① 部落解放同盟は法務省に対し、ネット上の部落差別情報への実効的な対応を求めた。
② 法務省公式統計では、2025年にインターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件が1569件発生している。
③ 2025年施行の「情報流通プラットフォーム対処法」は大規模事業者に削除申出への迅速な対応や透明性確保を義務づけるが、「差別情報をすべて自動削除する法律」ではない。

1.部落解放同盟が法務省と交渉
部落解放同盟は2026年7月22日、法務省と交渉し、インターネット上の部落差別情報への対応や、部落差別解消推進法の具体化などを求めました。
同盟の機関紙「解放新聞」によると、法務省側は、2025年にインターネット上の部落差別情報について新たに救済手続きを開始した事案が497件あったことや、2023年から2025年までのプロバイダ等による削除対応率が約57%だったことなどを説明したとされています。
ただし、ここは情報源を明確に区別する必要があります。
「497件」「約57%」という数字は、今回確認した範囲では部落解放同盟の記事が法務省の回答として掲載したものです。
法務省自身の統計ページから直接取得した数字とは分けて扱う必要があります。
2.法務省公式統計ではネット人権侵犯1569件
一方、法務省が公式に公表した「令和7年における『人権侵犯事件』の状況」では、2025年にインターネット上の人権侵害情報に関する事件が1569件あり、引き続き高い水準にあるとされています。
これは部落差別だけの件数ではなく、名誉毀損、プライバシー侵害、差別的言動などを含むインターネット上の人権侵害全体の数字です。
異なる統計を混同しないことが重要です。
3.「同和地区を特定する情報」も人権問題に
法務省は、インターネット上で特定の地域を「同和地区」であると指摘する情報について、人権擁護上の問題となり得るとしています。
法務局が、特定地域を同和地区であると識別し、不当な差別的取扱いを助長・誘発する目的が認められる情報を把握した場合、サイト管理者などに削除を要請することがあります。
ネットでは、地域名だけでなく、住所、地図、写真、動画などが組み合わされることがあります。
過去には紙の資料として流通していた差別につながる情報が、現在では検索エンジンを通じて世界中から閲覧できるという違いがあります。
4.部落差別解消推進法が想定した「情報化」
部落差別解消推進法第1条は、部落差別が現在も存在すると同時に、「情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」と明記しています。
法律が成立した2016年の段階で、インターネットが部落差別の形を変えていることが制度上も認識されていたことになります。
5.「情プラ法」は何を変えたのか
ネット上の権利侵害に関係する制度として重要なのが、いわゆる「情報流通プラットフォーム対処法」です。
旧プロバイダ責任制限法が改正され、2025年4月に新制度が施行されました。
法律は、大規模なプラットフォーム事業者に対し、
被害者からの削除申出を受け付ける方法を公表すること、
一定期間内に対応を判断すること、
削除基準などを公表すること、
削除対応の透明性を確保すること
などを求めています。
6.「申請したら必ず消える法律」ではない
ここは誤解されやすいところです。
情プラ法は、
「不快だとの申出があれば投稿をすべて削除する」
という法律ではありません。
投稿した側の表現の自由も存在するため、権利侵害が認められるかなどを事業者が判断する必要があります。
一方で、従来、削除申出をしても「いつ判断されるのか分からない」「窓口が分かりにくい」といった問題があったことから、対応手続の迅速化と透明化を図るのが制度改正の目的です。
7.部落解放同盟が問題視する「実効性」
部落解放同盟側は、現状の削除制度では十分な効果が上がっていないとの立場から、大規模プラットフォームへの働きかけや、中小事業者への啓発、削除制度の実効性向上などを求めています。
ここでも、
「部落解放同盟が求めている政策」
と
「現在の法律が事業者に義務づけている内容」
は区別して考える必要があります。
8.削除しても「複製」が残るネット社会
インターネット上の差別情報対策で難しいのは、一つの投稿を削除すれば問題が解決するとは限らないことです。
画像が保存される。
SNSへ転載される。
別サイトへコピーされる。
検索結果にキャッシュが残る。
動画として再投稿される。
こうした「複製可能性」は、ネット上の人権侵害に共通する課題です。
そのため今後は、削除申出への迅速な対応だけでなく、
差別情報を発見した際の行政機関との連携、
複数プラットフォームにまたがる拡散への対応、
相談・救済制度の周知、
ネットリテラシー教育
などを組み合わせていく必要があります。
情プラ法施行から1年以上が経過した現在、問われるのは法律が存在するかどうかではなく、実際の被害をどこまで減らせているのかという制度の実効性です。
情報流通プラットフォーム対処法
旧プロバイダ責任制限法を改正した法律。大規模プラットフォーム事業者に、侵害情報への対応迅速化や透明性確保などを求める。
人権侵犯事件
法務局・地方法務局が人権侵犯の疑いがあるとして調査・救済手続きを行う事件。
同和地区識別情報
特定の地域を同和地区であると特定する情報。差別を助長・誘発する目的が認められる場合などには、法務局が削除要請を行うことがある。
削除要請
行政機関や被害者などが、サイト管理者・プラットフォーム事業者に問題となる投稿等の削除を求めること。裁判所による削除命令とは異なる。
部落解放同盟中央本部「<法務省交渉>実効性ある対処求め~ネット差別の現状など追求」
http://www.bll.gr.jp/info/news2026/news20260815-4.html
法務省「令和7年における『人権侵犯事件』の状況について」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken05_00117.html
法務省「部落差別(同和問題)を解消しましょう」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00127.html
法務省「インターネット上の人権侵害をなくしましょう」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken88.html
e-Gov法令検索「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」
https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000137
e-Gov法令検索「部落差別の解消の推進に関する法律」
https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC1000000109

