1.2026年4月1日施行の改正民法は共同親権を導入したが、子どもの医療に常に父母双方の同意が必要になるわけではない。
2.通常のワクチン接種などは父母の一方が決められる「日常の行為」とされ、緊急医療も「急迫の事情」があれば単独で判断できる。
3.保護者が必要な治療を拒む医療ネグレクトでは、児童相談所による一時保護や親権停止など、子どもの生命・身体を守る別の制度がある。

2026年4月1日に施行された改正民法は、離婚後についても父母双方を親権者とする選択肢を設けた。同時に新設された民法第824条の2は、共同親権の場合には父母が共同して親権を行使することを原則としながら、「監護及び教育に関する日常の行為」と、子の利益のため「急迫の事情」がある場合は一方の親による単独行使を認めている。法務省は医療についても具体例を示しており、「共同親権になれば病院は毎回、両親の同意を確認しなければならない」という制度ではない。
法務省のQ&Aでは、通常のワクチン接種は「日常の行為」に該当し、一方の親権者だけで判断できる。他方、生命に関わる医療など子どもの心身に重大な影響を与えるものは、原則として日常の行為には含まれない。ただし、緊急の治療が必要で、父母間の協議や家庭裁判所の手続を待てば適時に治療できず、子どもの利益を害するおそれがある場合は「急迫の事情」に当たり、一方の親による判断が可能になる。緊急性のない重大な治療について父母が対立した場合には、家庭裁判所が特定の事項について一方に単独行使を認める仕組みも設けられた。
この問題は、離婚した父母の意見対立だけではない。保護者自身が必要な治療を拒否し、子どもの生命や身体に重大な影響が生じる「医療ネグレクト」では、親権者の意思とは別に児童福祉制度が働く。厚生労働省は、親権者の同意が得られず必要な医療を行えない事案について、児童相談所長による一時保護、家庭裁判所への親権停止の申立て、緊急時の児童相談所長等による医療への同意などの対応を整理している。親の同意権は、子どもの生命・身体を危険にさらす医療拒否まで無制限に認める権限ではない。
実務上は、緊急性が低い治療ほど難しい問題も残る。こども家庭庁の2025年調査研究では、生命・身体への重大な影響が考えられる医療を保護者が拒否した事例について、2022年4月から2024年9月まで「該当事例がなかった」とした児童相談所は88.3%、医療機関は72.7%だった。事例自体が少なく、対応経験を蓄積しにくいことが課題とされた。調査では、緊急治療では医療につながりやすい一方、直ちに生命危機にはならない治療では対応を決めきれず、必要な医療を受けない状態が長期化する可能性も指摘された。
子ども本人の意思も、父母の同意とは分けて考える必要がある。同じ調査では、医療機関の59.1%が、子ども本人への説明と意向確認に当たるインフォームド・アセントの基本方針を「ない」と回答した。他方、実際の事例では多くの医療機関が本人への説明を行っていた。2026年の共同親権制度で検証すべきなのは、父母のどちらが署名できるかだけではない。法務省、こども家庭庁、医療機関、児童相談所が、父母の対立や医療拒否によって治療が遅れない仕組みを運用するとともに、年齢や発達に応じて子ども自身に治療内容を説明し、その意向を判断過程に組み込めているかが問われる。
法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」
URL:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
法務省「Q&A形式の解説資料(民法編)」
URL:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00377.html
厚生労働省「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8115&dataType=1&page+No=1
こども家庭庁「保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトに関する調査研究」
URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3f49d62c-74ac-4431-b0ef-248ea3671bdc/71564aee/_20251016_R6-2_tyousakennkyuujigyou_hp_ippan020.pdf
子どもの権利とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/childrens-rights/
子どもの権利条約とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/kodomo-no-kenri-joyaku/
児童虐待防止法とは
URL:https://jinken-news.com/glossary/jidou-gyakutai-boshi-hou/

