1.厚生労働省が認知症とともに暮らす2人の日常を追ったドキュメンタリー『one day of life』を制作し、9月7日に東京都内で上映する。
2.認知症基本法と認知症施策推進基本計画が掲げる「新しい認知症観」を、制度説明ではなく本人の日常から伝える構成となった。
3.啓発事業の評価では、映像の視聴数だけでなく、自治体施策や地域活動で本人の意思・社会参加を尊重する対応につながるかも確認点となる。

厚生労働省は8月10日、認知症とともに生きる2人の「1日」に密着したドキュメンタリー映像『one day of life』を制作し、9月7日にユナイテッド・シネマ豊洲(東京都江東区)で完成披露上映会を開くと公表した。40組80人を募集し、高知編に出演した認知症本人の山中しのぶ氏、ナレーションを担当した貫地谷しほり氏、企画・プロデュースの山國秀幸氏によるトークショーも予定する。厚労省はショート動画などもYouTubeで順次公開する。
この事業を単なる「認知症啓発映画」とみると、現在の政策転換を見落とす。2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」は、認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らせる社会を基本理念に据えた。政府の認知症施策推進基本計画では、「認知症になったら何もできなくなる」のではなく、認知症になってからも本人にはできることや、やりたいことがあり、地域でつながりながら暮らし続けられるという「新しい認知症観」を示している。
『one day of life』が病気の症状や介護方法ではなく、本人の「ありのままの1日」を題材にした点は、この政策転換と重なる。認知症の人を医療・介護サービスの受け手として説明するだけでは、買い物、仕事、地域活動、人との交流、自分で物事を選ぶ場面など、診断後も続く生活は見えにくい。今回の映像は、認知症を「本人の暮らし」という側から理解させようとする構成といえる。上映日に9月の「認知症月間」を選んだことも、認知症基本法に基づく普及啓発との接続を明確にしている。
次に確認したいのは、この映像がどこまで行政や地域の実務に使われるかだ。認知症施策推進基本計画では、本人の声を起点として施策を立案、実施、評価する方向が示されている。映像が多数再生されたとしても、自治体の認知症施策、地域包括支援センター、介護・医療現場などで、本人の意思確認や社会参加の機会を増やす変化につながらなければ、政策上の成果とは別に考える必要がある。厚労省が今後公開する動画群を、誰がどの場面で利用し、認知症本人の参加につなげるのかまで追うことで、『one day of life』の普及啓発事業としての効果が見えてくる。
厚生労働省「認知症普及啓発ドキュメンタリー映像『one day of life』完成披露上映会を開催します」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_260810_00013.html
厚生労働省「知っておきたい認知症の基本」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000022524.html

