ハンセン病療養所の納骨堂 遺骨が故郷に戻れなかった理由

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この記事のポイント

1.国立ハンセン病療養所13園では、公表資料で確認できる2020年10月時点で計1万6,801柱の遺骨が納骨堂・霊安堂に納められていた。
2.療養所の納骨堂に遺骨が残った背景には、単に身寄りがなかっただけでなく、長期隔離による家族関係の断絶や、家族がハンセン病との関係を知られることを恐れた差別の問題があった。
3.国は2011年、遺骨を故郷へ返す努力を最大限行う一方、全国の療養所の納骨堂を永久に責任を持って管理すると確認し、2026年3月にも厚生労働大臣が保存の必要性を改めて述べた。

海を望む静かな追悼庭園のイメージ
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2026年3月、厚労相が納骨堂の保存を明言

2026年3月24日、厚生労働大臣は国立ハンセン病療養所の将来像に関する記者会見で、各療養所に残る納骨堂や監禁室について、隔離政策の歴史を後世に伝える歴史的建造物として国の責任で確実に未来へ残し、普及啓発に生かしていく考えを示した。入所者の高齢化と減少が進む中で、療養所をどのように残すかは現実の政策課題になっている。

納骨堂は、その中でも特に重い意味を持つ。一般の納骨施設であれば、そこに遺骨があること自体から人権問題を読み取ることは難しい。しかし、ハンセン病療養所の納骨堂では事情が異なる。そこに残る多数の遺骨は、生前に故郷や地域から切り離され、死後もなお元の生活圏へ戻れなかった人々の歴史を示しているからだ。

13の国立療養所に残る多数の遺骨

厚生労働省が公表する施設一覧では、現在の国立ハンセン病療養所は松丘保養園、東北新生園、栗生楽泉園、多磨全生園、駿河療養所、長島愛生園、邑久光明園、大島青松園、菊池恵楓園、星塚敬愛園、奄美和光園、沖縄愛楽園、宮古南静園の13園である。

泉佐野市が公開している学習資料によると、2020年10月時点で、これら13園の納骨堂・霊安堂に納められていた遺骨は計1万6,801柱だった。この数字は2026年現在の最新集計ではないが、療養所に残された遺骨の規模を把握するうえで重要な公表資料といえる。

個別の施設を見ても、数は小さくない。大島青松園社会交流会館は、納骨堂に2,100人を超える遺骨が眠っていると案内している。国立駿河療養所も、2025年8月1日時点で、分骨を含む325体の遺骨が納骨堂に納められていると公表している。これらの数字は、納骨堂が療養所の片隅に付随する施設ではなく、隔離政策の結果として形成された大きな痕跡であることを示している。

「引き取り手がない」の背後にあった差別

納骨堂に遺骨が残った理由を、単純に「身寄りがなかったから」と説明するのは不十分である。国立ハンセン病資料館は、家族が差別を恐れて遺骨の引き取りを拒み、患者が亡くなった後も家族のもとへ帰ることができない状況が続いたと説明している。

ハンセン病患者が療養所へ送られることは、本人だけでなく家族にも影響を及ぼした。家族に患者がいることが地域に知られれば、結婚、就職、近隣関係などで不利益を受けるおそれがあった。療養所に入った家族との関係そのものを隠さざるを得なかった人もいた。遺骨を引き取る行為は、亡くなった人との家族関係を公に示すことにもなり得るため、そこにも差別の影が落ちていた。

2019年のハンセン病家族訴訟熊本地裁判決は、国の隔離政策が患者本人だけでなく家族にも深刻な偏見と差別を生じさせたと認定した。納骨堂に遺骨が残った事情は、この家族差別の歴史とも切り離せない。

隔離政策は死後の埋葬にも及んだ

日本では1907年の「癩予防ニ関スル件」で療養所への隔離が制度化され、1931年の「癩予防法」、1953年の「らい予防法」でも隔離政策が続いた。廃止は1996年である。長期にわたる隔離のもとで、療養所は治療施設であると同時に、入所者が生活し、働き、老い、死を迎える場になった。

その結果、療養所の内部には診療施設や住居だけでなく、火葬場や納骨堂も整備された。沖縄愛楽園では、開園当初から棺や骨箱の製作、火葬、納骨までが入所者による患者作業として行われ、1940年には引き取り手のない遺骨を納める納骨堂が造られた。療養所は単なる入院先ではなく、社会から隔てられた生活空間として完結していたのである。

このことは、生前の隔離が死後の扱いにまで及んだことを意味する。どこで暮らすかだけでなく、どこで死に、どこに葬られるかまで、隔離政策の影響が及んでいた。

法律は改葬費の支給を国の責務とした

2008年に成立した「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」は、死没者の焼骨について具体的な規定を置いている。同法第18条は、国立ハンセン病資料館の設置や歴史的建造物の保存などによる名誉回復を定めるとともに、国立ハンセン病療養所等に収蔵されている死没者の焼骨について、改葬費を遺族に支給することを国の責務として明記した。

改葬とは、納骨堂などにある遺骨を家族の墓所や別の場所へ移すことをいう。この規定は、療養所に残された遺骨の問題を、単なる私的な家族の事情ではなく、国の政策によって生じた被害の回復と位置付けている点で重要である。故郷に帰れなかった人を、死後にでも故郷や家族の墓へ戻す道を法制度として開いたからだ。

2011年の確認事項が示した二つの方向

もっとも、すべての遺骨が家族のもとへ戻れるわけではない。2011年9月のハンセン病問題対策協議会で、厚生労働省と統一交渉団は、全国すべての療養所の納骨堂について重要な確認を行った。そこでは、被害者の意思を十分尊重し、遺骨を故郷へ返す努力を最大限行うことが確認された一方、納骨堂そのものについては、永久に国が責任を持って管理することも確認されている。

この二つは矛盾するようでいて、実際には別の役割を示している。第一に、現在も納骨堂に残る遺骨を尊厳をもって安置する場所としての役割がある。第二に、なぜこれほど大規模な納骨施設が療養所の中に必要だったのかを、隔離政策の歴史として後世へ伝える役割がある。2026年3月の厚生労働大臣発言は、この二つ目の意味を改めて明確にしたものといえる。

納骨堂は「死後まで続いた隔離」を伝える場所

遺骨が故郷へ戻れば問題が終わるわけではない。なぜ家族が引き取れなかったのか、なぜ故郷の墓ではなく療養所の納骨堂に残されたのかを考えなければ、差別の歴史は見えにくいままである。国立ハンセン病資料館は、ハンセン病問題を、国の誤った政策によって患者、回復者、家族の人権が侵害され、激しい偏見差別にさらされた問題と説明している。

納骨堂は、その被害が死後にも及んだことを示す施設である。そこには、故郷へ帰れなかった人、家族に迎えられなかった人、家族自身もまた差別の中で沈黙を強いられた人の歴史が残る。単なる慰霊施設として見るだけでは、この意味は十分に伝わらない。

入所者が減少し、療養所の将来が議論される時代に入ったいま、納骨堂をどう保存し、どう継承するかは、過去の問題ではなく現在の政策課題である。遺骨を故郷へ返す努力を続けること、残された遺骨を尊厳をもって守ること、そして納骨堂を隔離政策の歴史資料として残すこと。この三つを同時に進めることが、ハンセン病問題の解決に残された課題といえる。

出典

厚生労働省「上野大臣会見概要 令和8年3月24日」
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00908.html

厚生労働省「平成23年度ハンセン病問題対策協議会における確認事項」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/hansen/hourei/20.html

e-Gov法令検索「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC1000000082

厚生労働省「令和8年度ハンセン病問題対策協議会」
https://www.mhlw.go.jp/stf/photo_report/2026/ph0622-01.html

国立ハンセン病資料館「ハンセン病問題について」
https://www.nhdm.jp/about/issue/

国立ハンセン病資料館「展示見学」
https://www.nhdm.jp/services/exhibition/

国立駿河療養所「施設紹介」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/hansen/suruga/overview/facility/

大島青松園社会交流会館
https://oshima-memorial-museum.go.jp/

国立療養所沖縄愛楽園「施設紹介」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/hansen/airakuen/site/information.html

泉佐野市「ハンセン病回復者と家族の人権」
https://www.city.izumisano.lg.jp/material/files/group/12/R6yuryosyudan_E.pdf

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人権ニュース編集部

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