障害者雇用「数から質へ」 2,100社調査が示すキャリア形成の壁と中小企業支援

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この記事のポイント

1.厚生労働省は10月21日、障害者雇用納付金の対象を一部の中小企業に広げる案を提示。障害者を初めて雇用する企業への支援強化も議論した。
2.障害者職業総合センターの企業調査では、法定雇用率の達成を重視する一般企業が57.0%だったのに対し、障害者の中長期的なキャリア形成に関する取組には遅れがみられた。
3.2026年7月から民間企業の法定雇用率は2.7%に引き上げ。採用人数の確保だけでなく、能力開発、昇進、賃金、本人の希望を尊重した働き方が制度上の課題となっている。

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障害者雇用制度の見直し、10月21日に中小企業支援を議論

厚生労働省は2026年10月21日、第144回労働政策審議会障害者雇用分科会を開催し、障害者雇用納付金制度の対象拡大と中小企業に対する支援施策の強化を議論した。現行制度では、法定雇用率を達成していない常用労働者100人超の事業主が納付金の徴収対象となる。今回の資料では、対象を80~100人未満の事業主にも広げる案や、約5年間の準備期間を設け、障害者雇用がゼロの事業主から適用を始める考え方が示された。ただし、いずれも審議段階の案であり、制度改正や施行時期が決まったわけではない。

今回の議論が持つ特徴は、障害者を雇用する企業の数を増やすことだけでなく、採用後の職場定着や能力開発まで支援対象として考えている点にある。厚生労働省は企業支援の強化策として、業務の切り出しや再構成に関するノウハウの共有、企業担当者同士のネットワークづくり、障害者雇用相談援助事業の見直しなどを提示した。障害者雇用の経験が少ない中小企業が、採用から定着までを単独で担うことには限界がある。こうした企業を外部から支える仕組みを整備することは、障害者の働く機会を広げる施策と直接結びつく。

民間企業の障害者雇用は70万人超、法定雇用率は2.7%に

障害者雇用の拡大は、国の統計にも表れている。厚生労働省が2025年12月19日に公表した障害者雇用状況によると、2025年6月1日時点で民間企業の雇用障害者数は70万4,610.0人となり、前年から2万7,148.5人、4.0%増加した。この人数は障害者雇用率制度上の算定人数であり、実際に働く障害者の人数とは異なる。2026年版障害者白書では、実人数は約60万1,000人と説明されている。民間企業の実雇用率は2.41%、法定雇用率を達成した企業の割合は46.0%だった。雇用障害者数は増加を続けているが、雇用率を満たしていない企業も半数以上を占めている。

制度面では2026年7月1日、民間企業の法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられた。障害者を1人以上雇用する義務が生じる企業の規模も、常用雇用労働者40.0人以上から37.5人以上に拡大している。法定雇用率の引上げによって、これまで雇用義務の対象外だった企業にも対応が必要となった。ただし、障害者雇用率制度による雇用義務と、未達成の場合の障害者雇用納付金の徴収義務は別の仕組みである。雇用率制度の対象となった企業が、直ちに納付金を支払うわけではない。

障害者を雇用する目的、一般企業と特例子会社に差

障害者雇用の実態を考えるうえで参考になるのが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターが2026年10月に公開した研究成果である。同センターは2026年3月に公表した調査研究報告書No.184の結果を改めて整理し、企業が障害者雇用の質を高めるために行っている取組と、その効果を紹介した。

調査は2024年10~11月に実施され、一般企業2,100社、特例子会社195社から有効回答を得た。さらに2025年2~5月には、一般企業8社、特例子会社5社に対してヒアリングを行っている。特例子会社とは、障害者の雇用に特別な配慮を行う子会社について、一定の要件を満たした場合に、親会社と一体で障害者雇用率を算定できる制度の下で認定された企業を指す。

一般企業の回答では、「法定雇用率の充足を目指している」ことを重視すると答えた割合が57.0%だった。これに対して、障害者が企業の中心的な業務に貢献することを重視すると答えた割合は6.3%、障害者の新たな職域や新規事業の開拓を重視する割合は5.3%にとどまった。

障害者雇用を経営戦略の一つとして重視する一般企業は7.7%だった。一方、特例子会社では、経営戦略や中心的な業務への貢献、新たな職域の開拓などを重視する回答が、項目によって4割弱から6割弱を占めていた。

これらの数字は、一般企業が障害者の能力を評価していないことを直接示すものではない。設問は各項目をどの程度重視するか尋ねたものであり、「やや重視している」と答えた企業も存在する。ただし、法定雇用率の達成を優先する企業と、障害者の能力発揮を経営や業務の発展に結びつけようとする企業では、取組の重点が異なることが分かる。

キャリア形成の仕組み、半数以上の企業で未実施

調査結果で特に特徴的なのが、採用後のキャリア形成に関する取組である。

一般企業では、障害者の能力や特性を把握し、本人に適した業務を割り当てる取組が比較的広く実施されていた。これに対し、個別のキャリアプランや教育訓練計画を作成したことがない企業は61.1%、複数のキャリアパスを提示したことがない企業は63.5%に達した。

障害者が指導役やチームリーダーを経験する機会を設けたことがない企業も65.3%だった。人事評価については、障害のない従業員と共通の昇進・昇格・賞与等の基準を正社員に適用したことがある企業が65.7%だったものの、障害に配慮した評価基準の設定や明確化を実施したことがない企業は71.8%を占めた。

この調査が示しているのは、職場への受け入れと、働き続けながら能力を伸ばすための仕組みとの間に差が存在することである。採用時に本人の障害特性に合った業務を用意することは、職場定着を支える方法の一つとなる。しかし、採用時に担当する仕事が決まった後、その仕事だけを長期間続けることが本人の希望と一致するとは限らない。

障害のない従業員には研修、異動、資格取得、昇進などの機会があるのに対し、障害のある従業員には同様の機会が設けられていなければ、就職後の職業生活に差が生じることになる。

もちろん、すべての従業員が昇進や職務の拡大を希望するわけではない。現在の業務を安定して続けたい人もいる。重要なのは、障害があるという理由だけで本人の能力や将来の希望をあらかじめ限定せず、本人が選択できる職務や働き方を確保することである。

能力開発は職場全体にも効果、企業調査で確認

障害者職業総合センターの調査では、能力開発や人事評価、処遇改善などに取り組んだ企業が、どのような効果を認識しているかも調べている。

一般企業では、「障害者が元々有していた能力を適切に発揮できる機会が増加した」とする肯定的な回答が43.5%、「障害者の業務や職場に対する満足度が向上した」が42.3%だった。「障害者の職業能力やスキルが向上した」は39.7%、「障害者の早期離職が減少した」は38.6%となっている。

これらは企業側が認識した効果であり、障害のある従業員本人への直接調査によって測定された満足度や離職率ではない。また、取組を実施したことによって効果が生じたと、統計的な因果関係まで証明したものではない。

それでも、企業にとって採用後の教育や人事評価が、働く本人の能力発揮と関連する可能性を示す結果となった。

ヒアリング調査では、一定の条件を満たした障害のある従業員が指導役を担い、その役割が給与にも反映される企業や、障害のある従業員が社内副業制度や資格取得支援を利用できる企業の事例も確認された。特例子会社では、人事評価に基づいてトレーナーやリーダーに昇格できる制度、キャリア研修、社内インターンシップ制度などが紹介されている。

障害のある人に仕事を用意するだけでなく、仕事を通じて経験を積み、評価を受け、本人の希望に応じて新たな役割を担えるようにする。こうした取組は、障害のある従業員を特別扱いする制度というよりも、人材育成の機会を障害の有無によらず保障するための方法といえる。

中小企業への納付金拡大案、5年程度の準備期間を提示

10月21日の障害者雇用分科会で議論された納付金制度の見直しは、こうした雇用の質の問題とも関係する。

障害者雇用納付金制度は、法定雇用率を達成していない一定規模以上の企業から納付金を徴収し、障害者を法定雇用数より多く雇用する企業への調整金や、雇用環境整備のための助成などに充てる仕組みである。現行制度では、原則として不足する障害者1人当たり月額5万円の納付金が課される。

この制度は、企業が納付金を支払えば障害者を雇用しなくてよいという制度ではない。企業間の経済的負担を調整し、障害者の雇用機会を確保するための仕組みである。

厚生労働省の10月21日の資料によると、常用労働者100人未満の事業主の実雇用率は、2022年の1.84%から2025年には1.94%へ上昇した。ただし、雇用率未達成企業のうち障害者雇用がゼロの企業は約9割を占め、状況は大きく変化していない。

厚生労働省は、納付金制度の適用対象を80~100人未満の事業主へ段階的に広げることを論点として提示した。検討資料では、受け入れ体制の整備に必要な準備期間として5年程度を例示し、まず障害者雇用がゼロの事業主を対象とする考え方が示されている。

ただし、負担の拡大には異なる見方がある。障害者雇用の機会を広げ、積極的に雇用する企業との公平性を確保するという考え方がある一方、人的余裕の乏しい中小企業に新たな経済的負担を課すことへの懸念も示されている。

特に、採用することだけを優先して十分な支援体制を整えられなければ、企業にも従業員にも負担が生じる。納付金制度の対象拡大を検討する際には、採用した人数だけでなく、定着状況や実際の働き方まで確認する必要がある。

支援する人材も不足、企業同士の連携が検討対象に

今回の厚生労働省の資料では、障害者雇用を支援する機関自体の人材不足も取り上げられた。

障害者の採用や職場定着には、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどが関わっている。ただし、障害者本人への就労支援に加え、企業側が直面する業務設計や職場管理の問題まで、専門機関が十分に支援できるとは限らない。

障害者雇用に関するノウハウを持つ事業者が他の企業を支援する「障害者雇用相談援助事業」は、2024年度から実施されている。しかし、2026年7月末時点で認定事業主は147社にとどまり、地域的な偏りも確認されている。

このため、厚生労働省は10月21日の資料で、企業が共通して直面する課題の解決方法を国が集約することや、障害者雇用担当者同士が地域で情報交換できる仕組みを検討事項として示した。

同事業の助成金については、求人提出時の評価だけでなく、採用後の定着支援に対する評価を強める方向性も挙げられている。支援事業者の認定に当たって具体的な実績を確認することや、ハローワークが支援先企業と認定事業者のマッチングに関わる案も含まれる。

企業が障害者を採用する段階だけでなく、職場で問題が生じたときに相談できることや、本人と職場の双方が働き方を調整できることも、継続的な雇用に関係する。

合理的配慮とキャリア形成は別の問題

障害者雇用の質を考える際には、「合理的配慮」と「能力開発・キャリア形成」の違いを整理する必要がある。

障害者雇用促進法は、事業主に対して障害を理由とする差別を禁止するとともに、過重な負担とならない範囲で合理的配慮を提供することを義務づけている。

合理的配慮とは、障害のある人が働くうえで直面する障壁を取り除くため、本人の状況に応じて必要な調整を行うことである。例えば、聴覚障害のある従業員に対して会議内容を文字で伝えることや、精神障害のある従業員と相談して業務指示の方法を調整することなどが考えられる。

ただし、合理的配慮を提供していることだけで、十分なキャリア形成の機会が保障されているとは限らない。

例えば、障害のある従業員が担当業務を適切に遂行できるよう支援されていても、昇進や配置転換に関する評価基準が本人に示されていなければ、長期的な職業生活の見通しを持ちにくい。

反対に、障害のない従業員と全く同じ評価基準を形式的に適用した結果、障害特性に伴う困難が適切に考慮されず、不利益を受ける場合もある。

必要なのは、本人の能力や業務成果を公正に評価することと、障害に伴う障壁について合理的な調整を行うことを区別し、両立させることである。

障害者職業総合センターの調査で、障害に配慮した評価基準の設定や明確化を実施したことがない企業が71.8%だったことは、こうした人事管理の課題を検討する材料となる。ただし、この数字だけで当該企業が合理的配慮義務に違反していると判断することはできない。

障害者権利条約が定める働く権利

障害者雇用の質は、国内の雇用政策だけでなく国際人権基準とも関係する。

2006年12月に国連総会で採択された障害者権利条約は、第27条で障害者の労働及び雇用について規定している。日本は2014年1月に同条約を批准し、同年2月に国内で効力が生じた。

第27条では、障害者が他の人と平等に労働についての権利を有することを認め、障害者に対して開放され、障害者を包容し、障害者にとって利用しやすい労働市場と労働環境において働く機会を保障することなどを定めている。

条約が扱うのは、障害者の採用人数の増加だけではない。公正で良好な労働条件、同一価値の労働についての同一報酬、安全で健康的な作業条件、労働組合の権利、職業訓練や昇進の機会なども含まれる。

この規定から考えると、障害者雇用率を達成している企業であっても、働く本人が不合理な差別を受けていたり、適切な労働条件が確保されていなかったりすれば、条約が目指す権利保障を十分に実現しているとはいえない。

一方、障害者に対する支援制度が整っている企業でも、採用の機会そのものが極端に少なければ、働く権利を広く保障することは難しい。

障害者雇用の人数を増やすことと、雇用された人の権利を保障することは、異なる政策課題であると同時に、相互に補完する関係にある。

企業が確認できる五つの実務課題

2026年10月の調査研究と厚生労働省の検討資料を踏まえると、企業が障害者雇用の質を確認する際には、次の五つが具体的な点検項目となる。

  • 職務の選択:本人の希望を確認し、能力や障害特性に応じて担当業務を調整できているか。
  • 教育訓練:研修や資格取得、指導役を経験する機会が、障害のある従業員にも開かれているか。
  • 評価と処遇:賃金、昇進、昇格などの基準が明確で、合理的配慮と公正な評価が両立しているか。
  • 職場定着:本人が業務上の困難や将来の希望について相談でき、必要に応じて外部支援機関と連携できるか。
  • 中長期的なキャリア:本人が希望する場合、職務の専門性を高めたり、新たな業務に挑戦したりする選択肢があるか。

これらは新たな法的義務の一覧ではなく、既存の障害者雇用促進法と企業調査の結果から整理した実務上の点検項目である。

障害のある従業員が希望する働き方は、本人の特性、健康状態、生活環境、職業経験などによって異なる。企業が一方的に将来の職務を決めるのではなく、本人と対話しながら仕事の内容や支援方法を見直すことが、個別の状況に合った職場づくりにつながる。

採用人数だけでなく、働き続けられる環境の整備へ

2026年7月の法定雇用率引上げにより、企業には従来以上に障害者の雇用機会を確保する対応が必要となった。10月21日の労働政策審議会障害者雇用分科会では、納付金制度の対象拡大だけでなく、中小企業が採用後の職場定着を実現するための支援策も議論された。

障害者職業総合センターの企業調査が示したのは、雇用率の達成と、能力開発や昇進の機会を保障することとの間に、なお隔たりが存在するという実態である。本人の能力や希望に応じた仕事を用意し、適切に評価し、働き続けられる環境を整えることは、雇用人数の増加とは別に確認すべき課題となる。

2026年10月21日の分科会で提示された制度案は、まだ検討段階にある。厚生労働省が今後進める障害者雇用促進法や納付金制度の見直しでは、中小企業への負担と支援のバランスに加え、採用後の定着、キャリア形成、合理的配慮をどのように企業支援策に反映するかが検討事項となる。

障害者職業総合センターが公表した研究成果は、企業が自社の人事管理や研修制度を点検するための資料として利用できる。法定雇用率に対応する採用計画と、採用後の能力開発・処遇改善を結びつけて考えることが、障害者雇用促進法の理念を実際の職場で具体化する方法となる。

出典

厚生労働省「第144回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料)」(2026年10月20日公表、10月21日開催) URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76825.html

厚生労働省「障害者雇用納付金制度の在り方及び中小企業に対する企業支援の強化について」(第144回分科会資料1) URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001761020.pdf

障害者職業総合センター「障害者雇用の質の向上に向けた企業の取組と効果について」(2026年10月) URL:https://www.nivr.jeed.go.jp/research/advance/koyounoshitsu.html

障害者職業総合センター「企業における障害者雇用の質の向上に向けた取組の現状と課題に関する調査研究」(調査研究報告書No.184、2026年3月) URL:https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku184.html

厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(2025年12月19日) URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67490.html

内閣府「令和8年版障害者白書」 URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r08hakusho/zenbun/h2_03_02_01.html

高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用率制度」 URL:https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003mbma.html

外務省「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」 URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

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