認知症基本法とは

認知症基本法とは、正式には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」といい、認知症の人が尊厳を保持しながら希望を持って暮らせる社会を目指すための基本法です。令和5年に成立し、令和6年1月1日に施行されました。認知症を医療や介護だけの問題として扱うのではなく、本人の意思、社会参加、地域生活、家族支援、バリアフリー、相談体制などを含めた社会全体の課題として整理している点に特徴があります。

1.認知症基本法の意味

認知症基本法は、認知症の人を「支援されるだけの存在」としてではなく、基本的人権を享有する個人として位置づける法律です。法律の目的には、認知症の人を含むすべての人が、人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現することが掲げられています。

この法律でいう認知症とは、アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患などにより、日常生活に支障が生じる程度まで認知機能が低下した状態を指します。単なる「物忘れ」ではなく、生活上の判断、意思表示、金銭管理、移動、対人関係などに影響が及ぶ場合があります。

認知症基本法の重要な点は、認知症になった後の生活を「できないこと」だけで捉えないことです。本人が地域で暮らし続けること、社会参加の機会を持つこと、本人に関係する事項について意見を表明すること、必要な支援を受けながら意思決定に関わることが、施策の基本に置かれています。

2.制度・法律との関係

認知症基本法は、認知症施策を総合的・計画的に進めるための基本法です。国には認知症施策推進基本計画の策定が義務づけられ、都道府県と市町村には、それぞれ認知症施策推進計画を策定する努力義務が定められています。

法律は、国、地方公共団体、保健医療サービス・福祉サービスを提供する者、日常生活や社会生活を支える事業者、国民の責務を定めています。介護や医療の専門職だけでなく、公共交通、金融機関、小売業、地域活動など、認知症の人の日常生活に関わる幅広い主体が関係する制度設計になっています。

基本的施策には、認知症に関する理解の増進、生活上のバリアフリー化、社会参加の機会の確保、意思決定支援と権利利益の保護、保健医療・福祉サービスの提供体制、相談体制、研究、予防などが含まれます。令和6年12月には、同法に基づく認知症施策推進基本計画が閣議決定され、第1期計画として令和11年度までを対象に施策が進められています。

認知症基本法は、介護保険法、成年後見制度、高齢者虐待防止法、障害者差別解消法などとも関係します。認知症の人が介護サービスを利用する場合、財産管理に支援が必要な場合、施設や家庭で虐待が疑われる場合、交通・金融・店舗利用で不利益を受ける場合など、複数の制度が重なって問題になります。

3.人権上の論点

認知症基本法の中心にある人権上の論点は、認知症の人の自己決定と社会参加をどう守るかという点です。認知症になると、周囲が「本人には分からない」「家族が決めるしかない」と判断し、住まい、介護サービス、医療、財産管理、外出、交友関係などを本人抜きで決めてしまうことがあります。しかし、判断能力に支援が必要であることは、本人の意思が存在しないことを意味しません。

認知症の人に対する偏見や差別も重要な課題です。認知症と診断されたことで、職場や地域活動から早く離れるよう促されたり、金融機関や店舗で一律に対応を拒まれたり、家族や施設の判断だけで生活範囲が狭められたりする場合があります。こうした対応は、安全確保の名目で行われることもありますが、本人の尊厳や権利を制限する結果になり得ます。

認知症基本法は、本人の意思を尊重しながら、必要な支援を整える方向を示しています。家族の負担を軽くすることも大切ですが、家族支援は本人の意思を置き換えるものではありません。市町村、地域包括支援センター、医療機関、介護事業者、成年後見関係者、地域の事業者が、本人の声を確認しながら支援を組み立てることが、認知症基本法の実効性を左右します。

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