1.反差別国際運動が、国連特別報告者による「交差性」の報告書を日本語で解説した。
2.人種、性別、年齢、障害、移民資格、カーストなどが重なって生じる固有の差別を世界各地の事例から示した。
3.報告書は各国に、複合差別を明記した法整備、当事者参加、細分化された統計、実効的な救済を勧告した。

反差別国際運動(IMADR)は2026年7月15日、国連の「現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者」を務めるアシュウィニィ・K・P氏の報告書を基に、世界各地の複合的な差別を紹介した。報告書「人種的正義の視点から見た交差性」(A/HRC/59/62)は2025年5月29日付で、同年6月16日から7月11日まで開かれた国連人権理事会第59会期に提出された。IMADRは今回、その内容を日本語で抄訳・解説した。
報告書が扱う「交差性(インターセクショナリティ)」は、人種、性別、年齢、障害、性的指向、移民資格、カースト、社会経済的地位など、二つ以上の差別要因が相互に作用し、固有で複合的な被害を生む状態を捉える枠組みである。例えば、人種差別と性差別を別々に足し合わせるだけでは、人種的少数者の女性が置かれた固有の状況や、既存制度から漏れる被害を説明できない。
IMADRは、ブラジルのアフリカ系の子どもが、年齢と人種、ジェンダー、階級の重なりによって教育資源へのアクセスや学校内の人種的いじめで不利益を受ける例を紹介した。中東のカファーラ制度下では、移民資格を雇用主に結び付けられた家事労働者、とりわけ女性が、労働法制の保護が届きにくい住み込み環境で搾取や性的暴力にさらされる。個別の属性だけでなく、雇用制度、階級構造、歴史的な人種序列を併せて検討しなければ、被害の仕組みは見えにくい。
欧州のロマについては、女性の平均寿命が非ロマ女性より11年短く、クロアチアでは差が15.7年に及ぶとの研究を掲載した。南アジアでは、ダリット女性の70.4%が必要な医療サービスを受けることに困難を抱えるとのデータを挙げる。報告書は、こうした格差を民族やカーストだけに帰さず、性別、貧困、障害、居住地域、医療基盤、司法へのアクセスが結び付いた結果として分析している。
特別報告者は各国に対し、複合差別と交差的差別を明記した包括的な反差別法制、当事者の政策決定への実質的参加、人種・民族・カーストと他の差別要因を組み合わせて把握できる統計、被害の全体を反映した救済を整えるよう勧告した。データ収集は、本人の同意と自己認識を基礎とし、量的統計だけでなく当事者の経験を示す質的情報で補うべきだとしている。植民地主義、奴隷制、カースト抑圧、家父長制が残した構造への補償的正義にも言及した。
この枠組みは、差別相談や政策を属性ごとに分けるだけでは、最も周縁化された人の被害が統計や救済制度から消える可能性を示す。IMADRが紹介したブラジルの子ども、中東の女性家事労働者、欧州のロマ、南アジアのダリット女性の事例は、誰が差別されたかだけでなく、複数の制度と社会構造がどのように重なって被害を生んだかを検証する必要性を示している。

