1.ワンストップ窓口または専任相談員を置く1,046自治体のうち、2023年度に障害者差別の相談実績がなかった自治体は675、65%だった。
2.内閣府の「つなぐ窓口」には約17カ月間で4,602件が寄せられたが、正式なあっせんは大阪府で条例施行後9年間に4件にとどまる。
3.相談件数が少ない自治体ほど差別が少ないとは判断できない。相談の周知、記録方法、調整結果、あっせん後の措置を共通項目で公表する必要がある。

窓口を置く自治体の65%で相談実績なし
内閣府が2025年8月に公表した地方公共団体調査では、障害者差別に関するワンストップ相談窓口または専任相談員を置く1,046自治体のうち、2023年度に相談実績があり、件数を集計していたのは254自治体、24%だった。相談実績はあるものの件数を集計していない自治体が117、11%、相談実績がなかった自治体は675、65%を占めた。
自治体の種類による差も大きい。都道府県では43団体のうち41団体、95%が相談実績を集計し、指定都市は12市すべてが集計していた。これに対し、一般市では419市のうち227市、54%、町村では517町村のうち444町村、86%に相談実績がなかった。
この数字を「町村では障害者差別がほとんど起きていない」と解釈することはできない。窓口の存在を住民が知らない、福祉相談や苦情として処理されている、担当者が障害者差別に該当する可能性を認識していない、相談を受けても件数として記録していないといった要因が含まれるためである。
実際、調査対象となった自治体のうち、相談者への助言や情報提供を行うと回答した市区町村は78%、関係者間の調整を行う自治体は73%だったが、助言・あっせんの申立てを受けた際に事実調査を行うとした自治体は45%だった。相談受付、関係機関の紹介、相手方への働きかけ、正式な事実調査は、それぞれ別の機能である。
国の「つなぐ窓口」には4,602件
内閣府が2023年10月16日から2025年3月14日まで試行した障害者差別相談窓口「つなぐ窓口」には、4,602件の相談が寄せられた。相談者は障害者本人、家族、支援者などが3,717件で約8割を占め、事業者が523件、自治体などが152件、その他が210件だった。
月平均の相談件数は、2023年11月から2024年3月までが約213件、改正障害者差別解消法が施行された2024年4月から2025年3月までが約302件だった。施行後の月平均は約42%増えた計算になる。ただし、義務化だけが増加の原因とは断定できない。制度改正に伴う広報や、相談先が分からない人を全国から受け入れる窓口が設けられたことも件数に影響している。
地方自治体の窓口では「実績なし」が多い一方、全国窓口には月200件から300件規模の相談が集まった。この差は、相談需要が存在しないのではなく、地域の窓口へ到達していない可能性を示す。国の窓口で受けた相談が、実際にどの自治体や府省庁へ取り次がれ、どの段階まで解決したかを追跡することが、次の検証対象となる。
合理的配慮の義務化でも救済機関は新設されず
2024年4月1日に施行された改正障害者差別解消法は、民間事業者による合理的配慮の提供を努力義務から法的義務へ改めた。正当な理由のないサービス拒否などの「不当な差別的取扱い」も、行政機関と事業者の双方に禁止されている。
合理的配慮は、障害のある人から社会的障壁の除去を必要としているとの意思が示された場合に、過重な負担とならない範囲で、個別の状況に応じた変更や調整を行う仕組みである。段差への簡易スロープ、筆談、資料の読み上げ、ルールや手続の柔軟な変更などが含まれるが、本人が希望した方法を常にそのまま実施する制度ではない。事業者と本人が事情を共有し、代替方法を含めて建設的な対話を行うことが前提となる。
しかし、障害者差別解消法は、個別の申立てを審理して判断を下す全国共通の救済委員会を新設しなかった。内閣府の説明では、行政相談、法務局の人権相談、人権侵犯事件の調査救済など、既存の制度を活用する構造を採っている。
事業者が法に反する取扱いを繰り返し、自主的な改善が見込めない場合には、事業分野を所管する主務大臣が報告を求め、助言、指導、勧告を行うことができる。ただし、個々の相談が直ちに主務大臣の勧告手続へ移るわけではなく、基本方針は、まず報告徴収、助言、指導によって自主的な改善を促すとしている。
このため、居住する自治体が独自条例を設け、どの程度の相談・調整・救済機能を備えているかによって、本人が利用できる手続に差が生じる。
大阪府は194件相談、正式なあっせんは1件
大阪府の広域支援相談員が2024年度に受け付けた新規相談は194件で、前年度からの継続3件を含む相談対応回数は1,261回だった。新規相談は2023年度の148件から46件増え、法施行後で最多となった。
相談員が対応後に分類した194件のうち、不当な差別的取扱いは15件、合理的配慮の不提供は8件だった。残る171件には、不適切な行為2件、不快・不満7件、環境整備4件、行政機関などからの問合せ36件、虐待2件、その他の相談・意見・要望120件が含まれる。相談窓口に持ち込まれた案件の多くは、直ちに法上の差別と判断できるものではなかった。
広域支援相談員が対応しても解決の見込みがない場合、障害者本人などは大阪府知事にあっせんを申し立てることができる。大阪府障がい者差別解消協議会の合議体は、関係者に資料や説明を求め、あっせん案を提示する。正当な理由なく案を受け入れない場合などには、知事による勧告と公表へ進む制度も設けている。
正式なあっせん申立ては、条例が施行された2016年度から2024年度までの9年間で4件だった。2018年度に1件、2020年度に2件、2024年度に1件で、ほかの年度は0件である。
194件の新規相談に対して、あっせんが1件だったことを、制度が使われていないとの理由だけで評価することはできない。相談員による事情確認や当事者間の調整で解決すれば、正式手続へ進む必要はないからである。
それでも、申立てに至らなかった理由は公表資料から十分に判別できない。相談段階で合意したのか、本人が申立てを望まなかったのか、相手方との関係悪化を恐れたのか、ほかの制度へ移ったのかを分けなければ、あっせん件数の少なさを評価できない。
滋賀県は声を上げにくい人を25人が支援
滋賀県は、障害者差別解消相談員2人と、県内7圏域に配置した地域アドボケーター25人による相談体制を設けている。地域アドボケーターは、自分で相談内容を整理したり、被害を言葉にしたりすることが難しい障害者に寄り添い、本人の意思を確認しながら相談員へつなぐ役割を担う。
2024年度に扱った案件は、新規73件と前年度からの継続3件の計76件で、相談対応は243回だった。類型別では、障害を理由とする差別が9件、合理的配慮の不提供が13件、その他が54件となっている。
相談員による助言や調整で解決しない場合は、滋賀県障害者差別のない共生社会づくり委員会へあっせんを申し立てることができる。あっせんに従わない場合には、知事による勧告と公表へ進む仕組みである。滋賀県条例は、行政機関や事業者に加え、障害者差別解消法が直接の対象としていない個人による差別も相談対象に含めている。
滋賀県方式の特徴は、申立権限の強さだけではない。相談窓口へ自力で到達しにくい人の代弁者を地域に置いた点にある。相談制度は、利用できる権限を条文に設けるだけでは作動しない。本人が被害を差別として認識し、相談先を知り、必要な情報を伝えられることまで支援する必要がある。
千葉県は396件中、差別相談が68件
千葉県は2024年度、障害者条例の相談窓口で396件を受け付けた。このうち差別に関する相談は68件、17.2%で、生活上の悩みなどに関する相談が328件、82.8%だった。差別相談では商品・サービスが12件、労働者の雇用が9件、教育が8件、福祉サービスが7件と続いた。
千葉県は、県内に478人の地域相談員と16人の広域専門指導員を配置している。地域相談員が身近な地域で相談を受け、広域専門指導員が事情確認、検討会議、当事者への助言・調整を行う。匿名相談についても、対応方針を決める検討会議までは進めるとしている。
調整で合意できない場合は、千葉県障害のある人の相談に関する調整委員会に助言またはあっせんを申し立てられる。委員会は関係者から説明や資料を求め、あっせんに従わない者については知事へ勧告を求めることができる。一定の場合には、民事訴訟や労働審判などの費用を援助する制度も条例に盛り込まれている。
396件のうち差別相談が68件だった事実は、相談窓口の間口を狭めるべきだという意味ではない。本人が「差別かどうか分からない」と感じている段階で相談を受け、その後に生活相談、虐待対応、雇用支援などへ振り分ける機能も必要だからである。
ただし、相談総数だけを成果として示すと、68件の差別相談がどのような調整を経て、何件で行為の改善や合理的配慮の提供に至ったかは見えない。
あっせんが少ない四つの理由
正式なあっせん件数が少ない理由として、第一に、相談の多くが法上の差別に該当しないことが挙げられる。大阪府では194件のうち、法上の二つの差別類型に分類されたのは23件だった。千葉県でも396件のうち、差別相談は68件である。
第二に、相談員が相手方へ制度を説明し、個別調整を行うことで、正式な申立て前に解決する事案がある。日時の変更、筆談の実施、介助者の同席、手続方法の修正などは、第三者委員会による審理を経ずに実施できる。
第三に、雇用、教育、福祉サービス、交通、医療では、所管制度と相談先が異なる。雇用関係の合理的配慮は障害者雇用促進法、行政処分に対する不服は行政不服審査、虐待は障害者虐待防止法など、別の手続へ移る事案がある。
第四に、正式申立てには心理的な負担が伴う。障害福祉サービス、学校、医療機関、地域の店舗など、今後も利用を続けなければならない相手との関係悪化を恐れ、助言だけで相談を終える人も想定される。申立て件数が少ないときほど、本人が手続を選ばなかった理由を確認する必要がある。
住所地で異なる救済手続
障害者差別解消法は、全国の行政機関と事業者に差別禁止と合理的配慮を課す。しかし、個別紛争について、地域相談員、専門相談員、あっせん委員会、勧告、公表、訴訟援助のどこまで利用できるかは、自治体条例によって異なる。
大阪府では広域支援相談員を経て合議体によるあっせんへ進む。滋賀県では、相談員へ直接つながりにくい人を地域アドボケーターが支援する。千葉県では478人の地域相談員と16人の広域専門指導員を置き、訴訟援助まで条例化している。
これに対し、ワンストップ窓口または専任相談員を置く町村の86%では、2023年度の相談実績がなかった。全国共通の義務があっても、相談の発見、記録、調整、救済へ進む経路は居住地によって同じではない。
自治体が公表すべき8つの数字
相談制度の実効性を比較するには、相談総数だけでなく、少なくとも次の項目を共通して公表する必要がある。
1.電話、来所、メール、オンラインなど受付方法別の件数
2.不当な差別的取扱い、合理的配慮の不提供、環境整備、制度外相談の分類
3.相談者本人、家族、支援者、事業者、行政機関別の件数
4.相手方への連絡、事情確認、助言、調整を行った件数
5.相談者と相手方が合意した件数と、未解決となった件数
6.あっせんの申立件数、受理件数、取下げ件数、成立件数
7.勧告、公表、主務大臣や法務局など他機関への引継件数
8.同じ事業者や行政機関で類似相談が繰り返された件数
相談者が希望した結果も記録対象となる。謝罪を望んだのか、今後のサービス利用を可能にしたかったのか、同じ被害を繰り返さない制度変更を望んだのかによって、解決の意味が異なるためである。
675自治体の「実績なし」を検証できるか
内閣府の次回調査では、相談実績がなかった675自治体について、「相談自体がなかった」「別の福祉相談として処理した」「件数を把握できなかった」「相談窓口を十分に周知していない」を区別する必要がある。
大阪府は、2024年度に申し立てられた1件のあっせんがどのように終結したかを、当事者の特定を避けながら公表する必要がある。滋賀県は76件のうち、助言・調整で終結した件数と、あっせん申立てへ進んだ件数を分けることで、25人の地域アドボケーターが救済へどうつないだかを示せる。千葉県は、差別相談68件について、合意、他機関への引継ぎ、未解決、正式申立ての内訳を示すことで、478人の地域相談員を置く重層体制の効果を検証できる。
国の「つなぐ窓口」に寄せられた4,602件と、地方自治体の675団体における「相談実績なし」は、別々の統計ではあるが、同じ制度上の空白を映している。相談先を設置したかではなく、障害者の訴えを受け止め、相手方との調整を行い、必要な場合にあっせんや勧告へ進めたかを公表して初めて、合理的配慮の義務化後の権利救済を検証できる。
内閣府「障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体の取組状況調査」
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/pdf/region/r06-kekka.pdf
内閣府「障害を理由とする差別の解消に向けた相談窓口の試行に係る調査研究」
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/r06jirei/pdf/consultation-gaiyo.pdf
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html
大阪府「令和6年度 障がい者差別解消に向けた大阪府の活動報告書」
URL:https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/5427/r6_katudouhoukokusyo.pdf
滋賀県「滋賀県障害者差別のない共生社会づくり条例の取組状況等について(令和6年度)」
URL:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5552568.pdf
千葉県「令和6年度 障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例による広域専門指導員等活動報告書」
URL:https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/shougai-kurashi/kouiki/documents/r6houkokusho.pdf

