世界メノポーズデー2026 慢性疼痛と女性の働く権利、法改正後の課題

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この記事のポイント

1.国際閉経学会は2026年10月18日の世界メノポーズデーで「中年期の慢性疼痛」をテーマに掲げ、女性の痛みが軽視される問題を取り上げた。
2.経済産業省の試算では、女性の更年期症状による経済損失は年間約1.9兆円。離職や就労継続への影響が課題となっている。
3.2026年4月施行の改正女性活躍推進法では女性の健康特性への配慮が明記され、「えるぼしプラス」認定も創設。職場の健康支援とプライバシー保護の両立が問われている。

窓辺で物思う働く女性
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2026年のテーマは「中年期の慢性疼痛」

国際閉経学会(International Menopause Society、IMS)は、2026年10月18日の「世界メノポーズデー」で、「中年期の慢性疼痛(Chronic Pain at Midlife)」を年間テーマに掲げた。更年期前後の女性が経験する慢性的な痛みに対し、医学的な理解や診療体制が十分に整っていない問題を取り上げ、科学的根拠に基づく医療と社会的理解の促進を呼びかけている。

IMSは、女性の痛みが性別に関する固定観念によって軽視され、心理的な問題として扱われる場合があると指摘した。痛みの訴えを適切に評価せず、必要な検査や治療につながらなければ、症状の長期化だけでなく、生活や就労にも影響が及ぶ。

日本では、日本女性医学学会が10月18日から24日までを「メノポーズ週間」として啓発活動を展開している。2026年度は、2025年度版のホルモン補充療法ガイドラインに準拠した一般向けガイドブックを改訂し、適切な医療につながるための情報提供を進める。厚生労働省、経済産業省、日本医師会などが後援している。

「更年期だから仕方ない」が生む医療への障壁

更年期とは、一般に閉経を挟んだ前後約10年間を指す。日本では45~55歳ごろが目安とされるが、時期や症状には個人差がある。

女性ホルモンの変動に伴い、ほてりや発汗、睡眠障害、倦怠感、肩こりなど、多様な症状が生じる場合がある。症状によって日常生活に支障が生じ、ほかの疾患が原因ではないと判断される状態が「更年期障害」である。

ただし、中年期に現れる痛みを、すべて更年期によるものと判断することは適切ではない。 別の疾患によって症状が生じている可能性もあり、必要な診察や検査を受けることが欠かせない。厚生労働省も、更年期症状の背後に重大な疾患が隠れていないか確認することの必要性を説明している。

ここには二つの問題がある。

第一は、本人が痛みを訴えても「年齢による自然な変化」と受け止められ、必要な医療に到達できない可能性である。第二は、症状の原因を十分に調べないまま更年期と決めつけることで、別の疾患の発見が遅れる危険である。

IMSが2026年のテーマに慢性疼痛を選んだことは、痛みを単なる個人の不調として扱わず、医療へのアクセスや適切な診断を受ける機会という問題として考える契機となる。

女性の更年期症状による経済損失は年間1.9兆円

更年期症状が及ぼす影響は、医療の領域にとどまらない。

経済産業省が2024年2月にまとめた試算では、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円。このうち、更年期症状による損失が約1.9兆円と、半分以上を占めている。

内訳を見ると、離職による損失が約1兆円、業務効率やパフォーマンスの低下が約5,600億円、欠勤が約1,600億円と推計された。これらは関連研究や調査を基にした経済的影響の推計値であり、実際に発生した損失を集計したものではない。

この数字から読み取るべきなのは、単に企業の生産性が低下するということではない。

症状によって働き続けることが難しくなれば、本人は収入だけでなく、昇進や職業能力を高める機会、社会保険への加入を含む中長期的な生活基盤に影響を受ける場合がある。

特に、更年期を迎える年代は、職場で責任のある業務を担う時期と重なることも多い。医療機関への通院や休養が必要になった際、柔軟な勤務制度がなければ、症状の悪化と就労上の不利益が重なる可能性がある。

もっとも、離職の原因を更年期症状だけに帰することも適切ではない。労働時間、職場の人員配置、家庭での介護や家事の負担、雇用形態などが重なる場合もあるため、健康上の課題と労働環境の問題を分けて把握する必要がある。

2026年4月、女性活躍推進法に健康配慮を明記

こうした問題に対し、日本の雇用政策でも制度改正が行われた。

2025年6月11日に公布された改正法により、女性活躍推進法の基本原則に、女性の健康上の特性に留意して職業生活における活躍を推進することが明記された。関連する規定は2026年4月1日に施行されている。

厚生労働省は、企業が一般事業主行動計画を策定する際の指針も改正し、女性の健康課題に対応する取組を示した。具体的には、健康に関する研修、通院や休養のための休暇制度、時差出勤、フレックスタイム制、テレワーク、産業医などへの相談体制が挙げられている。

従来の女性活躍推進政策では、女性の採用や管理職登用、勤続年数、男女間賃金格差などが主要な政策指標となってきた。今回の改正は、就労機会や登用の拡大に加え、健康上の特性に配慮して働き続けられる環境を整えるという考え方を法律上明確にしたものである。

ただし、改正によってすべての企業に「更年期休暇」の創設が一律に義務付けられたわけではない。指針で示された柔軟な働き方や特別休暇の整備は、企業に取組を促す性格を持つ。

他方、労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命や身体などの安全を確保して働けるよう、必要な配慮を行うことを定めている。個別の健康状態と就業上の危険を把握した場合の対応については、この安全配慮義務との関係も生じ得る。

新設された「えるぼしプラス」は何を評価するのか

2026年4月には、厚生労働省による新しい企業認定制度「えるぼしプラス」と「プラチナえるぼしプラス」も創設された。

女性活躍の取組が優良な企業を認定する従来の「えるぼし」「プラチナえるぼし」に、女性の健康支援に関する基準を追加した制度である。

厚生労働省は2026年度、事業主や人事労務担当者、産業医などを対象としたオンデマンド研修も実施している。また、中小企業向けの「両立支援等助成金」には、月経や更年期症状に対応する休暇制度等を利用しやすくする環境整備と、その利用実績などを要件とする支援メニューが設けられている。

企業が制度を導入する際には、認定取得を目的とした形式的な整備にとどまらないことが必要になる。

例えば、特別休暇制度を設けても、取得すると人事評価に不利になると受け止められる職場では、実際の利用が進みにくい。相談窓口が存在しても、相談内容が上司や同僚に広まる懸念があれば、従業員が利用をためらう可能性もある。

認定制度の実効性を検証するには、制度の設置状況だけでなく、利用実績、職場内での周知、健康課題を理由とする離職の防止、プライバシーの保護などを確認する必要がある。

健康支援が新たな差別につながる危険

更年期への理解を深める取組には、別の注意点も存在する。

女性の健康特性への配慮を進める一方で、「一定の年齢になった女性は体調が不安定になる」「重要な業務を任せにくい」といった固定観念が広がれば、本人の能力や希望とは関係なく配置や昇進の機会が制限されるおそれがある。

これは、健康支援を目的とする施策が、結果として新たな不利益を生む可能性を示している。

職場が行うべきなのは、年齢や性別によって従業員の健康状態を推測することではない。必要な支援を本人が相談でき、就業上の調整を行う際には本人の意思や具体的な状態を確認する仕組みを整えることである。

健康情報の取扱いにも配慮が欠かせない。症状や受診歴は私生活に深く関わる情報であり、人事部門や管理職が必要以上に共有すれば、プライバシーの侵害につながり得る。

厚生労働省は、2026年の女性の健康支援に関する施策のなかで、健康情報のプライバシー保護に特に留意することを明示している。加えて、性別を問わず利用できる特別休暇制度や柔軟な勤務制度の整備も有効な方法としている。

実際、男性にも加齢に伴うホルモンの変化などによる健康課題がある。東京都は2026年9月に「働く男性の健康課題分科会」を公開し、10月には世界メノポーズデーに合わせて女性と男性の更年期への理解を深める情報を発信した。

性別による身体的な違いを医療や職場の支援に反映することと、性別によって能力や適性を決めつけることは区別しなければならない。

健康上の問題を抱えても働き続けられる社会へ

2026年の世界メノポーズデーが提起した慢性疼痛の問題は、適切な医療を受ける機会と、健康状態に応じて働き続ける機会という二つの権利に関わっている。

必要な医療を受けられなければ、本人の生活の質や就労能力に影響が及ぶ。職場に柔軟な働き方がなければ、症状があっても無理をして働き続けるか、仕事を離れるかという選択に追い込まれる場合がある。

国際閉経学会は、慢性疼痛への対応において、性別に関する偏見を排し、個々の患者の状態に応じた医療や複数の専門領域による支援の必要性を示した。

日本でも、2026年4月に始まった「えるぼしプラス」認定や改正女性活躍推進法の運用を通じ、健康支援を労働環境の整備につなげる仕組みが動き始めている。

今後、厚生労働省が企業の健康支援の実施状況をどのように把握し、企業が休暇制度や勤務調整、相談体制をどこまで実際に利用できるものとして整備するかが検証事項となる。

日本女性医学学会が10月24日まで実施するメノポーズ週間と、厚生労働省による2026年度の健康支援施策は、更年期を個人の問題として扱うだけでなく、医療と職場の双方から支援する体制を見直す機会となる。

出典

出典 国際閉経学会(IMS)「World Menopause Day 2026」 URL:https://www.imsociety.org/education/world-menopause-day-2026/

出典 日本女性医学学会「2026年度メノポーズ週間」 URL:https://www.jmwh.jp/meno/2026meno.html

出典 厚生労働省「働く女性の健康支援について」 URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku05/index.html

出典 厚生労働省「令和7年度 女性の健康週間」 URL:https://kennet.mhlw.go.jp/slp/event/womans_health2026/index.html

出典 厚生労働省「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 資料1-2」(経済産業省による更年期症状の経済損失試算を収録) URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001282516.pdf

出典 厚生労働省「労働契約法」
URL:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73aa9536

出典 東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」
URL:https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/information/

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関連用語 安全で健康的な労働環境
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