1.ハンセン病を理由とする裁判所外での開廷場所指定は96件上申され、95件、99%が認可されていた。
2.最高裁判所は2016年、長期間の開廷場所指定に「誤った差別的な姿勢」があったとして患者・元患者や家族に謝罪した。
3.菊池事件では2026年1月に再審請求が棄却されたが、福岡高裁で即時抗告審が続き、証拠開示も争点となっている。

最高裁判所が2016年4月に公表した「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書」では、患者とされた人の裁判を通常の裁判所ではなく、療養所や医療刑務所などで開く「特別法廷」の運用が検証された。報告書に付された有識者委員会意見によると、1948年から1990年までの開廷場所指定の上申180件のうち96件がハンセン病を理由とし、そのうち95件、99%が認可された。これに対し、ハンセン病以外の病気や老衰を理由とする61件の認可は9件、15%だった。病名によって例外的な開廷場所指定がほぼ自動的に認められていた差は大きい。
裁判所法69条は、法廷を裁判所または支部で開くことを原則とし、裁判所外での開廷は最高裁判所が必要と認める場合の例外としている。最高裁の調査報告書は、ハンセン病を理由とする必要性判断について、遅くとも1960年以降は同条2項に違反する運用だったと整理した。有識者委員会はさらに、病気だけを理由に機械的・定型的に裁判所外の場所を指定したことは憲法14条1項の平等原則に反すると指摘した。療養所は一般市民が自由に出入りする場所ではなく、憲法37条、82条が保障する公開裁判が実質的に確保されていたのかも問題となった。
最高裁判所裁判官会議は同じ2016年、患者・元患者や家族に謝罪した。談話は、長期間の開廷場所指定に「誤った差別的な姿勢」があり、当事者の基本的人権と裁判の在り方を揺るがしたと認めた。隔離政策を担った行政だけでなく、本来は基本的人権を擁護する側にある司法も、ハンセン病への偏見を裁判手続の中に取り込んだことを最高裁自身が検証した点に、この問題の特徴がある。
その象徴が「菊池事件」である。ハンセン病患者とされた男性は、菊池恵楓園や菊池医療刑務支所に設けられた特別法廷で殺人罪などを審理され、1953年に一審で死刑判決を受け、1957年に確定、1962年9月14日に死刑が執行された。2026年1月28日、熊本地裁は第4次再審請求を棄却したが、確定審の手続が憲法14条1項に違反し、公開原則にも違反する疑いがあるとの判断を示した。弁護団は2月2日に福岡高裁へ即時抗告した。
即時抗告審では、福岡高裁が2026年5月、凶器とされた短刀や供述記録など6点の証拠開示を勧告した。検察側は6月、6点は既に廃棄されたとみられ「見当たらない」と回答し、別の1952年作成の捜査記録1点を開示したと弁護団が7月に明らかにした。特別法廷の差別性を最高裁が認め謝罪してから10年を経ても、そこで言い渡された死刑判決を刑事手続上どのように検証し直すのかという問題は終わっていない。福岡高裁の即時抗告審は、差別的な司法手続によって生じた被害を、現在の再審制度がどこまで回復できるのかを問う手続となっている。
最高裁判所「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書及び最高裁判所裁判官会議談話について」
URL:https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/hansenbyo_chousahoukokusyo_danwa/index.html
最高裁判所事務総局「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書」
URL:https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/2804chousahoukokusho.pdf
熊本地方裁判所「令和3年(た)第1号 再審請求事件決定」
URL:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95592.pdf
熊本日日新聞「菊池事件、再審棄却で抗告 弁護団、熊本地裁決定不服」
URL:https://kumanichi.com/articles/1952943
熊本日日新聞「『証拠見当たらず』と検察 菊池事件、高裁開示勧告に」
URL:https://kumanichi.com/articles/2014962
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