1.墓地埋葬法は「埋葬」を死体を土中に葬ることと定義しており、日本で土葬そのものは禁止されていない。
2.大分県日出町の別府ムスリム霊園計画は条例上の事前協議を終えたが、町有地を売却しない方針となり計画が進まなくなった。
3.宗教的葬送への配慮と、公衆衛生、土地利用、地域住民への説明を別々の論点として検証する必要がある。

大分県日出町は2025年3月12日、宗教法人別府ムスリム教会が南畑地区で計画していた土葬墓地について、予定地となる町有地を売却しない方針を公表した。計画は4943平方メートルに79区画を設け、遺体を深さ2メートルに埋葬する内容だった。町は法律と条例上の基準に合致するとして2022年5月に事前協議済書を交付し、高平区と教会も2023年5月、水質検査や埋葬数などを定めた協定を締結していた。しかし、2024年8月25日の町長選で計画が争点となり、町は同年10月、土地を売却しない判断を教会側に伝えた。
日本では、土葬そのものを禁止する法律はない。墓地、埋葬等に関する法律第2条は「埋葬」を死体を土中に葬ることと明記し、第4条は埋葬を墓地以外で行うことを禁止している。埋葬には市町村長の許可が必要で、墓地を新たに経営する場合には同法第10条に基づく許可も必要になる。つまり、任意の土地に遺体を埋められるわけではないが、「日本では火葬しか認められていない」という理解も正確ではない。墓地埋葬法自体が、宗教的感情への適合と、公衆衛生その他公共の福祉の双方を目的としている。
日出町の事例では、公衆衛生上の懸念について具体的な条件も検討された。町条例は住宅、学校、病院などから110メートル以上離れ、河川などに近接せず、飲料水を汚染するおそれがない場所であることを墓地の設置基準としていた。町は当時、キリスト教とイスラム教の土葬墓地13か所への照会で水質汚染の問題は確認されなかったと説明し、隣接する大分トラピスト修道院でも30年以上の土葬と地下水検査で汚染は確認されていないとしていた。教会と高平区の協定には年1回の水質検査、79区画の上限、埋葬状況の報告も盛り込まれた。これらは日出町が当該計画について行った評価であり、あらゆる土地で土葬の環境影響がないことを示すものではない。立地ごとの地下水、地質、埋葬密度を審査する必要がある。
同様の議論は宮城県でも起きた。村井嘉浩知事は2025年3月5日の記者会見で、土葬墓地について特定の宗教だけの問題ではないと述べ、県として調査を進める考えを示した。同時に、住宅の近隣に墓地を設ける場合などには住民の理解が容易でないことにも言及した。宮城県議会には2025年、土葬墓地に反対する陳情や慎重な議論を求める陳情が複数提出されている。宗教上の必要性を理由に計画を当然に認める仕組みでも、住民の反対だけで法令上の基準を置き換える仕組みでもなく、墓地行政として何を審査対象とするかが問われる。
宗教的な葬送は人権とも接続する。日本が締結する自由権規約第18条は、思想、良心、宗教の自由と、儀式や行事によって宗教を表明する自由を保障している。ただし、その表明には、公共の安全、公の秩序、公衆の健康、他者の権利などを保護するため、法律に基づく必要な制限を設けることができる。したがって、土葬墓地をめぐる人権上の整理では「宗教だから無条件に認める」「地域が反対するから認めない」という二択では足りない。宗教的実践への制約が具体的な公衆衛生上の根拠に基づくのか、他の宗教や非宗教の墓地と同じ基準が適用されているのかを確認する必要がある。
日出町の計画は、法令・条例上の事前協議と地域協定まで進みながら、町有地の売却方針変更によって停止した。外国人住民が日本で生活を長期化させれば、就労や教育、医療だけでなく、死亡後の葬送も地域制度との接点になる。今後同様の計画を扱う自治体では、土葬という葬法そのもの、個別計画の環境安全性、墓地経営の継続性、住民説明、宗教や国籍を理由とする排除を混同せず、それぞれの根拠を示して判断することが制度運用の検証事項となる。
厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」
URL:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=79149000&dataType=0&pageNo=1
日出町「宗教法人別府ムスリム教会 土葬墓地について」
URL:https://www.town.hiji.lg.jp/kurashi_tetsuzuki/gomi_kankyo_eisei/eisei/2990.html
宮城県「宮城県知事記者会見(令和7年3月5日)」
URL:https://www.pref.miyagi.jp/site/chiji-kaiken/kk-250305.html
宮城県議会「令和7年陳情一覧」
URL:https://www.pref.miyagi.jp/site/kengikai/r7tinjo.html
外務省「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html

