
カスタマーハラスメント対策は、労働者を守る制度である一方、利用者や顧客の正当な権利行使を不当に排除してはならない。厚生労働省通知は、障害者差別解消法との関係について、不当な差別的取扱いをしないよう求めること自体や、社会的障壁の除去を必要としている旨を表明すること自体は、カスタマーハラスメントに当たらないと明記している。合理的配慮の申出を「迷惑行為」と扱えば、カスハラ対策が障害者差別の口実となりかねない。
通知は、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を本人の了解なく暴露する行為も、カスハラの文脈で問題となり得ると整理している。これは、顧客等による言動であっても、労働者の人格、プライバシー、属性に関する尊厳を侵害する場合には、職場のハラスメントとして扱うべきことを示すものである。カスハラ対策は、接客現場の秩序維持にとどまらず、SOGI、病歴、障害、国籍などに関わる差別的言動から労働者を守る仕組みでもある。
同時に、行政、医療、福祉、電気・ガス等のインフラ分野では、サービス提供が途絶すると利用者の生命や心身の健康に重大な影響を及ぼす場合がある。通知も、各業法等によりサービス提供義務が定められている場合や、サービス停止が重大な影響を及ぼす場合には、各分野の性質に留意して適切に対応する必要があるとしている。したがって、単純に「カスハラだから拒否する」という運用ではなく、安全確保、代替対応、複数職員対応、記録化、専門部署への引継ぎなど、分野ごとの手順を整えることが求められる。
制度面では、厚生労働大臣又は都道府県労働局長による助言、指導、勧告、勧告に従わない場合の公表、報告請求に応じない場合等の過料も整理されている。カスハラ防止義務は、企業イメージ対策ではなく、行政による履行確保の対象となる制度である。今後、企業、地方公共団体、医療・福祉機関、教育機関は、労働者の尊厳を守りながら、利用者の権利保障を損なわない対応基準を具体化する必要がある。人権の観点からは、被害を受ける労働者と、支援や配慮を必要とする利用者を対立的に捉えない制度運用が課題となる。
厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001695607.pdf
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