1.アゼルバイジャンで10月12日から、ヒジャブを着用する生徒や教員が学校への立ち入りを認められない事態が生じていると、アムネスティが報告した。
2.首都バクーでは当局発表で37人、活動家の報告では200人以上の拘束者が出たとされ、数字には食い違いがある。
3.学校の服装規則と、教育を受ける権利、信教の自由、平和的集会の自由との関係が問われている。

学校への立ち入りを拒否、抗議活動が拡大
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2026年10月16日、アゼルバイジャンの学校で導入されたヒジャブ着用に関する規制について、教育を受ける権利と信教の自由を侵害しているとして懸念を示した。日本支部は10月21日、声明の日本語版を公開した。
アムネスティによると、10月12日から新たな制服規則に基づき、ヒジャブを着用する生徒や教員がアゼルバイジャン各地の学校への立ち入りを認められなくなった。
これに対して抗議活動や市民的不服従の行動が広がり、一部では暴力を伴う事態も起きたという。
同国の内務省は、10月12日に首都バクーだけで37人を拘束したと発表した。一方、活動家側は200人以上が拘束されたと報告している。
ただし、両者は対象地域や集計方法が一致するとは限らず、報告された拘束人数を単純に比較することはできない。独立した集計によって確定した人数も、今回確認した資料には示されていない。
ヒジャブとは何か
ヒジャブ(hijab)は、イスラム教徒の女性が髪や首などを覆う際に用いる布や服装を指す言葉として広く使われている。
イスラム教徒の女性がどのような服装を選ぶかは、宗教的な理解や文化、地域、個人の考え方などによって異なる。
そのため、ヒジャブを着用することを、すべてのイスラム教徒の女性に共通する行動とみなすことは適切ではない。
服装と人権の問題では、着用を本人の意思に反して強制することと、本人が選んだ宗教的な服装を一律に禁止することの双方が、個人の自由と関係する。
今回のアゼルバイジャンの事例では、ヒジャブを着用すること自体が学校へのアクセスを妨げる条件になっていると報告された点が問題となっている。
教育を受ける権利と宗教的な自由
国際人権法では、教育を受ける権利と信教の自由は、それぞれ独立した権利として保障されている。
国連が1989年に採択した「子どもの権利条約」の第28条は、子どもの教育を受ける権利を認め、機会の平等に基づいて教育を受けられるようにすることを定めている。
第14条は、子どもの思想、良心、宗教の自由について規定する。
また、国際人権規約のうち、社会権規約第13条は、すべての人の教育を受ける権利を認めている。
自由権規約第18条は思想、良心及び宗教の自由を保障しており、宗教や信条の表明に対する制限は、法令に基づき、公共の安全や秩序、健康、道徳、他者の基本的な権利と自由を守るために必要な場合などに限定される。
つまり、国家や学校が服装に関する一定の規則を設けることと、その規則によって教育へのアクセスを奪うことは、別々に検討する必要がある。
アムネスティは、公教育の世俗性を維持するという目的だけでは、宗教的な服装を一律に制限する理由にはならないとの見解を示した。
ここでいう世俗性とは、国家や公教育の制度を特定の宗教から独立させる考え方を指す。宗教的中立性を確保することと、個人の宗教的表現をどこまで認めるかについては、国や制度によって異なる法的整理がある。
抗議活動への対応も問題に
今回の声明では、学校への立ち入り制限に加えて、抗議活動に参加した人々への当局の対応も取り上げられている。
アムネスティによると、拘束された人の多くは比較的短期間で釈放された。しかし、SNSへの投稿を理由に25日間の行政拘禁処分を受けた人や、学校の建物にヒジャブの自由を訴える言葉を書いたことで30日間の拘禁措置を受けた人がいる。
同団体は、娘が学校への立ち入りを拒否されたことに抗議した母親のシャヒズヤル・フセイノヴァさんについても報告している。
アムネスティの10月16日付声明では、家族からの情報として、同氏に4か月間の勾留措置が取られた一方、容疑の詳細は明らかにされていないと説明している。
10月14日には、学校に入れなくなった子どもたちとボランティアの教師をつなぐ無料オンライン授業の仕組みを立ち上げた活動家、イルキン・フセイノフさんが、バクーの自宅を出た後に行方不明になったと報告された。
これらはアムネスティが当時把握した情報であり、10月23日時点の拘禁状況や所在が独立して確認されたことを意味するものではない。
平和的な抗議と暴力行為は区別して考える
アムネスティは、10月13日に学校への放火を試みた疑いで未成年者6人が拘束されたことも報告している。
アゼルバイジャン当局は、公の秩序を乱す行為の組織や積極的な参加を処罰対象とする刑法第233条に基づき、刑事事件を立件したと説明している。
ただし、暴力行為への関与が疑われる事案と、平和的に意見を表明する抗議活動は区別して扱う必要がある。
自由権規約第21条は平和的な集会の権利を認め、第19条は表現の自由を保障している。
公共の安全や他者の権利を保護するための制限が認められる場合はあるものの、権利の行使を制限するには法的根拠や必要性などが問題となる。
アムネスティは、平和的な抗議者と暴力を伴う行動への参加者を区別せずに拘束することに懸念を示し、平和的な権利行使のみを理由として拘束された人々の釈放を求めた。
教育の機会と本人の選択を守るという課題
今回の問題は、宗教的服装の是非だけに限定されるものではない。
学校に通う子どもが教育を継続できるか、本人の宗教的な意思が尊重されるか、規則に異議を唱える人が平和的に意見を表明できるかという、複数の権利が関係している。
アムネスティは、制服規制によって影響を受けた生徒と教員が学校に戻れるようにすること、平和的な抗議活動への対応を見直すことをアゼルバイジャン当局に求めている。
国際人権法の下では、教育へのアクセス、信教の自由、表現の自由は相互に関係する。アゼルバイジャンの制服規制をめぐる事案は、学校運営上の規則が個人の権利に及ぼす影響を具体的に考える事例となっている。
アムネスティ・インターナショナル日本「アゼルバイジャン:教育を受ける権利を奪う差別的なヒジャブ規制 抗議を弾圧」
URL:https://www.amnesty.or.jp/news/2026/1021_11115.html
Amnesty International「Azerbaijan: Stop denying access to education through discriminatory hijab restrictions and release peaceful protesters」
URL:https://www.amnesty.org/en/latest/news/2026/10/azerbaijan-stop-denying-access-to-education-through-discriminatory-hijab-restrictions-and-release-peaceful-protesters/
外務省「児童の権利に関する条約」
URL:https://www.mofa.go.jp/policy/human/child/convention.html
外務省「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_004.html

