1.2025年6月1日から、親権者が同意しない一時保護などでは、原則として裁判官による開始時の司法審査が必要になった。
2.2023年度の一時保護は5万5,422件に上るが、親権者が同意する場合や7日以内に解除する場合などは一時保護状の請求対象外となる。
3.裁判官が子ども本人を直接聴取する仕組みではなく、児童相談所が把握した子どもの意見・意向を書面にまとめて裁判官へ伝える。

2025年6月1日、児童相談所による一時保護の開始を裁判官が審査する「一時保護時の司法審査」が始まった。一時保護は、虐待のおそれがある場合などに子どもの安全を迅速に確保する制度である。2023年度には全国で5万5,422件が行われた。従来も親権者の意向に反して2か月を超えて一時保護を続ける場合には家庭裁判所の承認が必要だったが、新制度は「保護を始める時点」に司法を関与させた点が異なる。行政機関である児童相談所だけで親子分離を開始してきた仕組みを改める制度変更である。
7日以内に裁判官へ請求
児童相談所長などは一時保護を行う場合、原則として事前または開始日から7日以内に裁判官へ「一時保護状」を請求する。ただし、親権者等が一時保護に同意している場合、親権者等がいない場合、開始から7日以内に保護を解除した場合は請求を要しない。裁判官は、虐待のおそれなど法令で定めた事由に該当するか、一時保護の必要があるかを児童相談所から提出された資料で審査する。一時保護状が発付されれば保護を継続でき、事後請求が却下された場合は原則として解除する。ただし、解除すれば子どもの生命や心身に重大な危害が生じると見込まれる場合、児童相談所側は3日以内に取消しを求める手続を利用できる。
子どもは法廷で裁判官と話すわけではない
司法審査が導入されたことで、「子どもが裁判官に直接事情を説明する制度になった」と理解するのは正確ではない。こども家庭庁のマニュアルは、裁判官が子どもの意見を直接聴取するのではなく、児童相談所が一時保護開始時の意見聴取等措置によって本人の希望、不安、理由などを確認し、書面にまとめて提出するとしている。親権者側の意見も同様に児童相談所を通じて伝達する。子どもの意見を裁判官に届ける仕組みは設けられたが、その内容を誰が聞き取り、どう要約し、どこまで原文に近い形で伝えるかは、審査の実質を左右する。
この仕組みには、迅速性との両立という事情がある。虐待の危険がある場面で、通常の裁判のような対審手続を経てから保護するのでは安全確保が遅れる可能性がある。一方、一時保護は親子を分離し、子どもの居住場所や行動の自由を大きく制限する行政処分でもある。国連子どもの権利委員会が日本に家族分離の決定への義務的司法審査を求めたことも、今回の制度導入につながった。子どもの安全を理由に司法審査を重くしすぎることも、迅速性を理由に形式的な書面確認にとどめることも避けなければならない。
試行では1件10時間47分
施行前に18自治体で行われた試行運用では、一時保護状請求に関係する一連の業務時間は1件当たり中央値で10時間47分だった。内訳には従来から行っていた業務も含まれるが、裁判官への資料準備は2時間、一時保護状請求書・総括書面の作成は1時間45分、請求と事件記録の返還には移動時間を含め3時間20分を要した。こども家庭庁自身も、制度導入後の業務量への影響を引き続き把握し、児童相談所の体制を検討するとしている。
制度開始から1年余りとなった現在、検証すべきなのは司法審査が存在すること自体ではない。一時保護状の請求、発付、却下がどの程度あり、子どもと親権者の意見が判断にどう反映されたのか、自治体によって資料作成や意見聴取に差がないかを確認する必要がある。2026年版の政府資料は制度の施行を記載しているが、全国の請求・発付・却下状況を示す詳細な実績はまだ十分に見えない。こども家庭庁と裁判所が運用実績を継続的に公表できるかは、児童相談所による安全確保と子どもの権利保障を両立させる新制度を評価するための基礎になる。
こども家庭庁「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル」
URL:https://www.cfa.go.jp/councils/Judicial-Review-Working-Team-on-Temporary-Protection/manual
こども家庭庁「一時保護時の司法審査に係る試行運用」
URL:https://www.cfa.go.jp/councils/Judicial-Review-Working-Team-on-Temporary-Protection/trial
こども家庭庁「こどもまんなか実行計画2025」
URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/75cf51c2-b2b6-4120-955c-bf41d1824937/bd5f161a/20250606councils-suishinkaigi-75cf51c2-04.pdf
厚生労働省「福祉行政報告例」
URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html
子どもの権利とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/childrens-rights/
子どもの権利条約とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/kodomo-no-kenri-joyaku/
こども基本法とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/kodomo-kihon-hou/

