カスハラ防止条例、少なくとも15自治体で制定

この記事のポイント

1 民間事業者を含むカスハラ防止条例は、2026年6月22日時点で少なくとも15自治体に広がっている。
2 大半の条例は罰則を設けず、相談、啓発、研修、事業者支援を中心としているが、桑名市は警告後の氏名等公表を規定している。2026年10月1日からは国の法律により、すべての事業主にカスハラ防止措置が義務付けられる。
3 働く人の保護と、正当な苦情や合理的配慮の申出を区別する運用が課題となる。

カスハラ防止条例

顧客や施設利用者などによる著しい迷惑行為から働く人を守るため、カスタマーハラスメント防止条例を制定する自治体が増えている。人権ニュースが公表資料を調べたところ、民間事業者を含む地域内の幅広い職場を対象とした条例は、2026年6月22日時点で少なくとも15自治体で制定されていた。このうち14自治体では既に施行され、埼玉県では同年7月1日に施行される。

条例の多くは、カスタマーハラスメントを禁止し、自治体、事業者、就業者、顧客等の責務を定める一方、行為者に対する罰則は設けていない。三重県桑名市は、一定の手続きを経た警告や氏名等の公表を規定しており、岡山市は障害者や認知症の人への合理的配慮を明記した。さらに、三重県は、知事の禁止命令への違反に罰則を科す条例の最終案を公表している。

民間事業者を含む条例を調査

今回の調査では、民間企業、個人事業者、非営利団体などを含む地域内の幅広い職場におけるカスタマーハラスメントの防止を、主な目的とする条例を対象とした。

自治体職員に対する行為のみを対象とする条例や規程、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全般を扱う条例、庁内の対応方針、マニュアル、制定前の条例案は、15自治体の集計には含めていない。

一般財団法人地方自治研究機構は、2025年12月23日時点で、東京都、北海道、三重県桑名市、群馬県嬬恋村、群馬県、群馬県中之条町、愛知県、静岡県、静岡県長泉町、茨城県城里町、島根県美郷町、埼玉県の12自治体で条例の制定を確認している。その後、栃木県、岡山市、大分県中津市でも、民間事業者を含む条例の施行が確認された。

施行日別にみると、2025年4月1日に東京都、北海道、桑名市、嬬恋村、群馬県、同年6月20日に中之条町、同年10月1日に愛知県、同年12月10日に城里町で施行された。

2026年には、2月1日に美郷町、4月1日に静岡県、長泉町、栃木県、岡山市、中津市で施行された。埼玉県では7月1日に施行される。

カスハラ防止条例の制定状況

2026年6月22日時点で確認できた条例は、次のとおり。

自治体施行日条例の主な特徴公表・罰則等
東京都2025年4月1日全国で初めてカスハラ防止に特化した条例を施行。都が指針や共通マニュアルを作成なし
北海道2025年4月1日道、事業者、就業者、顧客等の責務を規定。相談、啓発、人材育成などを実施なし
三重県桑名市2025年4月1日市長による事案の確認・認定、警告等の手続きを規定事案概要を公表。警告後も改善が不十分な場合、氏名等を公表できる
群馬県嬬恋村2025年4月1日村、事業者、就業者、顧客等の責務を規定なし
群馬県2025年4月1日「何人も、あらゆる場において」カスハラを行ってはならないと規定なし
群馬県中之条町2025年6月20日町、事業者、就業者、顧客等の責務を規定なし
愛知県2025年10月1日県が指針を策定し、相談、助言、情報提供、啓発等を実施なし
茨城県城里町2025年12月10日顧客等、事業者、就業者等の責務を規定なし
島根県美郷町2026年2月1日民間事業者と町職員等を含め、町全体での防止を規定なし
静岡県2026年4月1日県が指針を定め、情報提供、教育、相談、助言等を実施なし
静岡県長泉町2026年4月1日「何人も、あらゆる場において」カスハラを行ってはならないと規定なし
栃木県2026年4月1日基本指針を策定し、相談、助言、教育、事業者支援等を実施なし
岡山市2026年4月1日障害者や認知症の人への合理的配慮に留意。12月を撲滅月間に設定現行はなし。将来の罰則導入を含む見直し規定あり
大分県中津市2026年4月1日市、事業者、就業者、顧客等の責務を規定。小規模事業者等への相談料助成も実施なし
埼玉県2026年7月1日指針、相談・助言、啓発、表彰等を規定なし

※「なし」は、条例上、カスタマーハラスメントを行ったこと自体に対する罰則、過料、氏名公表等が規定されていないことを示す。暴行、脅迫、強要、名誉毀損などに当たる行為は、条例に罰則がなくても、刑法その他の法律による処罰や、民事上の損害賠償の対象となる場合がある。

※桑名市では、カスタマーハラスメントと認定されただけで直ちに氏名等が公表されるわけではない。認定、警告、改善状況の確認、意見陳述の機会、委員会への意見聴取などを経たうえで、公表できる仕組みとなっている。

※三重県が2026年6月に公表した条例最終案は、調査基準日時点では制定前であるため、表には含めていない。

大半は処罰より啓発を重視

確認できた条例の大半は、カスタマーハラスメントの禁止と関係者の責務を定め、相談、助言、研修、情報提供、啓発などを通じて防止を図る内容となっている。

東京都は、全国で初めてカスタマーハラスメントの防止に特化した条例を制定した。条例には勧告、命令、氏名公表、罰則などの規定はなく、都がガイドラインや共通マニュアルを策定し、事業者による相談体制の整備や就業者への配慮を促している。

北海道、群馬県、愛知県、静岡県、栃木県、埼玉県なども、条例に基づく指針の作成、相談支援、啓発、教育、情報提供などを中心としている。条例によって行為者を直接処罰するよりも、社会的な認識を広げ、事業者の対応体制を整えることに重点を置いた制度といえる。

市町村では、それぞれの地域事情に応じた支援もみられる。中津市は、市内事業者などを対象とした相談窓口を設け、一定の要件を満たす小規模事業者や個人事業者が、カスハラ対応について弁護士などに相談した場合、1件当たり5千円を上限に相談料を助成している。

桑名市は警告と氏名等の公表を規定

桑名市の条例は、他の自治体とは異なり、市長によるカスタマーハラスメント事案の「確認」または「認定」の制度を設けている。

確認は、行為者を特定せずに、その言動がカスタマーハラスメントに該当すると判断する手続きである。認定は、行為者を特定したうえで、カスタマーハラスメントに該当すると判断する手続きとなる。市長は、いずれの場合も専門家らで構成する委員会に諮問する。

市長が確認または認定を行った場合、個人情報などを除いた事案の概要が公表される。認定した場合には、行為者に警告を行う。警告後も改善が不十分と認められる場合、市長は、行為者に意見を述べる機会を与え、委員会の意見を聴いたうえで、氏名その他の行為者を特定できる情報を公表できる。

したがって、カスタマーハラスメントと認定されれば直ちに氏名が公表されるわけではない。事案概要の公表、行為者への警告、改善状況の確認、氏名等の公表という段階的な仕組みとなっている。

氏名等の公表は、就業者を反復的な迷惑行為から守る効果が期待される一方、行為者の社会的評価に大きな影響を与える。事実認定の正確性、弁明の機会、被害を受けた就業者や事業者の安全への配慮が不可欠となる。

岡山市は合理的配慮を明記

岡山市の条例は、適用に当たり、障害者差別解消法が定める障害者への必要かつ合理的な配慮と、認知症基本法が定める認知症の人への必要かつ合理的な配慮に留意しなければならないと規定している。

障害の特性によって説明の理解や意思の伝達に時間を要すること、同じ質問を繰り返すことなどが、外形だけを見てカスタマーハラスメントと判断されないようにする必要がある。正当な配慮の申出や、支援を必要とする人の言動と、社会通念上許容される範囲を超えた迷惑行為を区別する視点が求められる。

同市は12月を「岡山市カスタマーハラスメント撲滅月間」と定め、関係機関などと連携して啓発事業を実施することとしている。

現在の条例には、行為者に対する罰則はない。一方、附則では、社会環境や条例の施行状況、国の法整備を踏まえて条例を検討し、必要がある場合には、罰則を設けることを含む措置を講ずると定めている。

国の義務化と自治体条例の違い

2026年10月1日には、改正労働施策総合推進法が施行され、労働者を雇用するすべての事業主に、カスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が義務付けられる。

事業主には、カスタマーハラスメントを許さない方針の明確化、相談に対応する体制の整備、事実関係の迅速な確認、被害を受けた労働者への配慮、行為者への対応、再発防止などが求められる。

国の制度は、事業主と雇用される労働者との関係を基本としている。これに対し、自治体条例は、顧客等、事業者、就業者、自治体を含む地域社会全体の責務を定めるとともに、自治体独自の相談、研修、助言、専門家派遣、費用助成などにつなげる役割を持つ。

また、自治体条例の中には、雇用関係にある労働者だけでなく、個人事業主、フリーランス、ボランティアなどを「就業者」に含めるものもある。岡山市の条例は、個人事業主、フリーランス、ボランティア、訓練や実習を受ける人などを対象に含めている。

国の法律と自治体条例は、どちらか一方だけが適用されるものではない。国が事業主に求める最低限の防止措置を定め、自治体が地域全体への啓発や、より幅広い就業者への支援を補う関係にある。

三重県は罰則付き条例の最終案を公表

三重県は2026年6月、カスタマーハラスメント防止条例の最終案を公表した。調査基準日時点では条例として制定されていないため、15自治体の集計には含めていない。

最終案では、通常のカスタマーハラスメントのうち、正当な理由のない長時間または反復的な金銭要求、謝罪・面会要求、業務上著しく対応困難な要求、大声や虚偽の説明を用いた要求、卑わいな言動、つきまといなどを「特定カスタマーハラスメント」として規定している。

事業者が行為の中止を求めるなどの措置を講じても特定カスタマーハラスメントが続く場合、知事に措置を求めることができる。知事は、有識者で構成する審査会の意見を聴いたうえで、行為者に対し、申出を行った事業者への特定カスタマーハラスメントを行わないよう命令できる。

最終案の罰則は、カスタマーハラスメントに該当する言動を一度行ったことだけで、直ちに適用されるものではない。知事の禁止命令に違反した場合に、50万円以下の罰金または拘留若しくは科料に処する仕組みである。

県は、2026年9月の県議会定例月会議への条例案提出を予定しており、最終案では2027年4月1日を施行日としている。県は全国初となる罰則規定を設けたカスハラ防止条例の制定を目指しているが、条例案の内容は、県議会での審議によって変更される可能性がある。

正当な苦情や権利行使との区別が課題

長時間の拘束、暴言、脅迫、土下座の強要、執拗な連絡などから働く人の人格、尊厳、安全、健康を守ることは、事業者と行政の重要な責務である。接客や窓口対応を行う仕事だからという理由で、著しい迷惑行為を耐え続けることを求めるべきではない。

一方、商品の欠陥、医療・福祉サービスの問題、行政の誤った対応、差別的な取扱いなどについて、利用者が説明、謝罪、改善を求めることは、正当な権利行使となり得る。障害者が合理的配慮を申し出ることや、被害を受けた消費者が繰り返し説明を求めることまで、安易にカスタマーハラスメントと扱ってはならない。

多くの条例が、顧客等の権利を不当に侵害しないことや、就業者と顧客等が対等な立場で互いを尊重することを基本理念としている。今後は、禁止を宣言するだけでなく、正当な苦情とカスタマーハラスメントを区別する基準を示し、個別の事情を踏まえて公正に判断できる体制を整える必要がある。

条例の広がりは、働く人の人権を守る対策が、個々の就業者による我慢や現場任せの対応から、事業者と地域社会全体の責任へ移りつつあることを示している。

出典

一般財団法人地方自治研究機構「カスタマーハラスメントに関する条例」
URL:https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/162_customer_harassment.htm

厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

桑名市「桑名市カスタマーハラスメント防止条例逐条解説」
URL:https://www.city.kuwana.lg.jp/documents/12184/chikujokaisetsu.pdf

栃木県「栃木県カスタマーハラスメント防止条例」
URL:https://www.pref.tochigi.lg.jp/reiki/reiki_honbun/e101RG00002078.html

岡山市「岡山市カスタマーハラスメント防止条例について」
URL:https://www.city.okayama.jp/jigyosha/0000080534.html

中津市「中津市の『カスタマーハラスメント』への取り組みについて」
URL:https://www.city-nakatsu.jp/doc/2026060100038/

埼玉県「埼玉県カスタマーハラスメント防止対策ポータルサイト」
URL:https://www.pref.saitama.lg.jp/customerharassment-boushitaisaku/index.html

三重県「三重県カスタマーハラスメント防止条例 最終案」
URL:https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001260718.pdf

人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、企業、公益団体、国際機関等が公表する一次情報をもとに、差別、労働、教育、福祉、司法・制度、外国人共生、ビジネスと人権などに関するニュースと解説を発信しています。掲載内容は、出典確認を行ったうえで、制度的背景や人権上の論点を補足して構成しています。

人権ニュース編集部をフォローする
ビジネス注目
シェアする
タイトルとURLをコピーしました