
公益財団法人人権教育啓発推進センターは、法務省委託事業として進められていた「ヘイトスピーチに関するデジタル教材制作」の成果物について、2025年11月に梱包・発送業務の見積競争を実施した。教材は「なくそう!ヘイトスピーチ」と題する映像教材で、法務省人権擁護局と同センターが企画し、2025年に制作された。人権ライブラリーの新着DVD資料によると、内容はヘイトスピーチの歴史的背景や近年の動向、解消に向けた地方公共団体の取組事例などを分かりやすく紹介するものとされている。
ヘイトスピーチをめぐっては、2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、いわゆるヘイトスピーチ解消法が施行された。同法は、不当な差別的言動の解消に向け、国と地方公共団体に相談体制の整備、教育・啓発活動などの取組を求めている。ただし、罰則を伴う禁止規定ではないため、制度運用の中心は、地域社会における啓発、相談対応、差別を許容しない環境づくりに置かれてきた。
今回の教材は、自治体職員や人権啓発担当者だけでなく、学校、社会教育施設、地域団体などでの活用も想定される。ヘイトスピーチは、特定の民族や国籍に結び付けて人を排除しようとする言動であり、単なる「乱暴な発言」や「意見の対立」とは異なる。被害を受ける側には、人格の否定、地域社会からの孤立、子どもへの心理的影響などが生じ得るため、教育現場では表現の自由との関係も含め、差別的言動の何が問題なのかを具体的に学ぶ必要がある。
近年は、街頭での差別的言動に加え、インターネット上の投稿や動画、SNSでの拡散も大きな課題となっている。デジタル教材として制作されたことは、集合研修だけでなく、オンライン研修や授業、自治体職員向けの内部研修にも使いやすい点で意味がある。字幕や副音声への対応がある教材であれば、視聴環境や障害の有無にかかわらず学びやすく、啓発教材そのものにもアクセシビリティの視点が求められる。
ヘイトスピーチ対策は、外国人住民を特別扱いするための取組ではなく、地域社会に暮らす全ての人の安全と尊厳を守るための基盤である。自治体には、条例や相談窓口、啓発講座などを個別に実施するだけでなく、学校教育、地域交流、多文化共生施策と結び付けて継続的に取り組むことが求められる。今回の教材は、法制度の理解と具体的な事例をつなぐ入口となり、差別を見過ごさない地域づくりを進めるための実務的な材料となる。
人権教育啓発推進センター
http://www.jinken.or.jp/archives/29585

