1.インドネシア・中部ジャワ州ジュパラ県で9月28~30日、教員研修と高校生向けのハンセン病差別防止授業が実施された。
2.約100人の教職員が教育インターナショナルの教材を学び、研修を受けた教員が約300人の高校生に啓発活動を行った。
3.ハンセン病回復者2人も参加し、病気についての正しい知識と、偏見や差別が教育や社会参加に与える影響を伝えた。

インドネシア・中部ジャワ州ジュパラ県で2026年9月28日から30日まで、ハンセン病に関する偏見や差別をなくすための教育活動が実施された。インドネシア教職員組合(PGRI)が、国際的な教職員団体である教育インターナショナル(Education International、EI)の教材を活用し、最初の2日間に約100人の教職員を研修。3日目には、研修を受けた教員が地元の高校を訪れ、約300人の生徒に向けて啓発活動を行った。笹川ハンセン病イニシアチブが現地での活動を視察し、笹川保健財団が10月28日にその内容を報告した。
教員が学び、高校生へ伝える3日間
今回の活動では、教員がハンセン病に関する知識を学んだ後、自ら生徒に伝えるという方法が採用された。
9月28日と29日の教職員研修では、教材を活用した講義やグループワークを実施。参加者はハンセン病の医学的な知識だけでなく、病気への誤解や偏見、差別が学校生活や社会参加に与える影響について学んだ。
研修後のグループワークでは、それぞれの学校で学習内容を実践するためのアクションプランも作成された。知識を得て終わるのではなく、学校でどのように授業や啓発活動に取り入れるかを考える構成となっている。
3日目の9月30日には、研修を受けた教員が市内の高校を訪問し、約300人の高校生に向けて啓発活動を行った。
笹川保健財団によると、医学的な講義を除く講師の大半はPGRIのメンバーが担当した。現職教員が教材を理解し、授業に活用することが、今回の取組の特徴となっている。
教材「Teaching Inclusion, Building Belonging」とは
使用された教材は「Teaching Inclusion, Building Belonging」。日本語では「包摂を教え、居場所を築く」といった意味になる。
教育インターナショナルが笹川保健財団の支援を受けて開発したもので、2026年1月の「ハンセン病当事者に対する偏見と差別をなくすためのグローバルアピール2026」を契機とする取組として作成された。
教材の対象には、教員、教育支援職員、学校管理職、教職員組合関係者などが含まれる。
インクルーシブ教育は、障害やその他の事情によって、こどもが教育から排除されないようにする考え方である。
今回の教材では、ハンセン病に関連する偏見や差別、排除を、教育における障壁の一つとして捉えている。
病気についての正しい知識を学ぶだけでなく、病気を経験した人やその家族が学校や地域社会から排除されない環境を考えることが目的となっている。
教育インターナショナルは2026年9月、教材を公開し、教育現場でハンセン病に関する偏見や差別をなくすための学習に活用できるとしている。
ハンセン病回復者2人が自身の経験を伝える
3日間の活動には、ハンセン病回復者2人も参加した。うち1人は通訳も担当し、パネルディスカッションや質疑応答を通じて、自身の経験や考えを参加者に伝えた。
病気に関する教育では、医学的な説明だけでなく、当事者の経験から社会的な問題を知ることにも意味がある。
例えば、ハンセン病に対する誤解が広がると、病気を経験した人が学校や職場、地域社会で差別を受ける場合がある。家族が偏見の対象となることもある。
こうした不利益は、病気そのものによる健康上の問題とは区別して考える必要がある。
ただし、当事者の経験は全員が同じではない。ある回復者の話が、すべてのハンセン病当事者の経験を代表するわけではないことにも留意が必要である。
今回の取組は、当事者が支援や説明の対象として参加するだけでなく、教育の内容を伝える側として参加した事例でもある。
ハンセン病は治療できる感染症
ハンセン病は、らい菌によって引き起こされる感染症である。
現在は複数の薬を組み合わせる治療法が確立されており、適切な治療によって治癒する病気である。日常生活で容易に感染する病気ではなく、病気にかかったことを理由に本人や家族を隔離したり、学校や地域活動から排除したりする医学的な根拠はない。
ハンセン病をめぐる問題には、病気への医学的な対応と、病気に関係する人々への差別という、二つの異なる課題がある。
医学的な対応には、適切な診断や治療、保健医療サービスへのアクセスなどが含まれる。
差別の問題には、感染への誤解、学校や職場での排除、結婚や地域生活での不利益、家族への偏見などが含まれる。
治療法が確立されていても、社会に残る偏見が自動的になくなるわけではない。そのため、医療と人権教育を組み合わせた取組が行われている。
日本の隔離政策との比較
日本でも、ハンセン病をめぐる深刻な人権侵害の歴史がある。
1953年に制定された「らい予防法」は、ハンセン病患者の療養所への隔離を続ける根拠となり、1996年に廃止されるまで隔離政策が継続された。
隔離政策によって、患者本人だけでなく、その家族も結婚、就職、地域生活などで差別を受けてきた。
2001年の熊本地方裁判所判決では、国の隔離政策をめぐる責任が厳しく問われた。
その後、日本ではハンセン病問題に関する補償や名誉回復、差別防止などの取組が進められてきた。
ただし、日本の隔離政策とインドネシアでの教育活動は、同じ制度や歴史的経過を持つものではない。
比較できるのは、医学的な知識が普及しても社会的な偏見が残ること、当事者や家族が教育や社会参加の機会を妨げられる場合があることなどの人権上の課題である。
ジュパラ県から他地域への展開を検討
今回の活動には、ジュパラ県知事が教職員研修でスピーチを行い、高校生向けの啓発活動には地元教育局の幹部も参加した。
笹川保健財団によると、今後はジュパラ県での取組をほかの地域にも広げ、インドネシア国内での展開を目指すという。
教育インターナショナルが持つ各国の教職員組合ネットワークも活用し、国や地域の状況に応じた啓発活動を検討する。
教材については、ポルトガル語、スペイン語、フランス語、ヒンディー語、インドネシア語への翻訳も予定されている。
今回の活動では、約100人の教職員への研修が、約300人の高校生への啓発活動につながった。教員が学んだ内容を自分の学校で伝える仕組みは、知識を継続的に広める方法の一つとなる。
笹川ハンセン病イニシアチブと教育インターナショナルは、ジュパラ県での経験を踏まえ、各国の教職員組合や教育関係者との協働を進める方針である。病気についての正しい知識と、差別を受けずに学ぶ権利を結びつけた教育活動が、今後の取組の中心となる。
笹川保健財団「教育インターナショナルが教材を開発、インドネシアの教育現場でハンセン病啓発活動を実施」
URL:https://www.shf.or.jp/information/29163
Education International「Teaching inclusion, building belonging」
URL:https://www.ei-ie.org/en/item/32899:teaching-inclusion-building-belonging

