1.自宅から郵便等で投票できる制度はあるが、要介護者では現在も「要介護5」に対象が限られている。
2.総務省の研究会は2017年に要介護3・4への拡大を提言したが、2026年8月時点の公職選挙法制には反映されていない。
3.代理投票や投票支援カードは投票所内の支援であり、投票所まで移動できない人の問題とは別に考える必要がある。

公職選挙法は、重度の身体障害がある人などに自宅から郵便等で不在者投票する制度を設けている。介護保険の要介護者も対象になるが、公職選挙法施行令が定める区分は「要介護5」に限られる。要介護4や3であっても、それだけを理由に郵便等投票を利用することはできない。身体障害者手帳などによる対象要件は別にあるため、「郵便投票は要介護5の人だけ」という制度ではないが、介護認定を根拠とする利用範囲は最重度の区分に限定されたままである。
2017年に拡大提言、現在も要介護5
この線引きは、新たに浮上した問題ではない。総務省の「投票環境の向上方策等に関する研究会」は2017年6月、郵便等投票を要介護3と4にも拡大することが適切だと提言した。2022年12月の衆議院特別委員会でも、都道府県や市区の選挙管理委員会から対象拡大の要望があり、自民、公明両党が要介護3・4を加える改正案を取りまとめていることが説明された。しかし、2026年8月現在の法令でも介護保険による対象は要介護5であり、提言から9年を経ても線引きは変わっていない。
「字が書けない」と「投票所へ行けない」は別問題
投票所まで行ければ、別の支援制度を利用できる。公職選挙法第48条の代理投票では、病気や障害などにより自分で候補者名を書けない人について、投票管理者が投票所の事務従事者から補助者2人を定め、1人が本人の意思に従って記載し、もう1人が立ち会う。家族や友人が代筆する制度ではない。点字投票も法律で認められている。代理投票は「自書できない」という障壁を取り除くが、自宅から投票所まで移動できないという障壁を解決する制度ではない。
自治体では支援カードやコミュニケーションボード
投票所内部のアクセシビリティーを改善する自治体の取組は広がっている。品川区は2026年1月時点で、スロープ、車いす、低い記載台、点字器、投票用紙記名補助具、コミュニケーションボードを各投票所などに用意し、必要な支援を事前に記入できる「投票支援カード」を入場整理券に同封している。大阪市、横浜市、越谷市なども同様のカードを導入している。意思を口頭で説明することが難しい知的障害、発達障害、聴覚障害などのある人には、投票参加への障壁を下げる実務上の対応となる。
国連委員会も公職選挙法の見直しを勧告
障害者権利条約第29条は、障害者が他の人と平等に政治的・公的活動へ参加する権利を定める。国連障害者権利委員会は2022年の日本審査で、投票手続、施設、資料のアクセシビリティーが限定的だと指摘し、すべての障害者にとって投票手続や施設、資料を利用しやすくするよう公職選挙法の改正を勧告した。投票支援カードを増やす取組と、郵便等投票の対象範囲を見直すことは代替関係にはない。総務省と国会が今後検証すべきなのは、投票所内部の支援だけでなく、そもそも投票所へ到達できない有権者について、要介護5という現行基準が選挙権行使の機会を適切に確保しているかという制度そのものの線引きである。
e-Gov法令検索「公職選挙法」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100
e-Gov法令検索「公職選挙法施行令」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000089
衆議院「第210回国会 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会 第7号」
URL:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007121020221207007.htm
品川区「高齢者や障害のある方のために」
URL:https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/kuseizyoho/kuseizyoho-sensei/kuseizyoho-senkyo/08shuugi/20180828182208.html
国連障害者権利委員会「Concluding observations on the initial report of Japan」
URL:https://docstore.ohchr.org/SelfServices/FilesHandler.ashx?enc=uGiIUJtPH9MaSEylGWAEI2wpkb1rcgu7sAd2mqLUyGYQhSeJiPpnI1yHbL1sCBvPsn%2FZFTFG1GYlgyoubERVSA%3D%3D

