インドネシアのハンセン病対策、重点5地域で428人を新規発見 早期診断と偏見解消を同時に進める理由

スポンサーリンク
スポンサーリンク
この記事のポイント

① インドネシア保健省などが5つの重点地域で積極的な患者発見を進め、6万8733人を検診し428人の新規患者を確認した。
② 新規患者が多数見つかったことは、そのまま「感染が急増した」という意味ではない。積極的な検診によって未診断患者を発見できた側面がある。
③ WHOによればインドネシアでは2025年にも1万6000人超の新規患者が報告され、9.1%が子ども。偏見による受診の遅れも重要な課題となっている。

プリマ・ヨセフィン・BT・フタペア博士(M.K.M.)
スポンサーリンク
スポンサーリンク

1.重点5地域で428人を新たに発見

インドネシア保健省が笹川保健財団などと連携して行ったハンセン病対策で、重点5地域から428人の新規患者が確認されました。

対象となったのは、

タンゲラン県、

ブカシ県、

ブレベス県、

サンパン県、

ジャヤプラ市です。

2026年1月から3月に実施された「ハンセン病制圧加速プログラム」の一環で、接触者6万8733人を検診した結果、428人が新たに発見されました。

2.5万5752人に予防内服

今回の事業では、新規患者の発見だけでなく、患者と接触した人への予防的な対応も進められました。

5万5752人、対象者の81.1%に予防内服が実施されました。

また対象世帯の96.78%が、家庭で行うセルフスクリーニングのフォームを返送しました。

WHOも、ハンセン病の感染拡大防止策として、患者の家族や近隣住民などの接触者を検診し、必要に応じてリファンピシンを用いた曝露後予防を実施することを推奨しています。

3.「428人見つかった」=感染急増ではない

ここで注意したいのが数字の解釈です。

428人の患者が新たに確認されたからといって、

「短期間に428人が感染した」

「突然ハンセン病が急増した」

とは限りません。

これまで医療機関につながっていなかった人を積極的に訪問・検診すれば、新たに把握される患者数は増えます。

公衆衛生では、患者が自ら病院へ来るのを待つ「受動的発見」だけでなく、地域へ出向いて患者を探す「積極的患者発見」が重要です。

むしろ、未診断のまま地域で生活していた患者を早期に発見できれば、治療開始や障害予防につながります。

4.ハンセン病は治療可能

WHOによると、ハンセン病は主に「らい菌」によって起こる慢性感染症で、皮膚や末梢神経などに影響します。

治療せずに放置すれば、進行性かつ永続的な障害につながる可能性があります。

一方、現在は複数の薬剤を組み合わせる多剤併用療法(MDT)によって治療可能です。

早期に診断し治療を開始すれば、障害を予防できる可能性も高まります。

5.インドネシアでは年間1万6000人超

WHOは2026年8月、インドネシアで2025年に1万6000人を超える新規患者が報告されたとしています。

そのうち9.1%は子どもでした。

子どもの新規患者が確認されることは、家庭や地域社会の中で現在も感染が続いていることを示す重要な指標になります。

WHOは、インドネシアが世界でもハンセン病患者数の多い国の一つであると指摘しています。

6.医療従事者と地域ボランティアも研修

今回の事業では502人の医療従事者と386人の地域保健ボランティアが、早期発見、診断、紹介、患者管理などについて研修を受けました。

ハンセン病のように地域に根付いた感染症では、専門病院だけで患者を発見することには限界があります。

住民に身近な医療従事者や地域ボランティアが、

症状を知る、

疑わしい人を医療機関につなぐ、

治療を継続できるよう支える、

という仕組みをつくることが重要になります。

7.なぜ「差別対策」が医療対策になるのか

ハンセン病では、医学的な対策と人権・差別対策を切り離すことができません。

WHOは、偏見や差別のために患者が受診を避けたり、診断が遅れたりすることがあると指摘しています。

病名を知られることによって、

家族が差別されるかもしれない、

仕事を失うかもしれない、

地域から排除されるかもしれない、

という恐怖があれば、症状があっても医療機関を受診しない可能性があります。

つまり、

偏見を減らすこと自体が、早期診断を進める公衆衛生政策になる

ということです。

8.目標は「病気ゼロ」だけではない

WHOの世界戦略は、

感染・疾病ゼロ、

障害ゼロ、

偏見・差別ゼロ

を目標に掲げています。

ハンセン病対策は、薬を配り患者数を減らすだけでは完結しません。

治療後に地域社会へ戻れること。

教育を受けられること。

仕事を続けられること。

家族が差別されないこと。

こうした社会的な権利まで含めて考える必要があります。

今回のインドネシアの取組は、積極的患者発見、予防内服、医療人材育成、住民啓発を組み合わせた点に特徴があります。

「感染症対策」と「人権保障」を同時に進めなければ疾病対策自体が機能しないという、ハンセン病対策の本質を示す事例といえます。

関連用語

ハンセン病
らい菌による慢性感染症。現在は多剤併用療法によって治療可能だが、歴史的に強い偏見・差別が続いてきた。

多剤併用療法(MDT)
複数の抗菌薬を組み合わせるハンセン病の標準治療。

積極的患者発見(Active Case Finding)
患者が医療機関を訪れるのを待つのではなく、保健当局などが地域へ出向いて患者を早期発見する取組。

曝露後予防(PEP)
感染者との接触後に予防的に薬を投与し、発症リスクを下げる方法。

スティグマ
特定の病気や属性を理由として否定的な烙印を押し、社会的排除につなげること。

出典

笹川保健財団「2025年度ハンセン病対策助成事業より:インドネシア保健省による重点5県・市での新規患者発見活動」
https://www.shf.or.jp/information/29012

WHO「Leprosy」
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/leprosy

WHO Indonesia「Governors commit to accelerating leprosy elimination across Indonesia」
https://www.who.int/indonesia/news/detail/14-08-2026-governors-commit-to-accelerating-leprosy-elimination-across-indonesia

WHO Indonesia「Turning national commitment into real progress against leprosy」
https://www.who.int/indonesia/news/detail/20-04-2026-turning-national-commitment-into-real-progress-against-leprosy

スポンサーリンク
スポンサーリンク
人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、裁判所、企業、公益団体、国際機関などが公表する一次情報を確認し、差別、子ども、障害者、高齢者、教育、福祉、司法・制度、外国人、ビジネスと人権などに関するニュース、制度解説、独自調査を発信しています。記事では出典を明示し、事実関係を確認したうえで、関連する法制度や統計、過去の経緯などを参照しながら、人権上の論点や社会的背景を整理しています。

人権ニュース編集部をフォローする
国際
シェアする
タイトルとURLをコピーしました