EV用ニッケル調達、人権DDに課題

この記事のポイント

1.国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、EVバッテリー用ニッケルのサプライチェーンに関する報告書を公表した。
2.日本企業11社を対象に調査し、回答を得たのは4社。自動車メーカー6社について、人権デュー・ディリジェンスや救済制度を分析した。
3.脱炭素化を進める過程で、先住民族、地域住民、労働者の権利を犠牲にしない「公正な移行」が論点となる。

公正な移行(Just Transition)に向けたニッケルサプライチェーンの人権課題と日本政府の義務および日本企業の責任

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2026年6月30日、報告書「『グリーン』なEVの陰で」を公表した。副題は「公正な移行(Just Transition)に向けたニッケルサプライチェーンの人権課題と日本政府の義務および日本企業の責任」。電気自動車(EV)用バッテリーに使われるニッケルについて、採掘・精錬段階で報告されている人権リスクと、日本企業・日本政府の対応を検討した。

報告書は、ニッケル採掘をめぐる主なリスクとして、土地収奪や立退きによる生活基盤の喪失、環境汚染や健康被害、先住民族の土地・資源に関する権利侵害、自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)の欠如、劣悪な労働条件、安全衛生上の問題、強制労働の疑いなどを挙げた。2023年の世界のニッケル鉱山生産量は、インドネシアが51%、フィリピンが11%を占めるとされ、日本の自動車産業や商社も、EVバッテリーや重要鉱物の調達を通じて産出国と結び付いている。

調査対象は、日本の自動車メーカーと総合商社の計11社。ヒューマンライツ・ナウは、このうち4社から回答を得たとし、自動車メーカー6社について、アンケート結果や公開資料をもとに分析した。報告書では、多くの企業で、ニッケル特有の人権リスクに関する評価、サプライチェーンの透明性、採掘現場の労働者や地域住民が利用できるグリーバンスメカニズムの整備に課題が残ると指摘している。

制度面では、日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しているものの、人権・環境デュー・ディリジェンスを企業に義務付ける法制度は未整備だとした。これに対し、EUでは欧州バッテリー規則が、コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルなどを対象に、リスク特定、管理体制、第三者検証、情報開示を含むデュー・ディリジェンスを規定している。報告書は、欧州企業のフォルクスワーゲンやBMWが、ニッケルに関するリスク分析や責任ある鉱物調達の仕組みを整えつつある点も比較対象として取り上げた。

人権上の論点は、脱炭素化を「環境に良い技術」としてだけ捉えない点にある。EVの普及は気候変動対策として進められるが、バッテリー原料の採掘地域で、土地、水、健康、労働、安全、先住民族の文化的関係が損なわれれば、別の場所に負担を移すだけになりかねない。消費地である日本の企業が直接採掘していない場合でも、サプライチェーン上でつながる人権リスクを特定し、防止し、被害が生じた場合に救済へつなげる責任は残る。

ヒューマンライツ・ナウは日本政府に対し、人権・環境デュー・ディリジェンスの法制化、独立した国内人権機関の設置、ILO第169号条約の批准と国内法整備を提言した。日本企業には、経営レベルの人権コミットメント、鉱業に特化した人権リスク評価、地域住民や先住民族、非正規労働者なども利用できる救済制度、NGOや労働組合を含むステークホルダーとの対話を求めている。報告書は、EV用ニッケルの調達を、気候変動対策、先住民族の権利、労働者保護、企業責任が交差する課題として提示した。

人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、企業、公益団体、国際機関等が公表する一次情報をもとに、差別、労働、教育、福祉、司法・制度、外国人共生、ビジネスと人権などに関するニュースと解説を発信しています。掲載内容は、出典確認を行ったうえで、制度的背景や人権上の論点を補足して構成しています。

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