1.2026年4月1日時点で、児童相談所を設置する84自治体のうち83自治体、97.6%が意見表明等支援を実施している。2024年4月の58.2%から全国への導入が急速に進んだ。
2.意見表明等支援員は児童相談所の代わりに決定する人ではなく、子どもが自分の意見を形づくり、希望すれば児童相談所や施設などへ伝えることを支える。独立性を確保するため、児童相談所や施設、里親自身が支援員を担うことは想定されていない。
3.子どもの希望がそのまま行政判断になる制度ではない。児童相談所などには、子どもの意見を最善の利益とともに検討し、異なる結論となった場合を含め、結論と理由を本人へ説明する運用が示されている。

84自治体中83自治体へ 2年間で導入が大きく拡大
こども家庭庁が2026年9月3日に掲載した「意見表明等支援事業の実施状況等について」によると、同年4月1日時点で、児童相談所を設置する84自治体のうち81自治体が国の「こどもの権利擁護環境整備事業」を活用し、2自治体が独自事業として意見表明等支援を実施していた。実施済みは計83自治体、97.6%に達する。残る尼崎市も2026年度中の実施を予定または検討しており、「実施を検討していない」と回答した自治体はなかった。
制度開始時と比べると広がりは大きい。2024年4月1日時点では児童相談所設置79自治体のうち46自治体、58.2%だった。2025年4月には82自治体中75自治体、91.4%となり、2026年4月には97.6%まで上昇した。児童相談所設置自治体そのものが79、82、84と増えているため、同一の自治体群を追った単純な経年比較ではないものの、法定化から2年間で全国的な実施体制がほぼ整ったことは確認できる。
ここで次の課題になるのは「何自治体が事業を持っているか」だけではない。子どもがその仕組みを知っているか、必要なとき実際に支援員へアクセスできるか、伝えた意見に対して児童相談所や施設側から説明が返されるかという、利用段階の実効性である。
2024年施行の改正児童福祉法 「聴く」だけでなく支援する制度へ
意見表明等支援事業は、2022年6月に成立した改正児童福祉法によって法定化され、2024年4月から制度として始まった。
改正法では、施設入所等の措置や一時保護の決定など、子どもの生活を大きく左右する場面で「意見聴取等措置」が導入された。児童福祉法は、児童の年齢や発達の程度に応じてその意見を尊重し、最善の利益を優先して考慮することを定めている。こども家庭庁は、その趣旨を実現するには、意見を述べる機会を設けるだけでなく、意見表明自体を支援する仕組みが必要だとしている。
この二つは似ているが、役割が異なる。
「意見聴取等措置」は、児童相談所長や都道府県知事などが措置や一時保護を決める際、子どもの意見・意向を把握するために行う手続である。これに対して「意見表明等支援事業」は、子ども自身が考えていることを整理し、表現し、必要であれば児童相談所や施設などへ伝えられるよう第三者が支援する仕組みである。
つまり、「児童相談所の職員が子どもにどうしたいかを尋ねる」ことと、「児童相談所とは異なる立場の人が、子どもが本当に言いたいことを言えるよう支える」ことを分けた制度設計になっている。
支援員は「子どもの代わりに答えを決める人」ではない
意見表明等支援員の役割について、こども家庭庁の養成ガイドラインは大きく二つに整理している。一つは、子どもが自分の考えや気持ちを整理する「意見形成支援」。もう一つは、子どもの意見・意向を把握し、本人の希望に応じて行政機関、児童福祉施設、里親などへの意見表明を支援したり、代わって伝達したりする「意見表明等支援」である。必要に応じ、最初の意見表明後に改めて意思を伝えることも支援する。
これは、支援員が「この子にとっては施設より里親がよい」「家庭へ戻すべきではない」と自ら判断して主張する仕組みとは異なる。
例えば、子どもが「家に帰りたい」と話していても、その背景には「施設で嫌なことがある」「きょうだいと離れたくない」「親が心配」「学校を変わりたくない」といった複数の思いが含まれている場合がある。逆に、本人がすぐには言葉にできないこともある。支援員には、結論を誘導するのではなく、子ども自身が何を感じ、何を望んでいるのかを整理できるよう支える役割がある。
こども家庭庁のガイドラインも、意見表明等支援員を「こどもの立場に立つ」存在とし、本人が望む場合にその意見を関係機関へ伝える役割を示している。アドボカシーは、大人が子どもにとっての「正解」を決めることではなく、子ども自身が意思形成と意思表明の主体になるための支援と整理できる。
なぜ児童相談所や施設の職員だけでは足りないのか
2026年のこども家庭庁資料は、意見表明等支援員について、独立性の確保という理由から、児童相談所、施設、里親・ファミリーホーム自身が担うことは想定していないと明記している。支援員には弁護士、社会福祉士などの専門職だけでなく、社会的養護経験者、市民など多様な人材を想定する。
児童相談所や施設の職員が子どもの話を聴く必要がないという意味ではない。むしろ日常的に子どもの意向を把握する責任は残る。それとは別に、子どもの生活場所や親子関係などについて決定する側とは一定の距離を持つ支援者を置くことに制度上の意味がある。
一時保護された子どもにとって、児童相談所は自分を保護した機関であると同時に、今後家庭へ戻るのか、施設や里親家庭で暮らすのかといった生活上の重大な判断にも関与する。施設で暮らす子どもが施設職員への不満を伝えたい場合もある。その相手だけが意見を聴き取る仕組みでは、言いたいことを率直に話しにくい場面が生じ得る。
このため国は、電話、はがき、SNSなど複数のアクセス方法を用意し、外部団体への委託を含めて事務局体制を整え、子どもが意見を述べやすい場所や雰囲気にも配慮するよう自治体に示している。
「子どもの言うとおりにする権利」ではない
意見表明権について誤解しやすいのが、子どもが希望を述べれば、その希望どおりの決定をしなければならないのかという点である。
子どもの権利条約第12条は、自分の意見を形成する能力のある子どもに、自分に影響するすべての事項について自由に意見を表す権利を保障し、その意見を年齢と成熟度に応じて相応に考慮すると定めている。行政上・司法上の手続についても、直接または代理人などを通じて聴取される機会を与えるとしている。
したがって、意見表明権は「希望した結果を得られる権利」と同じではない。
児童虐待が疑われ、安全確保のため家庭復帰が難しい場合などには、「家に帰りたい」という本人の希望と異なる判断が必要になることもある。重要なのは、子どもの意見を形式的に聴いて終えるのではなく、その意見を判断材料として検討することにある。
2026年のこども家庭庁資料も、子どもが意見を表明した場合、児童相談所などの関係機関がその意見・意向について「こどもの最善の利益」を考慮して組織的に検討し、結論と、その結論に至った理由を子どもへ十分に説明する制度とするよう自治体に求めている。
子どもの希望を採用できない場合ほど、「なぜそう決めたのか」というフィードバックが重要になる。何を話しても結果も理由も知らされなければ、制度上は意見を聴いていても、本人から見れば「言っても何も変わらない」という経験になりかねない。
制度導入前から「人材確保」が最大の課題
意見表明等支援制度は、支援員の人数を用意すれば機能するわけでもない。
こども家庭庁の養成ガイドラインには、制度化前に全国の都道府県と児童相談所設置自治体を対象に行われた調査結果が掲載されている。意向表明支援の仕組みを構築する上での課題を尋ねた複数回答の調査では、56自治体のうち69.6%が「仕組みの構築に必要な人材の養成や確保」を挙げ、最も高い割合となった。「子どもが利用しやすい方法・手段」「子どもの権利擁護の啓発や理解の促進」も62.5%だった。
2026年4月には実施自治体が97.6%となったため、制度の有無という第一段階の地域差は大幅に縮小した。しかし、この数字だけでは、支援員が何人在籍しているのか、子どもが依頼してからどの程度で会えるのか、同じ支援員を継続して利用できるのか、幼い子どもや障害のある子どもの意思をどう把握しているのかまでは分からない。
こども家庭庁も2026年資料で、多様な属性・強みを持つ支援員を養成・確保し、子どもが利用を希望した場合にニーズに合わせて速やかに対応できる体制を整えるよう示している。制度の全国展開が進んだことで、今後は「設置率」だけでは捉えられない支援の質が検証対象になる。
2019年、国連は日本に「意味のある参加」を勧告
制度改正の背景には、国際的な子どもの権利保障との関係もある。
1989年に採択された子どもの権利条約は、第12条で意見表明権を定めている。日本は1994年に条約を批准したが、国連子どもの権利委員会は2019年の日本に対する総括所見で、子どもが自由に意見を表明する権利が十分に尊重されていないことに懸念を示した。家庭、学校、代替的養護、医療、司法・行政手続、地域社会などで、年齢による制限を設けず、子どもの意見が適切に考慮される仕組みを強化するよう勧告している。
国内でも、2023年4月施行のこども基本法は、すべてのこどもについて、年齢や発達の程度に応じ、自分に直接関係するすべての事項について意見を表明する機会を確保し、その意見を尊重して最善の利益を優先して考慮することを基本理念に盛り込んだ。
児童福祉法の意見表明等支援は、こうした原則を、特に行政の関与が大きい児童相談所、一時保護、社会的養護の場で具体化する仕組みの一つである。
面会・通信制限にも対象拡大 2025年改正法
意見表明等支援が関係する場面も広がっている。
2025年4月18日に成立した改正児童福祉法では、一時保護中の子どもについて、虐待をした疑いのある保護者との面会や通信を制限するための規定が整備された。これに伴い、面会・通信制限を行う場合や解除する場合も意見聴取等措置の対象となり、意見表明等支援事業を利用できる場面に加わった。
こども家庭庁は運用に際し、面会・通信を制限する、あるいは解除するという結論を前提に子どもの意見を聴くのではなく、本人が保護者との面会・通信をどう考えているかを率直に表明できるようにすることを示している。低年齢や障害などにより言葉で意見を表すことが難しい子どもについては、表情や身振りなどから意向をくみ取ることも含まれる。
これは、意見表明を「言葉で希望を言える子どもだけの制度」にしないために重要な点である。本人の安全確保と本人の希望が一致しない場合にも、意見を聴く過程そのものを省略してよいことにはならない。
97.6%の次に問われる「子どもが実際に使えるか」
2024年4月の制度化から2年で、意見表明等支援は児童相談所設置自治体の97.6%まで広がった。全国的な制度基盤の整備という点では、大きく前進した段階にある。
ただし、意見表明等支援の目的は「支援事業を実施している」と自治体が回答できる状態をつくることではない。子どもが制度の存在を知り、児童相談所や施設とは異なる立場の人に安心して話し、その意見が決定過程で検討され、最後に結果と理由を知らされるところまで機能して初めて、意見表明を支える一連の仕組みとなる。
こども家庭庁は2024年度以降、都道府県社会的養育推進計画の評価に際し、単なる事業実施の有無だけでなく、社会的養護下にある子どものうち「日頃から意見を表明できるこどもの割合及び満足度」を把握する方向を示している。
2026年4月時点で残る尼崎市も年度内の実施を予定または検討している。全国の「設置率」が100%に近づいた後は、支援員へのアクセス、独立性、人材養成、意見へのフィードバック、そして子ども本人の利用実感をどのように測るかが、意見表明等支援制度を検証する具体的な指標となる。
こども家庭庁「意見表明等支援事業の実施状況等について(令和8年4月1日現在)」
URL: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/76aaf367-76f1-4669-be9c-91358699f0a5/5b96110c/20260903_councils_jisou-kaigi_r08_38.pdf
こども家庭庁「意見表明等支援事業の実施状況等について(令和7年4月1日現在)」
URL: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/12d7a0c7-486e-43b7-ad4a-ad2c098d2f38/a23205e1/20250909_councils_jisou-kaigi_r07_25.pdf
こども家庭庁「意見表明等支援事業の実施状況等について(令和6年4月1日現在)」
URL: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0f4a703f-3401-41d8-a066-f6359f892b8d/eb81f2a1/20241211_councils_jisou-kaigi_r06_52.pdf
こども家庭庁「令和4年6月に成立した改正児童福祉法について」
URL: https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/Revised-Child-Welfare-Act
こども家庭庁「意見表明等支援員の養成のためのガイドライン」
URL: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a7fbe548-4e9c-46b9-aa56-3534df4fb315/624bb980/20240401_policies_jidougyakutai_Revised-Child-Welfare-Act_40.pdf
こども家庭庁「こどもの権利擁護スタートアップマニュアル」
URL: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a7fbe548-4e9c-46b9-aa56-3534df4fb315/8000f947/20240401_policies_jidougyakutai_Revised-Child-Welfare-Act_38.pdf
こども家庭庁「児童の権利に関する条約 全文」
URL: https://www.cfa.go.jp/policies/international/convention/text
こども家庭庁「児童の権利に関する条約」
URL: https://www.cfa.go.jp/policies/international/convention
こども家庭庁「令和7年4月に成立した改正児童福祉法について(児童虐待防止対策関係)」
URL: https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/Revised-Child-Welfare-Actr7
児童福祉法とは
URL: https://jinken-news.com/glossary/jido-fukushi-ho/
社会的養護とは
URL: https://jinken-news.com/glossary/social-care-for-children/
子どもの権利条約とは
URL: https://jinken-news.com/glossary/kodomo-no-kenri-joyaku/

