性暴力とは、相手の同意のない性的な行為や、性的な言動によって、相手の身体、心、尊厳、性的自己決定を傷つける行為をいいます。刑法上の性犯罪に当たる行為だけでなく、望まない性的接触、性的な画像の撮影・拡散、性的なからかい、立場を利用した性的要求なども含めて考えられます。性暴力を理解するうえでは、性的同意と二次被害の問題も欠かせません。
1.性暴力の意味
性暴力は、相手の意思を無視して行われる性的な行為です。不同意性交、不同意わいせつ、性的な盗撮、画像や動画の拡散、性的な脅し、避妊に協力しない行為、性的な発言による威圧など、形は一つではありません。被害は女性に限らず、男性、子ども、性的少数者にも起こります。
性暴力の中心にあるのは、性的同意の有無です。性的同意とは、性的な行為について、相手が自由な意思に基づいて同意していることをいいます。交際していること、結婚していること、以前に同意したこと、拒否の言葉がなかったことは、当然に同意があったことを意味しません。恐怖、驚き、酔い、薬物の影響、立場の上下関係、経済的依存、断った場合の不利益への不安などによって、同意しない意思を示せない場合もあります。
性犯罪は、性暴力のうち刑罰法規に触れる行為を指します。すべての性暴力が直ちに刑法上の犯罪として処罰されるわけではありませんが、犯罪に当たるかどうかだけで被害の深刻さを判断することはできません。被害者が受ける恐怖、羞恥、混乱、自己責任感、対人関係への影響は、刑事事件化の有無とは別に存在します。
2.制度・法律との関係
日本では、2023年の刑法改正により、強制性交等罪や準強制性交等罪などの枠組みが見直され、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪が設けられました。改正後は、「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」に着目する形で、性犯罪の要件が整理されています。
この改正では、暴行や脅迫だけでなく、心身の障害、アルコールや薬物の影響、睡眠などで意識が明瞭でない状態、予想と異なる事態による恐怖や驚き、虐待による心理的反応、経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力なども、同意しない意思の形成・表明・全うを困難にする要因として問題になります。
性的な画像や動画に関しては、性的姿態等撮影罪などが設けられています。本人の同意なく性的な姿態を撮影すること、撮影された画像を提供すること、拡散することは、被害者の尊厳とプライバシーを大きく侵害します。インターネット上で画像が拡散されると、被害が長期化し、削除や回復が難しくなる場合があります。
被害者支援では、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが全国に設置されています。医療、相談、警察への付き添い、法律相談、心理的支援などにつながる入口となる窓口です。刑事手続を利用するかどうかにかかわらず、被害直後から相談できる支援先があることは、被害の潜在化を防ぐうえでも大きな意味があります。
3.人権上の論点
性暴力の人権上の論点は、被害者の身体の自由、性的自己決定、人格の尊厳、安全な生活が侵害される点にあります。性暴力は、単なる性的なトラブルではありません。相手の意思や境界を無視し、身体や心を支配する行為です。
二次被害も深刻な問題です。二次被害とは、被害後に周囲の言動や制度対応によって、被害者がさらに傷つけられることをいいます。「なぜ逃げなかったのか」「なぜ抵抗しなかったのか」「そんな服装だったからではないか」「本当に嫌だったのか」といった言葉は、被害者に責任を向け、相談や申告をためらわせます。性暴力では、恐怖や混乱で声を出せなかったり、体が動かなくなったりすることがあります。抵抗の有無だけで同意を判断する考え方は、被害の実態を見誤ります。
性暴力は、性別、年齢、障害、立場の上下関係、経済的依存、家庭環境、学校や職場での権力関係と結びついて起こることがあります。上司と部下、教員と学生、支援者と利用者、保護者と子どもなど、断りにくい関係の中では、形式的な同意があったように見えても、実質的には自由な意思決定が妨げられている場合があります。
性暴力への対応では、被害者に落ち度を探すのではなく、加害行為、同意の有無、権力関係、被害後の安全確保を確認する必要があります。相談窓口、医療機関、警察、学校、職場、支援団体が、被害者の意思を尊重しながら、心身の回復と生活再建につながる支援を行うことが、人権上の課題になります。