医療的ケア児の「18歳の壁」 2027年改正法と短期入所不足

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この記事のポイント

1.厚生労働省は10月22日、2027年度の障害福祉報酬改定に向け、医療型短期入所の受け入れ体制を強化する検討案を提示した。
2.医療型短期入所の不足を指摘する自治体は調査回答の84.8%。利用者の増加と専門職の確保、家族の休息を支える制度の実効性が課題となっている。
3.2027年4月施行の改正支援法は、医療的ケア児から成人期まで支援対象を拡大。地域で暮らす権利と本人の意思を尊重した支援への転換が進む。

笑顔を交わす親子のケア時間

医療型短期入所の充実、2027年度報酬改定で検討

厚生労働省は2026年10月22日、第66回障害福祉報酬改定検討チームを開催し、2027年度(令和9年度)の障害福祉サービス等報酬改定に向けた検討資料を示した。今回の議題は施設入所支援、生活介護、短期入所、療養介護の4分野で、医療的ケアが必要な障害児・者を受け入れる医療型短期入所について、報酬による評価や受け入れ体制の拡充が検討事項となった。医療型短期入所は、人工呼吸器による呼吸管理や喀痰吸引などの医療的ケアを必要とする人が、一時的に医療機関等を利用する仕組みである。介護する家族の休息(レスパイト)、介護者の病気、冠婚葬祭、緊急時の受け入れなどに対応し、本人が地域での生活を継続するための支援を担う。今回の検討は、2026年7月31日に公布された医療的ケア児支援法の改正とも密接に関係する。改正法は2027年4月1日に施行され、支援対象が成人期にも拡大する。医療的ケア児が成長し、学校を卒業して成人となった後も、暮らしの場や支援体制を途切れさせないために、法律上の支援対象の拡大と実際のサービス供給という二つの課題に対応することになる。

利用者は増加、医療型短期入所の不足が鮮明に

厚生労働省の資料によると、短期入所の2025年度(令和7年度)の費用額は約638億円で、障害福祉サービス等全体の総費用額の1.4%を占めた。月平均利用者数は2012年度の3万3,162人から2025年度には6万7,205人へ増加し、事業所数も同期間に3,430か所から6,864か所へ増えている。しかし、短期入所全体の事業所が増えたことと、医療的ケアが必要な人を受け入れられる施設が十分に確保されていることは同じではない。2026年4月実績では、短期入所事業所6,968か所のうち、医療型は398か所、福祉型強化は520か所だった。医療型短期入所の利用者数は2025年12月時点で6,015人に上り、その約4割を18歳未満が占める。さらに、厚生労働省が引用した2024年9月末時点の都道府県調査では、回答33件のうち84.8%が医療型短期入所を不足している障害福祉サービスとして挙げた。生活介護は69.7%、福祉型短期入所は36.4%だった。この84.8%は全国の利用希望者の不足率を示すものではなく、調査に回答した自治体における認識を示す数値である。それでも、医療型短期入所の整備が地域の支援体制における大きな課題となっていることを裏付ける。

病院の受け入れを妨げる報酬と専門職確保の問題

医療型短期入所の拡充を考える際には、福祉型との制度上の違いを理解する必要がある。福祉型短期入所は障害者支援施設等で実施できるのに対し、医療型は病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院などが実施主体となる。医療的ケアが必要な人の状態に応じ、看護職員などによる専門的な対応を確保しなければならない。厚生労働省は10月22日の資料で、医療型短期入所の主な実施主体である病院について、治療を目的とした診療報酬と比べ、レスパイト等を目的とする障害福祉報酬の評価が低く、受け入れ拡大につながりにくいとの指摘を紹介した。医療的ケアを必要とする人が利用しない日にも、受け入れに備えた看護体制を維持する費用が発生する。予定していた利用が体調不良によって取りやめられれば、職員配置などの準備費用を確保しにくくなる。このため、同省は医療型短期入所の報酬評価に加え、利用者が欠席した場合の対応を加算で評価することや、介護老人保健施設、介護医療院による事業実施に関する手続きを簡素化する方向性を示した。いずれも検討段階であり、新たな加算の具体的な単位数や最終的な制度内容が決定したわけではない。

家族の休息は、本人の地域生活を支える仕組み

医療的ケア児や重症心身障害者の在宅生活では、家族が日常的な介護と医療的ケアの多くを担う場合がある。家族の負担は身体的な介護時間だけではない。夜間の見守り、医療機関との連絡、通学や通所の調整、緊急時への備えなど、生活全体に及ぶ。家族が休息や就労の時間を確保できなければ、在宅生活を続けること自体が困難になる可能性がある。ここでいうレスパイトは、介護者を単に休ませるための付加的なサービスではない。本人が住み慣れた地域で生活を続けるために、家庭内に集中している介護を必要に応じて外部の専門職が担う仕組みでもある。ただし、家族の休息を目的として利用する場合でも、サービスを受ける本人の意思や生活上の希望は尊重されなければならない。短期入所先の環境、医療的ケアへの対応、本人が安心できる支援者との関係などは、受け入れ可能かどうかを判断するうえで重要な条件となる。家族の負担軽減と本人の生活の質は対立するものではなく、双方を支える制度設計が必要となる。

改正支援法が対象を成人期まで拡大

2021年9月に施行された医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律は、医療的ケア児への支援を国や地方公共団体の責務として明確にした。医療的ケア児の定義には、18歳未満の児童に加え、18歳以上で高等学校等に在籍する人も含まれる。ただし、学校卒業後の成人期には、利用する福祉サービスや相談窓口、医療提供体制が変化することがあり、支援の継続が課題となっていた。2026年7月31日に公布された改正法は、この課題に対応するため、法律の名称を「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」に変更する。新たな支援対象には、医療的ケア児であった人で引き続き恒常的な医療的ケアを必要とする人、成人期に医療的ケアが不可欠となり自立した生活を営むことが困難な人、重症心身障害者などが加わる。基本理念にも、基本的人権を享有する個人としての尊厳、希望する地域での生活、本人と保護者の意思の尊重、居住地域にかかわらず適切な支援を受けられることが盛り込まれた。改正は医療と福祉の接続だけでなく、就労支援、住居の確保、ピアサポート、生涯学習など、成人期の暮らしに関わる施策にも及ぶ。もっとも、法律上の支援対象が広がることと、希望する地域ですぐに必要なサービスを利用できることは別の問題である。報酬制度と地域の受け入れ体制が対応しなければ、制度上の支援が実生活につながらない可能性が残る。

支援センターの設置対象拡大と地域格差

改正法では、相談支援を担う「医療的ケア児支援センター」も「医療的ケア児等支援センター」に改称される。センターの指定等を行える自治体は、従来の都道府県から、指定都市、中核市その他の政令で定める市、特別区にも拡大する。2026年3月時点で、こども家庭庁の一覧には47都道府県の支援センターが掲載されており、埼玉県や群馬県などでは県内の地域拠点を設ける体制も整備されている。改正法施行後は、さらに身近な自治体が相談支援体制を担う選択肢が広がる。ただし、センターを設置できる権限が拡大しても、すべての市区に新たなセンターが設置されることを意味しない。設置状況や相談体制、医療型短期入所事業所との連携は、地域ごとに確認する必要がある。改正法には医療的ケア児等支援地域協議会の仕組みも設けられ、自治体、医療機関、福祉事業者、教育関係者などが支援体制を協議できる。短期入所の受け入れ先が不足している場合、相談窓口があるだけでは利用者の問題は解決しない。医療機関への受け入れ相談、専門職の確保、緊急時の調整など、具体的なサービスにつなぐ機能が問われる。現在、支援先を探している本人や家族は、こども家庭庁が公表する都道府県の医療的ケア児支援センター一覧から相談先を確認できる。

障害者権利条約が示す、地域で暮らす権利

こうした制度改正を人権上の問題として考える際に参考となるのが、障害者権利条約第19条の「自立した生活及び地域社会への包容」である。同条は、障害のある人が他の人と平等に居住地や誰と暮らすかを選択でき、特定の生活施設で暮らすことを義務づけられないことを定めている。また、地域社会での生活を支える在宅サービス、居住サービスその他の支援を利用する機会の確保も規定する。この考え方に照らせば、医療的ケアが必要であるという理由だけで、本人や家族の望まない施設入所を事実上の唯一の選択肢にしてはならない。自宅での暮らしを希望する人が必要な支援を受けられることも、施設での支援を必要とする人が適切なサービスを利用できることも、本人の生活の選択を保障するうえで欠かせない。短期入所の充実は、施設入所を増やすことを目的とするものではなく、地域での暮らしを続けるための選択肢を増やす施策として捉えることができる。介護する家族の状況だけでなく、本人がどのような暮らしを望んでいるのかを確認する意思決定支援とも結びつく。医療的ケア児から成人期への移行に際しても、本人の意思を確認しながら利用サービスを組み立てられるかが、制度の実効性を左右する。

改正後に検証すべき受け入れ体制と制度利用

2027年度の障害福祉報酬改定と2027年4月の支援法改正は、制度上の目的と手段が異なる。報酬改定はサービス事業所の運営を支える給付の評価を見直すものであり、支援法改正は国や地方公共団体の施策、対象者、相談支援体制などを拡充するものである。両者が実際の生活にどう結びつくかを検証するためには、医療型短期入所事業所の数だけでなく、受け入れ可能な利用者の状態、地域別の利用状況、緊急時の受け入れ実績、希望しても利用できなかったケース、成人期への移行時に支援が途切れたケースなどを把握する必要がある。受け入れ体制の拡充には看護職員の確保や医療機関との調整が伴うため、報酬単価の変更だけで十分な供給が生まれるとは限らない。2026年10月22日の検討資料は、病院等による受け入れ拡大を妨げる経営上の事情と、家族のレスパイトを支える制度の双方を検討対象にしている。2027年4月には、こども家庭庁が所管する改正支援法により支援対象と自治体の役割が広がる。厚生労働省の報酬改定に向けた検討と合わせ、医療的ケア児等支援センター、地方自治体、医療機関がどのように連携し、本人と家族が必要なときに利用できる短期入所や相談支援を確保するのかが、制度の実施状況を評価する具体的な指標となる。

出典

出典 厚生労働省「第66回障害福祉報酬改定検討チーム資料」(2026年10月22日) URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76886.html

出典 厚生労働省「施設入所支援、生活介護、短期入所、療養介護に係る報酬・基準について」(第66回検討チーム資料) URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001761843.pdf

出典 こども家庭庁「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」 URL:https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/care-ji-shien

出典 こども家庭庁「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の一部を改正する法律 概要」 URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5218c3a3-610e-4925-8596-a9116889756f/6a555317/20260817_policies_shougaijishien_care-ji-shien_39.pdf

出典 こども家庭庁「医療的ケア児支援センター一覧(令和8年3月時点)」 URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5218c3a3-610e-4925-8596-a9116889756f/b536f355/20260617_policies_shougaijishien_care-ji-shien_21.pdf

出典 外務省「障害者の権利に関する条約」 URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html

関連用語

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