1.こども性暴力防止法が2026年12月25日に施行され、学校や保育所などで性犯罪歴の確認と性暴力防止措置が義務化される。
2.学習塾やスポーツクラブなどは認定制度の対象となり、事業者の義務と認定の有無によって制度の適用関係が異なる。
3.性犯罪歴の確認には対象期間や犯罪の範囲に限界があり、子どもの相談体制、被害の早期把握、従事者のプライバシー保護を含む総合的な対策が必要となる。

12月25日施行、こども家庭庁が監督指針を策定
こども家庭庁は2026年10月1日、「こども性暴力防止法」に基づく監督等指針を策定し、都道府県知事や指定都市・中核市の市長に通知した。12月25日の施行を控え、学校や保育所、民間教育事業者などによる性犯罪歴の確認、安全確保措置、個人情報の管理が適切に行われているかを国が監督する際の基準を示したものだ。9月には施行ガイドラインも改訂され、職員研修の受講時期や事業者の認定情報の公表範囲が整理された。
同法の正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」。2024年6月19日に成立し、同月26日に公布された。英国のDisclosure and Barring Service(DBS)を参考にした性犯罪歴確認制度が設けられることから、「日本版DBS」と呼ばれている。ただし、法律の対象は性犯罪歴の確認だけではない。子どもに対する性暴力の未然防止、早期把握、被害発生時の対応、被害を受けた子どもの保護と支援まで含む制度となっている。
学校・保育所は義務、学習塾やスポーツクラブは認定制
制度の適用範囲は、事業者によって異なる。学校、幼稚園、認可保育所、認定こども園などの学校設置者等には、法律に基づく措置が義務付けられる。これに対して、学習塾、スポーツクラブ、習い事などの民間事業者は、国の認定を受けることで、性犯罪歴の確認を含む制度の対象となる。
この違いは、保護者が施設やサービスを選択する際にも関係する。こども家庭庁は、義務対象事業者が表示できる「法定事業者マーク」と、認定を受けた民間事業者が表示できる「認定事業者マーク」を用意した。ただし、マークの表示だけで性暴力が発生しないと保証されるわけではない。制度に従った確認や研修が行われていても、日常的な職員管理や相談への対応に問題があれば、被害を防げない可能性が残る。
性犯罪歴の確認には期間と対象犯罪の限界
日本版DBSの中心となる「犯罪事実確認」は、教職員などが一定の性犯罪について有罪判決を受けた前科の有無を、国を通じて確認する制度である。
確認対象となる期間は、拘禁刑の実刑については刑の執行終了等から20年、執行猶予付きの拘禁刑については判決確定等から10年、罰金刑については刑の執行終了等から10年である。対象犯罪には、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪、児童買春などが含まれ、被害者が成人である性犯罪も一定の範囲で対象となる。
義務対象の事業者は、原則として新たに対象業務に就く人について業務開始前に確認する。施行時点で既に勤務している人については、施行後3年以内に確認を行う経過措置が設けられた。継続勤務者については、おおむね5年ごとの再確認も必要になる。
しかし、制度が把握できるのは、法律で指定された犯罪について一定期間内に有罪が確定した前科である。被害が申告されていない事案、刑事事件として立件されていない事案、起訴されなかった事案などを網羅できるわけではない。
したがって、「確認対象となる前科がない」という結果は、その人物が子どもに性暴力を行う危険性がないことの証明ではない。 この区別を曖昧にすると、性犯罪歴の確認を終えた職員への警戒や組織的な安全対策が緩むおそれがある。
既存の教員データベースと何が違うのか
日本には、教員による性暴力を防止するための制度が既に存在する。
2022年4月に施行された「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」では、児童生徒への性暴力を理由に教員免許状が失効または取上げとなった人の情報を管理する仕組みが設けられた。
文部科学省が運用する特定免許状失効者等データベースは、2023年4月に稼働を開始した。2026年4月1日時点の登録件数は2,918件、システム利用者登録件数は10,420件となっている。教員を採用する際には、採用権者がデータベースを活用することが義務付けられている。
この制度は、教員免許状の失効等に関する情報を扱う点に特徴がある。これに対し、日本版DBSは、対象となる性犯罪の前科を確認し、学校や保育所など幅広い教育・保育の現場で防止措置を講じる仕組みである。
両制度は確認する情報も適用対象も異なり、一方が他方を完全に代替するものではない。教員採用では従来のデータベースを含めた制度上の確認が必要であり、日本版DBSの導入によって、既存の確認義務がなくなるわけではない。
子どもの意見表明権をどう保障するか
性犯罪歴の確認に制度への関心が集まるなか、子ども本人が被害や不安を伝えられる仕組みも欠かせない。
子どもへの性暴力では、教員と児童、指導者と選手などの立場の違いが、被害の申告を難しくする場合がある。大人との関係を悪化させたくない、信じてもらえないのではないか、活動を続けられなくなるのではないかといった不安があれば、子どもが被害を訴えることは一層難しくなる。
こども家庭庁の施行ガイドラインは、児童対象性暴力等を早期に把握するための日常的な観察、面談やアンケート、相談・報告の仕組みを重視している。被害の疑いが生じた場合には、調査や被害児童の保護・支援などを行うことも制度の対象となる。
ここで考慮すべきなのが、国連の「児童の権利に関する条約」である。第19条は暴力や虐待からの保護、第34条は性的搾取や性的虐待からの保護を定め、第12条は子どもが自分に関わる事項について意見を表明する権利を保障している。
子どもが相談した際に、大人が一方的に結論を決めたり、本人の希望を確認せず関係者へ情報を広めたりすれば、被害後の対応によって新たな不利益が生じる可能性がある。被害の疑いを把握した場合には、必要な保護や通報を行いながら、本人の発達段階に応じて説明し、意思を確認する必要がある。
従事者のプライバシーと職業選択の自由
性犯罪歴の確認制度には、子どもの安全を確保する目的と、確認を受ける従事者の権利を保護する必要性が併存する。
犯罪歴は、本人の社会生活や就業に重大な影響を及ぼす情報である。これを職場内で不必要に共有したり、法律で認められていない目的に利用したりすれば、プライバシーの侵害や不当な取扱いにつながり得る。
こども性暴力防止法では、犯罪事実確認記録等の目的外利用や第三者提供を原則として禁止し、情報管理体制の整備を義務付けている。こども家庭庁の施行ガイドラインでも、情報にアクセスできる担当者の管理、取扱記録の作成、期限に応じた記録の廃棄・消去などが示された。
事業者が確認結果を扱う際には、法律上の防止措置を講じることと、従事者の情報を不必要に公開することを明確に区別しなければならない。
加えて、性暴力を防ぐための職場管理では、過度な規制によって適切な教育や保育が妨げられないようにする配慮も必要になる。施行ガイドラインは、例えば水泳、バレエ、ダンスなどで、指導上必要な身体接触があり得ることも認めている。
問題となるのは身体接触の存在そのものではなく、教育上の必要性や本人・保護者の理解、発達段階、指導の方法などを踏まえて適切かどうか判断することである。
施行後の監督は何を検証するのか
こども家庭庁が10月1日に策定した監督等指針は、犯罪事実確認、安全確保措置、情報管理措置について、対象事業者が制度を適切に運用しているかを確認するためのものだ。
今回の制度の成果を測る際には、性犯罪歴の確認件数だけでなく、職員研修が実施されているか、子どもからの相談に適切に対応できるか、疑いが生じた場合に組織として速やかに対応できるかを検証する必要がある。
特に、小規模な学習塾やスポーツクラブでは、相談を受ける人と指導者が同じになるなど、相談の独立性を確保しにくい場合が考えられる。保護者や子どもが事業者の内部に相談できない場合を想定し、外部の相談先を周知する仕組みも必要になる。
制度への参加が任意となる民間事業者については、認定の広がり方も検証事項である。国の認定を受けていない施設が直ちに危険であるとはいえないが、保護者が制度の適用状況を正確に把握し、施設を比較できる情報提供は欠かせない。
子どもが安心して学び、活動できる環境を整えるという制度目的に照らせば、事業者マークの有無だけでなく、日々の教育・保育のあり方や被害を訴えた子どもへの対応を評価しなければならない。
2026年12月25日の施行後は、こども家庭庁が犯罪事実確認と情報管理等の適正な実施を監督し、学校や保育所などの所轄庁も関係法令に基づいて監督を担う。10月1日の監督等指針で示された国と所轄庁の役割分担を実務に反映させ、学校、保育施設、民間教育事業者による性暴力防止の取組を継続的に検証できるかが、新制度の実効性を左右する。
出典 こども家庭庁「こども性暴力防止法」
URL:https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/efforts/koseibouhou
出典 こども家庭庁「こども性暴力防止法に係る監督等指針の策定について」(2026年10月1日)
URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/80127231-8582-476e-a6e7-9347e725ed96/269ebd59/20261001_policies_child-safety_efforts_koseibouhou_101.pdf
出典 こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」(2026年9月改訂)
URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/80127231-8582-476e-a6e7-9347e725ed96/abc50df0/20260901_policies_child-safety_efforts_koseibouhou_72.pdf
出典 こども家庭庁「ガイドライン改訂(令和8年9月)の概要」
URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/80127231-8582-476e-a6e7-9347e725ed96/db530b67/20260908_policies_child-safety_efforts_koseibouhou_86.pdf
出典 文部科学省「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等について」
URL:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/mext_00001.html
出典 外務省「児童の権利に関する条約」全文
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html
関連用語 こども性暴力防止法/日本版DBS
URL:https://jinken-news.com/glossary/kodomo-sexual-violence-prevention-law/
関連用語 性暴力
URL:https://jinken-news.com/glossary/sexual-violence/
関連用語 子どもの権利条約
URL:https://jinken-news.com/glossary/kodomo-no-kenri-joyaku/

