【独自検証】障害者虐待認定後、支援見直し4割 指定取消5件と生活継続の両立

この記事のポイント

1.2024年度に施設・事業所による障害者虐待と判断された1,267件のうち、被害者への支援を追加・見直した市区町村の報告は40.1%だった。
2.施設側への対応は、改善計画の提出1,027件に対し、指定停止32件、指定取消5件。処分の重さだけでは、被害者の安全や生活再建を判断できない。
3.茨城県は39事案を個別に公表したが、群馬県や山梨県は集計中心だった。被害者支援と施設処分を結び付けて検証できる公表制度が課題となる。

施設・事業所による障害者虐待

1,267件の「認定後」を追う

2024年度、全国の市区町村などに寄せられた障害者福祉施設従事者等による虐待の相談・通報は5,870件に達した。自治体が虐待と判断したのは1,267件で、被害を受けた障害者は2,010人だった。前年度と比べ、判断件数は1,194件から73件増えた一方、被害者数は2,356人から減少した。

虐待が最も多かったサービスは共同生活援助、いわゆる障害者グループホームの401件だった。障害者支援施設が243件、放課後等デイサービスが157件と続く。自治体職員が判断した発生要因は、教育・知識・介護技術の問題が67.5%、倫理観や理念の欠如が60.2%、職員のストレスや感情調整の問題が58.7%だった。人員不足や多忙は29.8%、虐待を助長する組織風土や職員関係の悪化は24.6%に上った。

これらの数字は、虐待を発見し、行政が認定した段階を示す。しかし、認定された後に被害者が同じ施設で暮らし続けたのか、別のサービスへ移ったのか、加害職員が現場を離れたのか、返金や補償が行われたのかは、判断件数だけでは分からない。

人権ニュース編集部は、厚生労働省の2024年度調査と、茨城県、群馬県、山梨県の公表資料、千葉市の行政処分、株式会社恵が運営したグループホームへの愛知県と厚生労働省の対応を確認した。比較から見えたのは、虐待認定後の行政対応が「施設への指導・処分」と「被害者の安全確保・生活支援」という二つの系統に分かれ、両者の結果が同じ資料で示される例が少ないという構造である。

被害者支援と施設監督を別の自治体が担う

障害福祉サービスでは、利用者のサービス支給を決定する市区町村と、施設・事業所を指定して監督する都道府県、指定都市、中核市などが異なる場合がある。施設への指導や指定停止を行う自治体と、被害者のサービス等利用計画を見直す自治体が同じとは限らない。

特にグループホームや障害者支援施設では、複数の市区町村が支給決定した利用者が同じ施設で生活している。このため、一つの虐待事案について、複数の市区町村がそれぞれ被害者支援の状況を都道府県へ報告する。厚生労働省の集計では、市区町村からの報告1,482件から同一事案の重複を除くと1,259件となり、このうち1,246件で虐待が認められていた。

全国の虐待判断件数が1,267件であるのに対し、被害者支援の集計対象が1,467件となっているのは、この重複を含むためである。数字の違いは誤りではないが、制度を知らない読者には、何を一件として数えているのかが分かりにくい。

この分担には合理性がある。支給決定市区町村は利用者の生活歴や家族、相談支援専門員との関係を把握しやすく、指定権者は法人の人員配置、運営基準、給付費請求などを調査できるからである。ただし、双方の情報が結び付かなければ、「事業所に改善勧告を出したが、被害者の生活は変わっていない」「利用者を転居させたが、施設側の組織的問題は残った」という状態が生じ得る。

被害者支援の見直しは40.1%

厚生労働省の調査では、虐待が認められた事案について、支給決定自治体が支援内容を追加または見直した報告は588件、40.1%だった。現在の支援を継続した報告は851件、58.0%、変更や継続を検討中だったものは28件、1.9%である。

588件の見直し内容では、定期的な見守りが346件、58.8%で最も多い。サービス等利用計画の見直しは150件、25.5%、新たな障害福祉サービスの利用は13件、病院への一時入院などその他の保護は16件だった。複数回答であるため合計は588件を超える。

ここで、「58%が現在の支援を継続した」ことを、行政が何もしなかった割合と読み替えることはできない。虐待をした職員が配置転換や退職となり、施設内で安全が確保された場合には、本人が転居を望まず、同じサービスを続ける判断もあり得る。通所施設での虐待なら、居住場所を変える必要がない場合もある。

反対に、支援継続が本人の希望と安全確認に基づくものだったのか、代替施設が見つからなかったためなのかは、公表資料から判別できない。厚生労働省の表には、「現在の支援を継続した理由」「本人への意思確認方法」「加害者との接触を断ったか」という項目がないためである。

知的障害や重いコミュニケーション障害がある人の場合、本人が明確に転居希望を表明しなかったことを、そのまま継続への同意と扱うことはできない。写真、絵、実際の見学、信頼する支援者の同席などを通じ、複数の選択肢を本人が理解できる形で示したかどうかまで確認する必要がある。

処分の中心は改善計画、指定取消は5件

施設・事業所に対する市区町村の対応では、施設への指導が826件、改善計画の提出依頼が849件、虐待をした従事者への注意・指導が380件だった。施設から実際に提出された改善計画は、市区町村への提出と指定権者への提出を合わせて1,027件に上った。管理者や経営層を事業に関与させないよう指導・助言した例も42件あった。

障害者総合支援法や児童福祉法に基づく権限行使は、報告徴収、出頭要請、質問、立入検査が262件、改善勧告が77件、勧告に従わない場合の公表が10件、改善命令が15件だった。指定の全部または一部停止は32件、指定取消は5件である。指定権者による一般指導は386件だった。

ただし、5件の指定取消をすべて「虐待だけを理由とする取消」とみなすことはできない。厚生労働省は、虐待行為に加え、人員配置基準違反や不正請求などの違反を理由に処分したものが含まれると注記している。

虐待が認定された1,267件に対し、指定取消が5件だったことだけを取り上げ、「行政処分が軽い」と断定するのも適切ではない。職員個人の一回の暴言と、経営者が複数施設で行った組織的な経済的虐待では、事実関係、再発可能性、法人の関与、被害規模が異なる。改善計画によって安全を回復できる事案と、運営主体を交代させなければ再発を防げない事案を区別する必要がある。

行政指導と行政処分は同じではない

行政指導は、施設に改善計画の提出、研修、職員配置の変更、マニュアル改定などを促す対応である。これに対し、改善命令、指定停止、指定取消は、障害者総合支援法や児童福祉法に基づく法的な権限行使となる。施設が従わない場合の効果も異なる。障害者虐待防止法は、虐待を確認した市町村や都道府県が、施設の監督法令に基づく権限を適切に行使するよう定めている。

行政指導で終わったから軽微な事案だったとも限らない。被害者を現場から直ちに分離し、虐待職員を退職させ、法人が改善策を履行したため、指定停止まで行わない場合もある。反対に、書面上の改善計画が提出されても、職員不足や経営者の関与が残れば、同じ構造が続く可能性がある。

したがって、処分名称だけではなく、加害職員の処遇、管理者の交代、人員配置、被害者への謝罪・説明、返金、転居支援、改善確認の時期まで追わなければ、認定後の救済を評価できない。

茨城県は39事案を一件ずつ公表

茨城県は、2024年度に施設従事者等による虐待と判断した39事案について、サービス種別、虐待をした職員の職種、虐待類型、被害者の性別・年齢・障害種別、行政措置を事案ごとに掲載した。被害者数は128人だった。

公表表では、共同生活援助における6事案で、施設が組織的に経済的虐待を行ったと記載している。被害者は各事案で3人、22人、20人、14人、9人、11人に及び、いずれも「行政処分」とされた。別の共同生活援助では改善勧告、放課後等デイサービスでも身体的・心理的虐待に対する改善勧告が記録されている。

茨城県方式の利点は、どのサービスで、誰が、どの種類の虐待を行い、行政がどの段階まで対応したかを一件単位で確認できる点にある。例えば「経済的虐待6件」という集計だけでは、職員個人による金銭の持ち出しと、法人が多数の利用者から費用を過大徴収した事案を区別できない。

もっとも、同県の年次表は措置を「行政処分」とだけ記載しており、指定取消、指定停止、改善命令のいずれだったかは、この資料だけでは分からない。被害者が返金を受けたか、同じ施設に残ったかという結果も掲載されていない。

群馬県と山梨県では個別経過が見えない

群馬県は2024年度、施設従事者等による虐待の相談・通報93件のうち16件を虐待と認定した。措置は行政指導16件、行政処分0件だった。認定事案のうち共同生活援助が9件で半数を超えたが、個々の虐待内容と指導後の改善状況は公表ページから確認できない。

山梨県は8件の虐待を認定し、被害者11人の年齢、障害種別、障害支援区分を公表した。採った措置は「市町村または県による指導」と「市町村による改善計画の提出依頼」の二項目だけで、各措置の件数や事案との対応関係は示していない。被害者11人のうち5人が10代以下、6人は障害支援区分が非認定だった。

公表の差は、直ちに行政対応の質の差を意味しない。群馬県や山梨県が非公表の内部資料で詳細な確認を行っている可能性はある。しかし、外部から確認できる情報量には明確な差がある。

障害者虐待防止法第20条は、都道府県知事に毎年度の公表を義務づける。施行規則が最低限掲げるのは、虐待があった施設の種別と、虐待をした従事者の職種である。個別事案の経過、施設名、改善確認日、被害者支援の内容までは全国共通の公表項目になっていないため、茨城県のような個票型から山梨県のような集計型まで差が生じている。

5キロの砂袋、処分は新規受入停止6カ月

行政処分の種類と被害者の生活継続を考える具体例が、千葉市の「千葉光の村授産園」である。千葉市は同施設について、2022年2月1日から7月31日までの6カ月間、新規利用者の受入れを停止する指定効力停止処分を行った。既存利用者へのサービスを全面停止する処分ではなかった。

市の公表によると、施設は問題行動があった利用者2人に、片手5キロずつの砂袋を持たせ、約4時間立たせていた。行為が食事時間をまたいだ場合は終了後に食事を与え、生ものを除く保存可能な食品だけを食べさせていた。別の職員が行為を把握しながら通報しなかったことも、障害者虐待防止法上の通報義務違反とされた。

この処分は、事業所への制裁と既存利用者の生活維持を分けて考えた例である。施設入所支援は生活の場でもあるため、即時の全面停止は、被害を受けた本人を含む利用者全員の住居と日中活動を失わせる可能性がある。新規受入れを止めつつ、既存利用者への支援を継続し、改善を監督する選択には、その危険を避ける機能がある。

ただし、既存利用者を残す以上、虐待をした職員や管理者を現場から外したか、第三者が安全を確認したか、本人が転居を希望しなかったかを併せて示さなければならない。処分の継続期間だけでは、施設内の危険が除かれたかは判断できない。

株式会社恵、指定取消後に161件の相談

株式会社恵が運営していた障害者グループホームでは、食材料費の過大徴収や不正請求が問題となった。愛知県と名古屋市は2024年6月26日、計5事業所の指定を取り消した。厚生労働省は本社による組織的関与を認定し、同社と役員などが同一のサービス類型で新規指定や指定更新を受けられなくなる連座制を5年間適用した。

愛知県所管の13事業所では、利用者への食材料費の過大徴収を人格尊重義務違反と認定し、人員配置基準を満たしていない状態での報酬請求なども処分理由とした。事業所によって指定取消または新規利用者の受入停止を内容とする一部効力停止が行われた。

処分後、愛知県内の自治体窓口には、「事業所が廃止されたらすぐ転居しなければならないのか」「行き先が見つかるか不安」「このまま同じホームで生活したい」など161件の相談が寄せられた。県は市町村に対し、利用者の意向を丁寧に把握し、必要なサービスへ接続するよう通知した。

厚生労働省は同社に、指定取消や連座制の効力発生後も、希望する利用者が転居せず継続してサービスを利用できるよう、事業譲渡を調整することを指導した。利用者、家族、職員への説明と、過大徴収した食材料費の返還も指導事項に含めた。

愛知県は2025年2月、県所管の31事業所について株式会社INNOVEL HEALTHCAREを新たな運営法人として指定した。2024年10月に別法人へ譲渡した3事業所と合わせ、処分当時に県内で運営されていた株式会社恵の事業所は、すべて新たな事業者によって運営が継続される見込みとなった。

指定取消は救済の終点ではない

株式会社恵の事案は、指定取消が必要な場合でも、処分だけでは被害者救済が完了しないことを示す。行政には、法人を市場から退出させる監督責任と、利用者の住まい、支援者との関係、通勤・通所、医療、家族との距離を維持する責任が同時に生じる。

グループホームは単なるサービス提供場所ではなく、本人の住居である。運営法人の変更を理由に本人を一律に転居させれば、虐待を受けた側が生活上の不利益を負うことになる。反対に、本人が「ここに残りたい」と述べた場合でも、施設外の選択肢を知らない、環境変化への不安が強い、意思表明を支援する人がいないという事情を確認しなければならない。

生活継続と安全確保は、どちらか一方を選ぶ関係ではない。運営法人を交代し、加害職員や経営者を排除し、同じ建物で支援を続ける方法もある。別の住居へ移る場合には、本人が候補を見学し、支援内容を比較し、移行期間を設ける方法がある。行政処分の設計には、こうした生活上の選択肢を組み込む必要がある。

経済的虐待では、返金も権利回復の一部となる。過大徴収を止めただけでは、既に失われた財産は戻らない。返還対象者、金額、返還日、未返還者数まで確認しなければ、被害が解消したかは判断できない。

年次公表に必要な六つの情報

現在の都道府県公表は、法令上の最低項目を満たしていても、被害者の安全回復まで追えない場合がある。個人や施設を不必要に特定しない形で、少なくとも次の六項目を事案単位で示すべきである。

1.サービス種別、虐待類型、個人行為か組織的行為か

2.被害者数と、緊急分離、転居、見守り、利用計画変更などの支援内容

3.加害職員、管理者、経営者への対応と、現場から離れた時期

4.施設への行政指導、改善勧告、命令、指定停止、指定取消の別

5.改善計画の期限、確認日、未履行事項、再発の有無

6.経済的虐待における返金、財産回復、本人への説明の状況

施設名の一律公表には、被害者が居住するグループホームや小規模施設を特定し、本人のプライバシーを侵害する危険がある。施設名を伏せる場合でも、匿名の事案番号を付け、認定時、処分時、3カ月後、1年後の経過を同じ番号で追えるようにすれば、個人情報を守りながら行政対応を検証できる。

支給決定自治体と指定権者が異なる事案では、双方が同じ事案番号を用いる方法も考えられる。これにより、「被害者の支援は継続されたが、施設は指定取消となった」「施設は改善計画を提出したが、本人は別の住居へ移った」といった関係を把握できる。

851件の「継続理由」を可視化できるか

2024年度の全国調査からは、虐待認定後に支援を見直した報告が588件、現在の支援を継続した報告が851件だったことまでは分かる。施設側では改善計画が1,027件提出され、42件で管理者や経営層を事業から外す指導・助言が行われた。

しかし、851件の支援継続と1,027件の改善計画が、どの事案で対応しているのかは公開されていない。本人が希望して安全に利用を続けたケースと、代替先がなく同じ施設に残らざるを得なかったケースも区別できない。

厚生労働省と都道府県が次回公表で、851件の継続理由と1,027件の改善計画の履行結果を事案ごとに結び付けて示せるかが、2024年度の1,267件を「虐待を認定した記録」から「権利回復を検証できる記録」へ変える。

出典

厚生労働省「令和6年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67304.html

厚生労働省「令和6年度 障害者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査 結果報告書」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001698789.pdf

e-Gov法令検索「障害者虐待防止法」
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC1000000079

茨城県「2024年度における茨城県内の障害者虐待の状況について」
URL:https://www.pref.ibaraki.jp/somu/hodo/hodo/pressrelease/hodohappyoushiryou/2203/documents/251224_syougaihukusi.pdf

群馬県「令和6年度障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況について」
URL:https://www.pref.gunma.jp/site/houdou/736415.html

山梨県「令和6年度障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況等」
URL:https://www.pref.yamanashi.jp/documents/47208/r6kouhyou.pdf

千葉市「指定障害福祉サービス等事業者に対する行政処分情報」
URL:https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/koreishogai/shogaifukushi/gyouseisyobun_ichiran.html

愛知県「障害福祉サービス事業所への行政処分について」
URL:https://www.pref.aichi.jp/press-release/shogai-shobun20240626.html

厚生労働省「株式会社恵の不正行為等への対応について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001268129.pdf

厚生労働省「株式会社恵からの報告及び行政指導について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/001285328.pdf

愛知県「株式会社恵の運営するグループホーム等の譲渡先法人の事業所指定について」
URL:https://www.pref.aichi.jp/press-release/202502ghm-jigyojoto.html

人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、企業、公益団体、国際機関等が公表する一次情報をもとに、差別、労働、教育、福祉、司法・制度、外国人共生、ビジネスと人権などに関するニュースと解説を発信しています。掲載内容は、出典確認を行ったうえで、制度的背景や人権上の論点を補足して構成しています。

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