高齢者施設虐待1220件 被虐待者22%に身体拘束

この記事のポイント

1.2024年度に養介護施設従事者等による虐待と判断された事例は1,220件で、前年度から8.6%増えた。
2.虐待事例で特定された高齢者2,248人のうち495人、22.0%に「身体拘束あり」と報告された。
3.家族の同意や人手不足だけでは身体拘束を正当化できず、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三要件をすべて満たす必要がある。

高齢者施設虐待

厚生労働省が公表した2024年度の高齢者虐待調査で、介護施設や介護サービス事業所の従事者による虐待と判断された事例は1,220件となり、前年度の1,123件から97件、8.6%増えた。相談・通報は3,633件だった。虐待事例で本人を特定できた高齢者2,248人では、身体的虐待が1,149人で51.1%を占め、「身体拘束あり」は495人、22.0%だった。虐待判断件数は2006年度の54件から増加を続けており、2024年度は過去最多となった。

身体拘束は、ベッドや車いすに身体を固定する行為だけではない。厚生労働省は、ミトン型の手袋で手指の動きを制限する、立ち上がれない椅子を使う、つなぎ服で脱衣を防ぐ、向精神薬を過剰に使用して行動を抑える、自分では開けられない居室に隔離するといった行為も例示している。介護サービスでは本人や他の利用者の生命・身体を守るための「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束等は原則として禁止される。

例外となるのは、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三要件をすべて満たす場合である。生命や身体が危険にさらされる可能性が著しく高く、拘束以外の方法がなく、必要最小限の時間に限られることを、担当職員だけではなく組織として確認しなければならない。厚生労働省の手引きは、三要件を満たすケース自体が「極めて少ない」としている。家族への説明も必要だが、家族の同意は身体拘束を認める根拠にはならない。転倒を心配する家族が拘束を希望した場合でも、施設側には代替手段を検討する責任が残る。

規制対象も広がった。2024年4月から訪問・通所系サービスなどにも身体的拘束等の原則禁止と実施時の記録が義務づけられ、2025年4月には短期入所・多機能系サービスで、身体的拘束等適正化検討委員会の開催、指針の整備、職員研修が義務化された。未実施の場合は基本報酬の減算対象となる。施設系・居住系サービスでは既に同様の減算制度があり、身体拘束防止は個々の職員の倫理だけではなく、事業所の運営管理上の義務として扱われている。

それでも虐待事例が増えている背景を、単純に職員個人の資質だけに帰すことはできない。2024年度調査で虐待の発生要因として最も多かったのは「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」の926件、75.9%で、「職員の倫理観・理念の欠如」785件、「職員のストレス・感情コントロール」763件、「職員の指導管理体制が不十分」755件も挙げられた。虐待が認められた1,220件のうち214件では過去にも虐待事例が発生していた。研修や委員会を設置しただけでなく、拘束開始の理由、試した代替手段、解除予定時期を記録し、継続の必要性を再検討できているかが制度運用の核心となる。厚生労働省と自治体には、2025年4月から対象を広げた身体拘束防止措置が実際の拘束件数減少につながったかを、次年度以降の調査で検証する必要がある。

出典

厚生労働省「令和6年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67817.html

厚生労働省「令和6年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果(資料1)」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001658155.pdf

厚生労働省「身体拘束廃止・防止の手引き」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf

厚生労働省「高齢者施設等における高齢者虐待防止措置及び身体的拘束等の適正化のための措置の徹底並びに周知に関する取組の実施について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001366831.pdf

人権ニュース編集部

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