1.2025年6月1日に懲役と禁錮が廃止され、拘禁刑が導入された。2026年6月1日時点の拘禁刑受刑者は5,273人で、全受刑者3万4,875人の15.1%を占める。
2.従来の懲役では刑務作業が刑の内容だったが、拘禁刑では作業を一律に課す構造を改め、24種類の矯正処遇課程を基礎に、作業、改善指導、教育、福祉的支援を組み合わせる。
3.高齢福祉課程は1,897人、知的・発達障害を対象とする福祉的支援課程は1,563人に指定された。制度の評価には、処遇の個別化が実際の社会復帰や再犯防止につながったかを中長期的に検証する必要がある。

拘禁刑受刑者5273人、導入から1年
2025年6月1日に刑法が改正施行され、それまでの「懲役」と「禁錮」は廃止され、「拘禁刑」に一本化された。法務省が2026年6月時点の状況をまとめた資料によると、同年6月1日の拘禁刑受刑者は5,273人で、全受刑者3万4,875人の15.1%を占めた。2025年12月10日時点では1,439人、4.2%だったため、半年弱で3,800人余り増えたことになる。
ただし、現在刑務所にいる受刑者全員が拘禁刑に切り替わったわけではない。拘禁刑が適用されるのは原則として2025年6月1日以降に行われた犯罪で、それ以前の行為には旧刑法の懲役・禁錮が適用される。このため刑事施設では、当面、拘禁刑受刑者と懲役・禁錮の受刑者が併存する。法務省は一方で、拘禁刑導入に合わせて整備した処遇の充実策については、それぞれの刑の趣旨に反しない限り、旧来の懲役・禁錮受刑者にも広く実施するとしている。
最大の変更は「刑務作業がなくなった」ことではない
拘禁刑を理解する上で最も重要なのは、「刑務作業が廃止された」という説明では正確でないことである。
改正前の刑法第12条は、懲役について「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる」と規定していた。作業を行わせること自体が懲役刑の法的な内容だった。これに対し、現在の刑法第12条は、拘禁刑について「刑事施設に拘置する」とした上で、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができると定めている。
つまり変わったのは、作業の有無ではなく作業の法的な役割である。
刑務作業は拘禁刑でも行われる。しかし、すべての受刑者に同じように作業を課すことを出発点とするのではなく、本人の年齢、心身の状態、障害、再犯リスク、更生への準備状況などを調査し、改善更生と社会復帰に必要であれば作業を行い、必要に応じて指導や教育を組み合わせる。刑事収容施設法も、受刑者ごとに矯正処遇の目標、内容、方法を定める「処遇要領」を作成する仕組みを規定している。
24種類の「矯正処遇課程」で受刑者を捉え直す
この変更を具体化するため、法務省は受刑者の集団編成を見直し、24種類の「矯正処遇課程」を設けた。
従来は犯罪傾向の進度などによる分類が処遇の基礎となっていたが、拘禁刑下では、高齢福祉課程、福祉的支援課程、依存症回復処遇課程、若年処遇課程、長期処遇課程、一般処遇課程など、本人の特性や支援の必要性を反映する分類へ改められた。法務省は、再犯リスクだけでなく、改善更生へ取り組む準備性など複数の要素を用いて処遇を決める仕組みを導入している。
2026年6月1日時点では、処遇課程の調査を終えた受刑者3万3,572人のうち、おおむね70歳以上で認知症や身体障害などにより自立した生活が難しい人を対象とする「高齢福祉課程」に1,897人、知的障害や発達障害を有する人などを対象とする「福祉的支援課程(知的障害・発達障害)」に1,563人が指定されていた。
ここで注意したいのは、1,897人や1,563人が「拘禁刑受刑者だけの人数」ではないことである。新しい処遇課程は旧来の懲役・禁錮受刑者にも活用されているため、刑の名称と処遇課程は分けて見る必要がある。
高齢受刑者には作業療法や福祉サービスへの接続
高齢福祉課程は、拘禁刑の変化が最も分かりやすく表れる分野の一つである。
対象は、おおむね70歳以上で、認知症や身体障害などにより自立した生活を送ることが難しい受刑者である。法務省が示した実施例には、作業療法士の助言を受けながら認知機能や身体機能の維持・向上を図る取組がある。従来型の生産作業を一律に行わせるより、出所後の生活を見据えて身体機能を維持する方が必要な受刑者もいるためである。
背景には刑務所内の高齢化がある。法務省の「令和7年版犯罪白書」によれば、2024年の65歳以上の入所受刑者は2,049人で、入所受刑者全体に占める割合は13.8%だった。70歳以上は1,370人で、2005年の597人から約2.3倍に増えている。2024年には65歳以上など2,086人に認知症スクリーニング検査を行い、132人が認知症と診断された。
高齢化した刑務所では、単に規律を守らせて作業をさせるだけでは、出所後の生活に接続できないケースが生じる。歩行、服薬、金銭管理、介護・医療へのアクセスなど、地域生活そのものを成り立たせる支援が必要になるためである。
知的・発達障害を「規律違反」だけで見ない処遇
知的障害や発達障害のある受刑者への対応も変化した。
「福祉的支援課程(知的障害・発達障害)」では、本人に障害特性を理解してもらい、生活習慣や対人スキルを身につけること、出所後に必要となる福祉的支援を理解することなどを処遇目標としている。広島刑務所では認知トレーニング、福岡刑務所では精神障害者保健福祉手帳の取得などを通じた福祉サービスへの接続が実施例として示されている。
この制度変更には人権上の意味もある。指示を理解できない、集団行動についていけない、同じ失敗を繰り返すといった行動を、本人の「反抗」や「規律意識の欠如」とだけ捉えれば、背景にある認知特性や障害を見落とす可能性がある。
拘禁刑下の処遇は、犯罪行為への法的責任を免除する仕組みではない。刑の執行と、障害や認知機能に応じた支援を別の問題として扱い、刑務所の中でも必要な支援を行う制度への転換といえる。
出所後まで見なければ拘禁刑の効果は測れない
刑務所内の処遇だけを変えても、出所後に住居、仕事、医療、福祉が確保できなければ、社会復帰は難しい。
そのため拘禁刑下では、入所後の早い段階から支援ニーズを把握し、住居、就業先、福祉サービスなどを確保する社会復帰支援を進める方針が示されている。高齢者や障害のある受刑者については、刑事施設、保護観察所、地域生活定着支援センター、自治体、福祉関係機関などをつなぐことが必要になる。
人権ニュースが2026年9月に取り上げたように、2024年には刑務所を出所した1万5,069人のうち2,179人が適切な帰住先を確保できないまま出所している。拘禁刑で施設内の処遇を個別化しても、出所日に住む場所がなければ、そこで支援が途切れる。刑務所内での処遇と地域での生活支援を連続させられるかは、拘禁刑を評価する際の重要な検証項目になる。
国際基準も「再統合」と個別の必要性を重視
国連が2015年に採択した「ネルソン・マンデラ・ルールズ(国連被拘禁者処遇最低基準規則)」は、刑務所処遇を考える国際的な基準となっている。
規則第1は、すべての被拘禁者を人間として固有の尊厳と価値を尊重して扱うことを基本原則とする。第2は、特別な必要を持つ被拘禁者について個々のニーズを考慮するよう求めている。第4は、自由を奪う刑の目的について、社会を犯罪から守り再犯を減らすこととし、そのためには釈放後に遵法的で自立した生活を送れるよう社会への再統合を図る必要があるとして、教育、職業訓練、仕事、社会的・保健上の支援などを個々の処遇上の必要性に応じて提供する考え方を示している。
日本の拘禁刑が国連規則をそのまま国内法化したものではない。しかし、受刑者を一律に扱うのではなく、個別の特性を把握し、作業、教育、福祉、社会復帰支援を組み合わせる方向は、ネルソン・マンデラ・ルールズが示す再統合と個別処遇の考え方とも重なる。
「刑が軽くなった」と見るのは正確ではない
拘禁刑は、懲役と比べて刑罰そのものを軽くした制度ではない。
刑法第12条は、拘禁刑を無期または有期とし、有期拘禁刑を原則1月以上20年以下としている。裁判所が言い渡した期間、刑事施設に拘置されて自由を奪われる点は変わらない。変わったのは、その拘禁期間をどのように使うかである。
受刑者の改善更生を図る処遇と、犯罪被害者の権利も対立概念ではない。刑事収容施設法では、受刑者の処遇要領を定める際に、被害者等の被害に関する心情や置かれた状況を考慮する規定も整備されている。拘禁刑が目指す社会復帰は、犯罪行為や被害を軽視することではなく、刑を執行した上で再犯を防ぐ仕組みを組み立てることにある。
1年では「再犯防止に成功した」とはまだ評価できない
法務省は2026年6月2日の法務大臣会見で、拘禁刑導入後1年間について取組が着実に進んだとの認識を示す一方、処遇の充実、刑務官や専門スタッフの体制整備、職員のスキル向上を今後の課題として挙げた。
制度開始から1年という時点では、拘禁刑によって再犯率がどこまで変化したかを確定的に評価することはできない。拘禁刑受刑者の多くは現在も服役中であり、出所後一定期間を経た再犯状況を比較するためには時間が必要だからである。
今後見るべき数字は、拘禁刑受刑者の人数だけではない。24種類の矯正処遇課程が本人の特性を適切に把握できているか、高齢福祉課程や福祉的支援課程で必要な専門職を確保できているか、施設で受けた支援が出所後の医療、福祉、住居、就労へ接続しているか、そして従来の処遇と比較して再犯や社会復帰にどのような差が生じるかを検証する必要がある。
2025年6月1日に始まった拘禁刑は、懲役と禁錮の名称を一本化しただけの刑法改正ではない。法務省は、刑務作業を中心とした処遇から、24種類の矯正処遇課程と個別の処遇要領を基礎とする制度へ刑務所運営を転換した。2026年6月時点で5,273人となった拘禁刑受刑者が今後出所していく中で、この個別化された処遇が地域生活の安定と再犯防止にどう結び付くのかが、制度導入後の次の検証段階となる。
出典 e-Gov法令検索「刑法(明治四十年法律第四十五号)」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
出典 e-Gov法令検索「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000050
出典 法務省「拘禁刑下の矯正処遇等について」
URL:https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00164.html
出典 法務省「拘禁刑時代に向けた取組について」
URL:https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse04_00005.html
出典 法務省「令和7年版犯罪白書 第2編第4章第3節 拘禁刑下の処遇」
URL:https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/72/nfm/n72_2_2_4_3_1.html
出典 法務省「令和7年版犯罪白書 第4編第8章第2節 高齢者の矯正」
URL:https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/72/nfm/n72_2_4_8_2_2.html
出典 法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要(令和8年6月2日)」
URL:https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00726.html
出典 衆議院「第221回国会 法務委員会 第8号(令和8年5月8日)」
URL:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000422120260508008.htm
出典 弁護士ドットコム「新刑罰『拘禁刑』導入1年、受刑者は5200人超…全体の15%占める 法務省が公表」
URL:https://www.bengo4.com/c_1009/n_20602/
出典 United Nations「United Nations Standard Minimum Rules for the Treatment of Prisoners (the Nelson Mandela Rules)」
URL:https://cambodia.ohchr.org/sites/default/files/The%20Nelson%20Mandela%20Rules%20_%20Eng.pdf
関連用語 再犯防止推進法とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/saihan-boshi-suishin-ho/
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