関するニュースと解説を発信しています。掲載内容は、出典確認を行ったうえで、制度的背景や人権上の論点を補足して構成しています。

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