① 千葉市の調査には児童生徒・保護者4万8298人が回答。体罰を「受けた」が79件、暴言等281件、教職員によるセクハラと思われる言動34件などの回答があった。
② これらはアンケートの回答件数であり、「体罰・セクハラとして事実認定された件数」ではない。今年度から公表方法自体が変更された。
③ 市教委は「セクハラ」などの言葉や漢字が子どもに分かりにくかったことを認め、調査票の見直しや生命の安全教育、第三者による学校内の死角点検などを進める。

1.約4万8300人の児童生徒・保護者が回答
千葉市教育委員会は2026年9月14日、「令和7年度(令和8年度集計)体罰およびセクシュアル・ハラスメント等に関する調査結果」を公表しました。
対象は、市立小学校、中学校、中等教育学校、特別支援学校、高等学校です。
児童生徒・保護者は6万6928人を対象に4万8298人が回答し、回答率は72.2%でした。
教職員は5923人中5711人が回答し、回答率は96.4%となっています。
2.体罰79件、暴言281件、セクハラと思われる言動34件
児童生徒・保護者の回答では、体罰について、
「受けたことがある」79件
「受けているところを見た」170件
となりました。
人格や能力を否定するような言葉などについては、
「受けた」281件
「見た」261件
でした。
教職員から児童生徒への「セクハラと思われる言動」については、
「受けた」34件
「見た」51件
となっています。
さらに教職員間のハラスメントについても、
「受けた」80件
「見た」80件
との回答がありました。
3.「79件の体罰が認定された」わけではない
今回の数字を見る際に最も重要なのが、アンケートの回答件数と、行政が事実確認を行ったうえで認定した件数を区別することです。
今回公表された79件などの数字は、回答者本人がアンケートで「受けた」と回答した件数です。
市教委は回答内容について可能な限り事実確認を行いましたが、今回確認した案件の中には、懲戒処分に該当するものはなかったと説明しています。
したがって、
「体罰を受けたと答えた人が79件」
と
「体罰が79件認定された」
は同じではありません。
記事やSNSで数字だけを引用すると、誤解につながる可能性があります。
4.今年から「公表する数字」が変わった
実は今回の調査では、公表方法にも重要な変更があります。
従来、市教委はアンケート回答を受けて聞き取りを行い、その後「体罰等を認知した件数」を公表していました。
今回は、実態をより分かりやすく示す観点から、アンケートで本人が「受けた」「見た」と回答した件数自体を公表しました。
この変更にはメリットと注意点の双方があります。
行政による最終的な認定件数だけを公表する場合、子どもが「怖かった」「不適切だと感じた」経験が統計に現れない可能性があります。
一方、申告件数だけを見れば、事実確認前の情報も含まれます。
そのため今後は、
「子どもからどの程度の申告があったのか」
と
「調査の結果、何が確認されたのか」
の両方を示すことが重要になります。
5.学校教育法は体罰を禁止
学校教育法第11条は、校長や教員が教育上必要な懲戒を行うことを認める一方、「体罰を加えることはできない」と明確に定めています。
つまり、
「指導目的だった」
「本人のためだった」
という理由だけで身体的な罰が正当化されるわけではありません。
一方、具体的な行為が「体罰」に当たるかは、行為の態様、目的、児童生徒への影響などを踏まえて個別に判断する必要があります。
6.性暴力対策は法制度も強化
教育職員による児童生徒への性暴力については、2022年4月に「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が施行されています。
同法は、児童生徒の尊厳を保持し、権利利益を擁護することを目的に、児童生徒性暴力等を明確に禁止しています。
文部科学省は2026年4月にも基本指針を改訂し、法施行後3年の見直しを踏まえて学校現場での運用強化を進めています。
今回の千葉市調査における「セクハラと思われる言動」と、法律上の「児童生徒性暴力等」は必ずしも同じ概念ではありません。
それでも、児童生徒が身体や性に関する言動をどう受け止めたかを早期に把握することは、より重大な被害の予防にもつながります。
7.「セクハラ」という言葉自体が子どもに難しかった
今回、市教委が示した改善点の中でも重要なのが、調査票の分かりやすさです。
従来の質問には「セクハラ」という言葉や多くの漢字が使われており、児童生徒にとって分かりにくい内容だったとしています。今後は、子どもがより回答しやすい表現や設問へ見直します。
これは単なるアンケート技術の問題ではありません。
子ども自身が、
「されたことがおかしい」
「誰かに相談していい」
と認識できなければ、被害を訴えることは困難です。
8.「子どもが言える学校」になっているか
千葉市は今後、毎年4月を「生命(いのち)の安全教育月間」とし、子どもの権利や暴力から自分の心身を守るための教育を進めます。
また、第三者による校内の死角の点検、相談体制の充実、教職員研修、対応フローの見直しなども行うとしています。
調査結果の評価で重要なのは、件数が前年より増えたか減ったかだけではありません。
むしろ、
子どもが「嫌だった」「怖かった」と言える仕組みになっているか
そして、
申告された内容について、大人が適切に調査し、必要な対応につなげられるか
を見る必要があります。
体罰
学校教育法第11条で禁止されている、教員等が児童生徒に対して行う身体的な罰。
児童生徒性暴力等
教育職員等による児童生徒性暴力等防止法に定義される、教員などが児童生徒に行う性的行為等。教育職員による行為は厳格に禁止されている。
生命(いのち)の安全教育
子どもが生命を大切にし、性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないことを目指して文部科学省などが進める教育。
申告件数と認定件数
アンケート等で被害を訴えた件数と、調査後に事実として確認・認定された件数は異なる。統計を見る際には区別が必要となる。
千葉市「令和7年度(令和8年度集計)体罰およびセクシュアル・ハラスメント等に関する調査結果について」
https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/20260914-4-1.pdf
千葉市「資料1 令和7年度(令和8年度集計)体罰およびセクシュアル・ハラスメント等に関する調査結果」
https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/20260914-4-2.pdf
千葉市「令和8年9月記者発表資料」
https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/kisya2609.html
文部科学省「学校教育法」
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1317990.htm
文部科学省「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331908.htm
文部科学省「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/mext_00001.html
e-Gov法令検索「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=503AC1000000057

