【いまさら聞けない】同和問題とは何か 部落差別解消推進法と現在の課題

この記事のポイント

1.同和問題は、特定の地域の出身・居住に結び付けられた差別であり、結婚、就職、身元調査、インターネット上の情報拡散などに表れる。

2.国は1969年から2002年まで特別措置法に基づく地域改善対策を実施したが、法務省は現在も部落差別が存在すると整理している。

3.2016年施行の部落差別解消推進法は、罰則中心の法律ではなく、相談体制、教育・啓発、実態調査を通じて差別解消を進める法律である。

部落差別(同和問題)を解消しよう

同和問題とは何か

同和問題とは、特定の地域の出身であること、またはそこに住んでいることなどを理由に、結婚や就職、日常生活の場面で差別を受ける問題を指す。法務省は、人権教育・啓発白書の説明を引用し、同和問題を「日本社会の歴史的過程で形作られた身分差別」により、一部の人々が長く経済的、社会的、文化的に低い状態に置かれ、同和地区と呼ばれる地域の出身者であることなどを理由に結婚を反対されたり、就職などで差別を受けたりする「我が国固有の人権問題」と整理している。

ここで注意したいのは、同和問題を「昔の身分制度の名残」とだけ説明すると、現在の問題が見えにくくなる点である。被差別部落に対する一面的なイメージ、例えば「貧しい」「暗い」「閉鎖的」といった固定観念は、問題を単純化してしまう。実際には、地域の規模や歴史、都市部・農村部・漁村部などの成り立ちは多様であり、「被差別部落」と一括して語ること自体に慎重さが必要である。

「同和地区」と「被差別部落」は同じ意味ではない

啓発資料などでは、「同和問題」「部落差別」「被差別部落」「同和地区」という語が並んで使われることがある。ただし、これらは完全に同じ意味ではない。「同和地区」は、過去の同和対策事業や地域改善対策の文脈で使われてきた行政上の用語であるのに対し、「被差別部落」は、歴史的に差別を受けてきた地域や集落を指す語として使われることが多い。

国が現在重視しているのは、地名や地域を特定することではなく、出身地や居住地に結び付けた差別が今も起きているという事実である。法務省の調査研究では、部落差別解消推進法に基づく調査について、人や地域を特定する調査は新たな差別を生みかねないとして、生活実態調査や学校教育現場での地域特定型調査を実施すべきではないと整理している。

国はどのような対策をしてきたのか

国の同和対策事業は、1969年施行の同和対策事業特別措置法を起点に、地域改善対策特別措置法、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律へと続いた。これらは一般に「同和三法」と呼ばれ、1969年から2002年まで、生活環境の改善、社会福祉、産業振興、職業安定、教育の充実、人権擁護活動の強化などが実施された。法務省は、その結果、劣悪な生活環境が差別を再生産する状況は大きく改善され、特別対策は2002年3月で終了し、その後は一般対策の中で必要な施策を行うことになったと説明している。

この経緯から、「同和対策事業が終わったのだから、同和問題も終わった」と受け止められることがある。しかし、それは制度史と差別実態を混同している。地方公共団体の職員向けの研修会(法務省主催)でも、2002年に特別措置法が失効したことが同和問題の解決を意味するわけではないと説明されている。

部落差別解消推進法は何を定めているのか

2016年12月16日、部落差別の解消の推進に関する法律、いわゆる部落差別解消推進法が公布・施行された。法務省の報告書によれば、同法は「現在もなお部落差別が存在する」ことと、「情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」ことを踏まえ、基本理念、国と地方公共団体の責務、相談体制の充実、教育・啓発、実態調査を定めている。

この法律の特徴は、差別行為を個別に罰する処罰法ではなく、部落差別の解消に向けた国・地方公共団体の責務を明確にする理念法・推進法として設計されている点にある。具体的には、相談体制の充実、教育及び啓発、部落差別の実態に係る調査が柱となっている。

現在、どのような差別が問題になっているのか

法務省人権擁護局の資料によると、部落差別の実態として、主に「特定の者を対象とする表現行為」「特定の者を対象としない表現行為、識別情報の摘示を含む」「結婚・交際」を挙げている。特にインターネット上では、特定の地域を同和地区と指摘する「識別情報の摘示」が増加しており、法務省の人権擁護機関が新規に救済手続を開始した事件数は、2021年296件、2022年414件、2023年430件と増加傾向にある。

内閣府の2022年「人権擁護に関する世論調査」では、部落差別・同和問題を知っている人に対し、人権問題だと思ったことを尋ねている。その結果、「交際・結婚の反対」が40.4%で最も高く、「差別的な言葉」が32.3%、「就職・職場で不利な扱い」が27.5%、「身元調査」が24.3%となっている。

これは、同和問題が過去の居住環境改善だけの問題ではなく、現在もなお結婚、就職、地域情報、インターネット、個人情報の扱いと結び付いていることを示している。

就職差別と身元調査の問題

同和問題を考える上で、就職差別は避けて通れない。採用選考で本籍地、出生地、家族の職業、家庭環境などを尋ねることは、本人の適性・能力と関係のない事項を採否判断に持ち込むことにつながる。厚生労働省関係の公正採用選考資料でも、本籍地や出身地を尋ねることは、同和地区関係者に対する就職差別や身元調査につながる不適切な質問例として示されている。

かつては、被差別部落の所在地を記載した「部落地名総鑑」が企業の採用調査などに悪用された事件があり、公正な採用選考の制度整備が進められてきた。現在でも、ネット上に特定地域を示す情報が掲載される問題は、就職差別や結婚差別に利用される危険を伴う。したがって、単に「差別的な言葉を使わない」というだけでなく、本人に責任のない属性情報を調べない、集めない、判断材料にしないことが実務上の重要な対応となる。

なぜ「知らないこと」も問題になるのか

同和問題は、知識を持つこと自体が難しいテーマでもある。教え方を誤れば、かえって地域や人を特定する好奇心を刺激するおそれがある。一方で、何も教えなければ、結婚や就職、ネット検索の場面で古い偏見や誤情報を無批判に受け入れてしまう危険が残る。

法務省資料では、部落差別が現在も存在する理由として、「昔からある偏見や差別意識をそのまま受け入れてしまう人が多い」が60.9%、「部落差別の知識がなかったり、無関心だったりする人がいる」が43.8%、「これまでの教育や啓発が十分でなかった」が27.6%、「落書きやインターネット上で差別意識を助長する人がいる」が25.9%とされている。

ここに、同和問題の難しさがある。知らないままでいることは差別の温存につながり得るが、地名や地域を暴く形の知識は新たな差別を生む。必要なのは、「どこが同和地区か」を知ることではない。本人に責任のない出身地や地域属性を理由に、結婚・就職・交際・取引などで不利益を与えてはならないという〝人権〟の原則を理解することである。

インターネット時代の同和問題

現在の同和問題で特に深刻なのは、インターネット上の情報拡散である。検索エンジン、掲示板、動画、SNS、地図情報などを通じ、特定地域を同和地区・被差別部落であるかのように示す情報が拡散することがある。法務省は、こうした「識別情報の摘示」を認知した場合、プロバイダ事業者等に削除要請を行うなどしている。

この問題は、表現の自由との調整も伴う。法務省の調査研究でも、インターネット上の表現内容について、国が公権力による監視を推奨していると受け止められるような調査手法は避け、表現の自由に十分留意すべきだと整理されている。

つまり、部落差別への対応は、差別情報を放置しないことと、行政による過度な表現監視を避けることの両方を考えなければならない。ここに、現代的な人権課題としての難しさがある。

実務的な視点

同和問題を理解するために、読者がまず押さえるべきことは三つある。

第一に、出身地や居住地は、本人の能力や人格とは関係がない。採用、結婚、交際、取引、入居などの場面で、地域属性を理由に判断を変えることは差別につながる。

第二に、同和地区や被差別部落を特定しようとする行為自体が、差別の再生産になり得る。ネット上で地名一覧を探す、共有する、第三者に尋ねるといった行為は、単なる情報収集では済まない。

第三に、同和問題を「昔の問題」として片付けないことである。国の資料は、特別対策事業が終了した後も、現在なお部落差別が存在し、情報化によって状況が変化していると整理している。

同和問題は、歴史を知るだけでは足りない。現在の制度、採用選考、個人情報、インターネット上の表現、結婚や家族関係の中で、本人に責任のない属性をどう扱うかが問われている。部落差別解消推進法が相談体制、教育・啓発、実態調査を柱にしているのは、差別が単発の発言だけでなく、知識不足、偏見、情報流通、身元調査の慣行と結び付いて起きるからである。

出典

法務省「部落差別の実態に係る調査結果報告書」
URL: https://www.moj.go.jp/content/001327359.pdf

法務省「部落差別(同和問題)の解消に向けた取組」
URL: https://www.moj.go.jp/content/001420948.pdf

法務省「部落差別(同和問題)を解消しましょう」
URL: https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00127.html

e-Gov法令検索「部落差別の解消の推進に関する法律」
URL: https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC1000000109

内閣府「人権擁護に関する世論調査(令和4年8月調査)」
URL: https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-jinken/

厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」
URL: https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html

人権ライブラリー「同和問題のこれまで、そしてこれから」
URL: https://www.jinken-library.jp/database/column/entry/10258/index.php

人権ライブラリー「新しい部落史とこれからの同和問題」
URL: https://www.jinken-library.jp/database/column/entry/10247/index.php

人権ライブラリー「新しい視点から同和問題を考える」
URL: https://www.jinken-library.jp/database/column/entry/10252/index.php

人権ライブラリー「部落差別をこえて」
URL: https://www.jinken-library.jp/database/column/entry/10205/index.php

人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、企業、公益団体、国際機関等が公表する一次情報をもとに、差別、労働、教育、福祉、司法・制度、外国人共生、ビジネスと人権などに関するニュースと解説を発信しています。掲載内容は、出典確認を行ったうえで、制度的背景や人権上の論点を補足して構成しています。

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