【いまさら聞けない】人権三法とは何か 差別解消を支える3つの法律

「人権三法」と呼ばれる3つの法律は、いずれも2016年に施行された差別解消のための法律を指す。一般には、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消推進法の3法をまとめた呼び方である。いずれも特定の人権課題を対象に、国や地方公共団体の責務、相談体制、教育・啓発、必要な取組の方向性を定めている。

人権三法のイメージ図

人権三法は、刑罰を中心に差別を取り締まる法律というより、差別をなくすための行政施策や社会的対応の根拠となる法律と見た方が分かりやすい。人権三法という呼称は法令上の正式名称ではないが、地方公共団体の人権啓発資料などでも使われている。

人権三法とは何か

人権三法とは、次の3つの法律を指す。

  • 障害者差別解消法
  • ヘイトスピーチ解消法
  • 部落差別解消推進法

3法はいずれも2016年に施行された。ただし、内容や法的性格は同じではない。障害者差別解消法は、行政機関や事業者の具体的な対応義務に踏み込んでいる。ヘイトスピーチ解消法と部落差別解消推進法は、罰則によって差別を直接処罰するというより、国や地方公共団体の相談、教育、啓発などの施策を進める法律としての性格が強い。

そのため、人権三法を理解する際には、「差別を罰する法律かどうか」だけで見ると分かりにくい。むしろ、社会の側に差別解消の基準を示し、行政や事業者、学校、地域社会が対応を進めるための制度的な土台を作った法律群と見る必要がある。

障害者差別解消法

正式名称と施行時期

1つ目は、障害者差別解消法である。正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」。2013年に成立し、2016年4月1日に施行された。

この法律は、障害のある人に対する「不当な差別的取扱い」を禁止し、障害のある人から社会的障壁の除去を求める意思表示があった場合に、負担が過重でない範囲で必要な対応を行う「合理的配慮」を求める法律である。

2024年4月1日からは、事業者による合理的配慮の提供も義務化された。これにより、行政機関だけでなく、店舗、交通機関、学校、企業、サービス提供者なども、障害のある人との対話を通じて必要な対応を検討することが明確になった。

施行当日の大臣会見での説明

施行当日の2016年4月1日、加藤勝信内閣府特命担当大臣(当時)は記者会見で、同法に基づき、国・地方公共団体の機関や事業者には、障害のある人への不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供が求められると説明した。

会見では、内閣府がフォーラムの開催、リーフレットやポスターの作成、事業者団体への周知依頼を進めてきたことにも触れている。合理的配慮等の具体例を集めた「合理的配慮サーチ」の公開も紹介され、法律の施行は、理念の提示にとどまらず、行政と事業者に具体的な周知と実務対応を迫る出発点として受け止められていた。

合理的配慮とは何か

障害者差別解消法の特徴は、差別を「悪意のある行為」だけに限定していない点にある。車いす利用者の入店を一律に断る、障害を理由にサービス提供を拒む、正当な理由なく他の利用者と異なる条件を付けるといった扱いは、不当な差別的取扱いに当たり得る。

合理的配慮は、すべての要望を無条件に実現することではない。本人と事業者・行政機関が建設的に対話し、目的、費用、事業規模、安全性、代替手段などを踏まえて対応を探る仕組みである。

同法は、障害のある人を特別扱いする制度ではなく、社会の側にある利用しにくさを具体的に取り除くための法律といえる。

ヘイトスピーチ解消法

正式名称と施行時期

2つ目は、ヘイトスピーチ解消法である。正式名称は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」。2016年6月3日に施行された。

この法律は、日本以外の国や地域の出身者、またはその子孫で、適法に日本に居住する人々に対する不当な差別的言動の解消を目的としている。法務省は、ヘイトスピーチ解消法が「本邦外出身者」に対する「不当な差別的言動は許されない」と宣言する法律であると説明している。

施行時の政府側の受け止め

施行前日の2016年6月2日、岩城光英法相(当時)は閣議後記者会見で、ヘイトスピーチ対策法が翌3日に施行されることを踏まえ、法の趣旨に沿った取組を進める考えを示した。

当時、街頭での差別的言動や排斥的なデモが社会問題となり、国会審議でも、表現の自由との関係、禁止規定や罰則を設けるかどうか、地方公共団体の役割が議論された。同法は、罰則を置く直接規制ではなく、まず国が「許されないもの」と明示し、相談、教育、啓発を進める枠組みとして成立した。

罰則がない法律という特徴

ヘイトスピーチ解消法は、罰則を置いていない。そのため、同法だけで個々の発言を直ちに刑事処罰する仕組みにはなっていない。ここは誤解されやすい点である。

同法の役割は、国と地方公共団体に対し、相談体制の整備、教育、啓発などの取組を進める根拠を与えることにある。実際には、この法律の施行後、街頭での差別的言動への対応、公共施設利用の取扱い、インターネット上の投稿への啓発など、地方公共団体や法務省の人権擁護機関の取組が進められてきた。

差別的言動の被害を受けた人が、地域で安心して生活できる環境をどう確保するかが、同法の実務上の中心になる。

部落差別解消推進法

正式名称と施行時期

3つ目は、部落差別解消推進法である。正式名称は「部落差別の解消の推進に関する法律」。2016年12月16日に公布・施行された。

同法は、現在もなお部落差別が存在し、情報化の進展に伴って部落差別の状況に変化が生じていることを踏まえ、部落差別のない社会を実現することを目的としている。

国には相談体制の充実、教育・啓発、実態調査などを進める責務が定められ、地方公共団体にも、地域の実情に応じた相談体制の充実や教育・啓発に努めることが求められている。法務省は同法第6条に基づき、部落差別の実態に係る調査を実施し、2020年6月に調査結果を公表している。

議員立法として成立した法律

部落差別解消推進法は、内閣提出法案ではなく議員立法として成立した。施行当時の政府側の説明は、個別の大臣会見で大きく打ち出されたというより、法律そのものの目的規定や附帯決議、法務省の啓発資料を通じて整理されてきた性格が強い。

大阪市などの地方公共団体は、同法の制定背景として、特定の地域を同和地区である、又はあったと摘示する情報が掲出されるなど、インターネット上の差別書込みが発生していることを挙げている。

施行後の部落差別対策は、従来の結婚・就職差別への対応に加え、ネット上の地名摘示、個人攻撃、差別情報の拡散への対応を抜きに語れなくなった。

インターネット上の差別との関係

部落差別解消推進法を理解する上で重要なのは、インターネット上の差別との関係である。部落差別は、かつては結婚や就職、地域社会での偏見として問題化することが多かった。

現在はそれに加え、特定地域を同和地区と指摘する投稿、個人や地域を攻撃する書込み、差別情報の拡散など、情報化に伴う被害が論点になっている。同法が「情報化の進展」に言及しているのは、部落差別が過去の問題ではなく、デジタル空間で形を変えて残っていることを示している。

法務省のインターネット人権相談受付窓口や人権侵犯事件の調査・救済手続は、こうした被害への相談先となる。

人権三法に共通する考え方

人権三法には共通点がある。第1に、いずれも「差別は許されないもの」という基本的な認識を法律の形で示している。第2に、国や地方公共団体に対して、相談、教育、啓発、情報収集などの施策を進める役割を定めている。第3に、被害が起きた後の救済だけでなく、差別を生まない環境整備を重視している。

一方で、3法の性格は同じではない。障害者差別解消法は、行政機関や事業者の具体的な対応義務に踏み込んでいる。ヘイトスピーチ解消法と部落差別解消推進法は、理念法・施策推進法としての性格が強く、罰則による直接規制よりも、国や地方公共団体の取組を通じて差別の解消を図る構造になっている。

施行後に社会はどう変わったか

障害者差別解消法と合理的配慮の広がり

施行後の社会の変化を見ると、3法はそれぞれ異なる形で制度運用を動かしてきた。

障害者差別解消法では、2024年4月1日から事業者による合理的配慮の提供が義務化され、民間企業、店舗、教育機関、交通機関などで「配慮をどう提供するか」が実務課題になった。2025年4月からは、障害者差別に関する国の相談窓口「つなぐ窓口」も本格運用され、障害者本人、事業者、地方公共団体からの相談を適切な窓口につなぐ仕組みが整えられている。

合理的配慮は、法律の専門用語から、接客、採用、教育、交通、行政手続の現場で使われる言葉へと広がった。

ヘイトスピーチ解消法と条例化の動き

ヘイトスピーチ解消法の施行後は、地方公共団体の条例化が進んだ。大阪市は国法に先行してヘイトスピーチへの対処に関する条例を施行し、その後、東京都、大阪府、川崎市、沖縄県などでも、拡散防止措置、公表、公の施設利用の基準、差別的言動の禁止などを定める制度が作られている。

とくに川崎市条例は、一定の要件の下で罰則規定を置くなど、国法が理念法にとどまった部分を地方制度で補う試みとして注目された。もっとも、街頭での過激なデモが減ったとしても、インターネットやSNS上では差別的言動が形を変えて続いており、法の効果は「なくなったか」ではなく「どこに移ったか」も含めて見る必要がある。

部落差別解消推進法とネット上の差別

部落差別解消推進法の施行後は、国による実態調査、地方公共団体の啓発、相談窓口の整備が進んだ一方、インターネット上の差別情報への対応がより大きな課題となった。

特定地域を同和地区と指摘する情報の公開、動画サイトや掲示板での差別的投稿、個人名や地域名と結び付けた攻撃は、削除依頼や人権相談だけでは追いつきにくい場合がある。

部落差別解消推進法は、同和対策事業後の部落差別を、行政施策として改めて扱う根拠を示した。ただし、罰則や包括的な差別禁止規定を持たないため、救済の実効性をどう高めるかは施行後も残された論点である。

人権三法だけで救済は完結しない

人権三法をめぐっては、「罰則がないから弱い」という見方と、「まず差別を許さないという社会的基準を法律で明示した点に意味がある」という見方がある。

制度として見ると、3法はいずれも単独で完結するものではない。民法上の不法行為、刑法上の名誉毀損・侮辱・脅迫、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく削除申出や発信者情報開示、労働関係法令、学校・福祉・行政分野の個別制度と組み合わせて機能する。

人権三法は、差別問題に対する「入口」と「行政施策の土台」を作る法律であり、実際の救済では他の制度との接続が欠かせない。

相談先をどう使い分けるか

実務上は、相談先を間違えないことも大切になる。障害を理由とする差別や合理的配慮の不提供については、国の「つなぐ窓口」や法務省の人権相談が入口になる。

ヘイトスピーチや部落差別、インターネット上の差別書込みについては、法務省の人権相談、インターネット人権相談受付窓口、違法・有害情報相談センターなどを使い分ける必要がある。

差別的投稿の削除、発信者情報開示、損害賠償請求を検討する場合は、証拠保全や法律専門家への相談も関係する。人権三法は、法律名を知るだけでなく、被害が起きた時にどの制度につなげるかまで理解しておく必要がある。

人権三法を理解する意味

人権三法は、2016年に相次いで施行された差別解消のための制度的基盤である。障害者差別解消法は合理的配慮の実務を動かし、ヘイトスピーチ解消法は本邦外出身者に向けられた不当な差別的言動を許さない基準を示し、部落差別解消推進法は情報化の中で変化する部落差別への対応を国と地方公共団体に求めている。

施行から時間が経過する中で、3法は相談窓口、条例、事業者対応、ネット上の投稿対策に影響を及ぼしてきた。条文だけで社会を変えるものではないが、相談、教育、啓発、窓口整備、削除対応、被害救済の運用を通じて、差別をめぐる社会の基準を少しずつ変えてきた法律群である。

出典

e-Gov法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000065/

e-Gov法令検索「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC0100000068

e-Gov法令検索「部落差別の解消の推進に関する法律」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC1000000109

内閣府「加藤内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成28年4月1日」
URL:https://www.cao.go.jp/minister/1510_k_kato/kaiken/2016/0401kaiken.html

政府広報オンライン「事業者による障害のある人への『合理的配慮の提供』が義務化」
URL:https://www.gov-online.go.jp/article/202402/entry-5611.html

内閣府「障害者差別に関する相談窓口『つなぐ窓口』」
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_tsunagu.html

法務省「ヘイトスピーチ、許さない。」
URL:https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html

一般財団法人地方自治研究機構「ヘイトスピーチに関する条例」
URL:https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/001_hatespeach.htm

法務省「部落差別(同和問題)を解消しましょう」
URL:https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00127.html

大阪市「『部落差別解消推進法』について」
URL:https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000523431.html

情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト
URL:https://www.isplaw.jp/

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