1.性的同意が常に必要との回答は81.17%だったが、雰囲気や関係性から同意を判断する回答も残った
2.2023年の刑法改正を知らない人は55.23%に上り、制度変更が日常の判断基準まで浸透していない
3.文部科学省は教材に性的同意を加えたが、授業を一度行うだけでなく、具体的な場面を反復して考える仕組みが課題となる

性的同意81%でも残る判断のずれ
ヒューマンライツ・ナウが18歳以上39歳以下の3000人を対象に実施した調査では、81.17%が「性的な行為には常に同意が必要」と答えた。言葉による明確な意思表示を同意の基準とした人も68.17%に達した。
ところが、「態度や雰囲気から同意していると感じる」は24.13%、「関係性があれば同意していると考えることが多い」は19.37%、「明確に拒否・抵抗されない限り、同意していないとは判断しない」は17.80%だった。理念として同意の必要性を認めながら、現実の場面で採用する判断基準が一致していない。
沈黙や無抵抗は同意を意味しない
このずれは、性的同意が「相手が嫌だと言ったか」を確認する知識として理解され、意思を自由に示せる状態まで含めて捉えられていないことを示す。
交際している、ホテルに入った、過去に性的関係があった、黙っていたという事情は、その時点の同意を当然に導かない。恐怖、驚き、飲酒、上下関係、経済的依存などがあれば、拒否の言葉を発すること自体が難しくなるためである。
ヒューマンライツ・ナウが紹介した「5F」の反応は、被害時に人が戦う、逃げるだけでなく、固まる、迎合する、脱力するといった反応を示す場合があることを説明している。抵抗がなかったという事実だけで、本人が同意していたとは判断できない。
刑法改正を知らない人が55%
2023年7月施行の改正刑法は、強制性交等罪と準強制性交等罪を不同意性交等罪へ再構成した。制度の中心は、被害者が激しく抵抗したかではなく、暴行・脅迫、アルコール、恐怖、虐待、地位による影響力などによって、同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難だったかという判断である。
ただし、今回の調査で刑法の性犯罪規定が改正されたことを知らないと答えた人は55.23%に上った。設問上の「同意のない性交が犯罪であること」を知らなかったとする回答も39.17%だった。
刑法の条文が変わっても、交際中や飲酒時に何を確認すべきかが共有されなければ、制度変更は日常の行動に結び付きにくい。法改正の周知とともに、どのような状態では自由な意思表示が難しくなるのかを具体的に伝える必要がある。
学校教材に性的同意を追加
学校教育も転換点にある。文部科学省は2026年3月、「生命(いのち)の安全教育」の教材と指導の手引きを改訂し、中学校・高校段階で性的同意を明確に扱う内容を加えた。
改訂版は、自分と相手の心身に境界線があること、同意なく境界線を越える性的行為は性暴力に当たること、非対等な関係が性暴力につながる場合があることを示している。被害経験のある生徒が教室にいる可能性を前提に、授業中の退席を認め、養護教諭やスクールカウンセラーによる授業後の対応を準備することも記載した。
ただし、教材の改訂だけで普及が完了したとはいえない。松本洋平文部科学大臣は2026年2月20日の記者会見で、「生命の安全教育」は2023年度に約15%の学校での実施にとどまったと説明している。
知識を具体的な行動へ移す教育
授業が行われても、性的同意という用語の説明だけで終われば、飲酒時、交際中、先輩と後輩、教員と学生といった具体的な力関係を判断する練習にはならない。
相手が沈黙した場合、途中で意思を変えた場合、アルコールの影響がある場合に、どのように確認し、行為を中止するかまで扱う必要がある。性暴力を目撃した周囲の人が介入する方法や、被害を相談された際に責めずに話を聴き、専門窓口へつなぐ対応も教育内容に含まれる。
ヒューマンライツ・ナウのハンドブックは、学校、大学、サークル、職場で使用できるよう、飲酒、沈黙、上下関係などの場面を取り上げている。2026年改訂の「生命の安全教育」と組み合わせる場合、教育機関は教材を配布したかだけでなく、生徒や学生が「拒否がないこと」と「自由な同意」を区別できるか、相談を受けた際の校内対応が整っているかを確認する必要がある。
3000人調査が示したのは、性的同意という言葉の認知不足だけではない。制度上の原則を、交際、飲酒、学校、職場などの日常的な場面で具体的な行動に移すための教育機会が不足している実態である。
ヒューマンライツ・ナウ「『性的同意に関する意識調査』結果報告およびユース制作の性的同意ハンドブック紹介」
URL:https://hrn.or.jp/hokoku/29351/
ヒューマンライツ・ナウ「18歳以上39歳以下の『性的同意』に関する意識調査」記者会見のお知らせ
URL:https://hrn.or.jp/news/29266/
文部科学省「生命(いのち)の安全教育 指導の手引き(拡充・改訂)」
URL:https://www.mext.go.jp/content/20260326-mxt_kyousei02-000014005-001.pdf
文部科学省「松本洋平文部科学大臣記者会見録(令和8年2月20日)」
URL:https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00667.html
法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」
URL:https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html

