世界ロマ語デー2026 欧州で言語保護会議、AI活用と教育格差を議論

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この記事のポイント

1.11月5日の「世界ロマ語デー」に合わせ、欧州評議会と欧州ロマ芸術文化研究所がフランスで国際会議を開催。少数言語の保護やAIによる継承を議題に据えた。
2.欧州16か国がロマ語を少数言語として保護。欧州評議会が公表した教育研究では、3か国10校でロマ語と文化を尊重する教育の成果を検証した。
3.EU基本権機関の調査では、対象となったロマなどの子どもの46%が同じ民族集団の児童生徒が大半を占める学校に通っていた。教育機会の平等と文化的権利を、日本のアイヌ語政策とも比較する。

ロマ音楽と学びの交流風景
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世界ロマ語デーに国際会議、ストラスブールで言語継承を議論

2026年11月5日、フランス・ストラスブールの欧州評議会本部で、第7回国際会議「ロマ語の保護(Safeguarding Romani Language)」が開催された。欧州評議会のロマ・トラベラー部門と欧州ロマ芸術文化研究所(ERIAC)が主催し、ロマ語の学校教育への導入、国際的な言語政策、人工知能(AI)を活用した保存・継承などを議題に据えた。事前に公表されたプログラムでは、欧州各国の言語学者、政策担当者、技術専門家、ロマ語作家らによる討論や文学イベントが予定されていた。

11月5日は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が2015年に制定した「世界ロマ語デー(World Day of Romani Language)」でもある。ロマ語は、ヨーロッパ各地で暮らす民族的少数者「ロマ」の人々によって受け継がれてきた言語で、多様な方言が存在する。ユネスコは、この記念日を通じてロマ語とロマ文化の保存、ロマの人々の福祉の向上、言語の多様性の尊重を促している。言語を守ることは、民族の歴史や文化を伝えるだけでなく、自らの言葉を使い、学び、表現する機会を保障することにも関わっている。

欧州16か国でロマ語を保護、国際条約の役割

ロマ語の保存には、欧州評議会の「欧州地域・少数言語憲章」が関係している。同憲章は、地域や民族的少数者が伝統的に使用してきた言語の保護と振興を目的とする国際条約である。欧州評議会によると、オーストリア、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、スロバキアなど16か国がロマ語を保護対象として認めている。ただし、各国の保護水準や教育制度は同一ではなく、言語教育やメディアでの利用環境には違いがある。

欧州評議会は、ロマ語を学校教育の適切な段階で教えることや、保育段階から職業教育に至るまで学習機会を広げること、メディアでの利用を進めることなどを各国に勧告してきた。保護の対象となる言語を公的に認めることと、実際にその言語を学べる学校や教材、教員を確保することは別の課題である。今回の国際会議でも、ロマ語の教育、各国間での言語政策の調整、継承のための制度整備が主要なテーマとなった。

3か国10校で教育効果を検証、母語を尊重する学校づくり

欧州評議会が公表した教育研究「ロマ語・複言語政策実験(Romani-Plurilingual Policy Experimentation:RPPE)」では、2022年から2025年にかけて、ギリシャ、スロバキア、スロベニアの3か国にある計10校で、ロマ語とロマ文化を学校生活に取り入れる取組が実施された。報告書によると、児童生徒の言語的背景を尊重する教育は、ロマの子どもの自尊感情や学習意欲、授業への参加に良い影響を与えた。ロマ以外の子どもにも、共感や相互理解を育む効果が報告されている。

この取組の基礎にあるのは「複言語教育(plurilingual education)」という考え方である。複言語教育は、子どもが家庭や地域で身につけた複数の言語経験を、学校での学習に生かす教育を指す。例えば、家庭でロマ語を話す子どもが学校では多数派の言語を使う場合、家庭の言語を否定するのではなく、その知識や経験も授業に取り入れながら、学校で必要な言語能力を育てていく。

もっとも、3か国10校の成果を、そのまま欧州全体の教育状況に当てはめることはできない。教員の研修、教材の整備、学校と保護者の関係など、導入条件は地域によって異なる。それでも、少数言語を尊重する教育が文化の保存だけでなく、子どもの学習参加や学校生活にも関係することを示した実践例となっている。

ロマの子どもの46%、学校での民族的な分離が課題

言語を学ぶ権利と密接に関わるのが、教育機会の平等である。EU基本権機関(FRA)が2025年10月に公表した調査では、対象となったロマやトラベラーの子どもの46%が、同じ民族集団の児童生徒が全員または大半を占める学校に通っていた。後期中等教育を修了した割合は32%で、比較対象となる一般人口の84%を大きく下回った。

この調査は、EU加盟国と加盟候補国の計13か国を対象としたもので、ヨーロッパ全体の状況を示すものではない。学校で特定の民族集団が多数を占める理由には、居住地域の人口構成や学校制度など複数の要因が考えられるため、その事実だけで個々の学校が差別的な隔離を行っていると判断することはできない。ただし、FRAは教育における民族的な分離を解消すべき課題としており、EUも2030年までに、ロマの児童が同じ民族集団の児童生徒が大半を占める学校に通う割合を20%未満にすることを目標に掲げている。

ここで区別したいのは、少数言語を学ぶ機会を保障することと、民族的な背景によって教育機会が分離されることは異なるという点である。ロマ語の教育を充実させることは、ロマの子どもを特定の学校に集めることと同義ではない。多数派の言語を学び、進学や就職の機会を広げながら、自らの言語や文化も継承できる教育環境を整えることが、言語的権利と教育の平等を両立させるための課題となる。

AIによるロマ語の保存、翻訳技術と当事者の権利

第7回国際会議では、人工知能を利用した言語保存も議題に含まれた。事前に公表されたプログラムでは、ERIACと米マイクロソフトの協力を踏まえ、AIによる翻訳、音声認識、デジタル言語資料の整備などの可能性を検討する構成が示されていた。AIを活用すれば、地域によって異なる方言の記録や音声資料の検索、学習教材の作成などに役立つ可能性がある。

ただし、少数言語のAI活用には、技術的な課題と人権上の問題が伴う。話者の少ない言語では、AIの学習に使用できる音声や文章のデータが限られる場合があり、翻訳や音声認識の精度を十分に確保できるとは限らない。地域ごとの方言や表現の違いを、単一の標準的な言語モデルに集約することが適切かどうかも検討事項となる。

言語資料の収集や利用を進める際には、話者本人の同意、文化的な知識の取り扱い、成果物の管理なども関係する。ERIACは会議のテーマとして、技術による言語の保存と、ロマのコミュニティ自身による管理や意思決定の両立を掲げた。言語を外部の研究者や企業が保存するだけではなく、その言語を受け継ぐ人々が、どのように記録し、利用し、次の世代に伝えるかを選べることも、文化的な権利を考える上で欠かせない。

ロマ語の文学と芸術、言語を使い続ける場の創出

今回の国際会議では、言語政策やデジタル技術に加えて、文学や芸術によるロマ語の継承も取り上げられた。公式プログラムには、フランスのロマ系芸術家マリナ・ロセル(Marina Rosselle)の作品「ロマ語の木(The Tree of the Romani Language)」を中心とした文学イベントが組み込まれた。ロマ語のさまざまな方言などによる詩や散文の朗読を通じ、現代のロマ文学を紹介する企画である。

こうした活動は、言語を辞書や音声資料として記録するだけでなく、現在の表現活動に使い続ける機会をつくるものである。言語の継承には、学校で学ぶ機会だけでなく、文学、音楽、地域活動、家庭での会話など、多様な使用の場が関係する。ロマ語の保存を文化的な遺産の保護に限定せず、現在の生活と結びついた言語活動として考えることが、国際会議のテーマにも反映されている。

日本のアイヌ語と比較、文化継承を支える制度

日本にも、少数言語の保存と継承に関する課題がある。文化庁によると、ユネスコはアイヌ語を、消滅の危機が「極めて深刻」な言語と評価している。日本では2019年にアイヌ施策推進法が施行され、アイヌ文化の保存や振興を図るための施策が進められている。文化庁は、各地に残るアイヌ語の音声資料をデジタル化し、アーカイブとして公開する事業も支援している。

ロマ語とアイヌ語には、話者の減少や言語の継承、教育機会の確保といった共通する課題がある。ただし、歴史的な経緯や制度上の扱いは異なる。日本のアイヌ民族は先住民族として認識されており、アイヌ施策推進法に基づく政策が進められている。これに対し、欧州のロマの人々については、民族的少数者の保護や差別の撤廃、少数言語の保護に関する各国の制度が関係する。異なる制度をそのまま比較することはできないが、言語を守る施策を、文化的な権利や教育への参加と結びつけている点には共通性がある。

日本の取組でも、アイヌ語を学ぶ講座や教材、デジタルアーカイブなどへのアクセスは、言語を理解し、継承するための具体的な機会となる。保存された資料を次の世代がどのように利用し、家庭や地域で言語を使う場を確保していくかという問題は、欧州のロマ語政策と共通する検討課題である。

言語を保存するだけでなく、使い続けられる環境へ

2026年の世界ロマ語デーに合わせた国際会議は、言語の保存、教育、AI技術、文学活動を結びつけて考える機会として企画された。欧州評議会が公表した3か国10校の教育研究は、子どもの言語的背景を尊重する学校づくりの具体例を示している。また、EU基本権機関の調査は、教育機会の格差や民族的な分離が依然として残っていることを明らかにした。

言語の保存と教育の平等は、別々の施策として進められる場合があるが、子どもが自らの言語的背景を否定されずに学び、社会に参加するためには、双方の取組が関係する。欧州評議会と欧州ロマ芸術文化研究所は、2026年から2030年までのロマ・トラベラー包摂戦略のもとで、ロマ語の保護、教育、使用の促進を進める方針を示している。11月5日のストラスブールでの会議は、少数言語の保存を、教育やデジタル技術、現代の文化活動へと結びつける取組として開催された。

出典

ユネスコ「World Day of Romani Language」
URL:https://www.unesco.org/en/days/romani-language

欧州評議会「Safeguarding Romani Language – 7th International Conference」(2026年10月15日)
URL:https://www.coe.int/en/web/roma-and-travellers/-/safeguarding-romani-language-7th-international-conference

欧州評議会「Language – Roma and Travellers」
URL:https://www.coe.int/en/web/roma-and-travellers/romani-language

欧州評議会「Factsheet on Romani language and the European Charter for Regional or Minority Languages」(2025年11月5日)
URL:https://www.coe.int/en/web/european-charter-regional-or-minority-languages/news/-/asset_publisher/t9sWxmY5eZkv/content/factsheet-on-romani-language-and-the-european-charter-for-regional-or-minority-languages

欧州評議会「Recognising every learner’s language: the Council of Europe draws the lessons of its Romani-plurilingual experimentation」
URL:https://www.coe.int/en/web/education/-/recognising-every-learner-s-language-the-council-of-europe-draws-the-lessons-of-its-romani-plurilingual-experimentation

EU基本権機関「Rights of Roma and Travellers in 13 European countries – Perspectives from the Roma Survey 2024」
URL:https://fra.europa.eu/el/publication/2025/roma-survey-2024

文化庁「消滅の危機にある言語・方言」
URL:https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/index.html

文化庁「アイヌ語の保存・継承に必要なアーカイブ化事業」
URL:https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/archivejigyo/

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人権ニュース編集部

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