【連載 2026年施行・カスハラ防止義務を読む】第2回 正当な苦情との境界

カスタマーハラスメントのイメージ画像

厚生労働省の通知は、職場におけるカスタマーハラスメントについて、①顧客等の言動であること、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えること、③労働者の就業環境が害されること、という3要素を示している。3つをすべて満たす場合にカスハラとされるため、顧客等からの苦情や申入れが直ちにカスハラになるわけではない。

この整理は、人権上も重要である。カスハラ対策が進む一方で、企業や行政機関が不都合な指摘を「迷惑行為」として処理すれば、消費者、利用者、患者、福祉サービス利用者などの正当な声を封じる危険がある。通知も、客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われたものは「正当な申入れ」であり、カスタマーハラスメントには該当しないと整理している。制度の目的は、苦情をなくすことではなく、暴言、脅迫、執拗な要求、人格否定などにより労働者の就業環境が損なわれる事態を防ぐことにある。

一方で、社会通念上許容される範囲を超える行為の具体像も広く示されている。要求に理由がない場合、サービス内容と無関係な要求、想定されるサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難又は不可能な要求などは、カスハラに該当し得る。待ち伏せやつきまとい、SNS等への労働者のプライバシー情報の投稿、撮影をやめるよう求められても撮影を続ける無断撮影も問題となる。店舗や窓口だけでなく、インターネット上の言動が職場での事象を契機とし、労働者の就業環境を害する場合も対象に含まれ得る。

実務上は、「強い口調だったか」だけで判断するのではなく、要求の内容、態様、継続性、業務との関連性、労働者の属性や心身の状況などを総合的に見る必要がある。労働者側に何らかの対応上の問題があった場合でも、人格を否定する言動や過剰な要求が許されるわけではない。企業には、利用者の正当な申入れを受け止める苦情処理と、労働者を守るカスハラ対応を区別する運用が求められる。境界線を丁寧に扱うことこそ、制度を社会に定着させる前提となる。

出典

厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001695607.pdf

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