医療費が払えない人を支える無料低額診療事業 全国745施設の仕組み

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この記事のポイント

1.無料低額診療事業は、社会福祉法に基づき、生計が困難な人に無料または低額な料金で診療を行う第二種社会福祉事業で、厚生労働省の令和5年度実績では全国745施設が実施している。
2.利用者の全国一律の所得基準がある制度ではなく、実際の減免基準や対象範囲は実施する医療機関ごとに異なる。医療ソーシャルワーカーによる生活相談も制度の基準に組み込まれている。
3.診療費が減免されても、院外処方の薬代などが同じ範囲で減免されるとは限らない。継続的な生活困窮がある場合には、生活保護の医療扶助など別の制度との接続も必要になる。

安心につながる病院案内
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「お金がないから病院に行けない」を防ぐ制度

社会福祉法第2条第3項第9号は、「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」を第二種社会福祉事業の一つとして定めている。これが無料低額診療事業である。健康保険の高額療養費制度や生活保護の医療扶助とは別の仕組みで、経済的な事情によって必要な診療から遠ざかる人を、医療機関側の減免によって受診につなぐ制度だ。

厚生労働省の通知は、対象となる「生計困難者」の例として、低所得者、要保護者、行旅病人、一定の住居を持たず野外で生活している人などを挙げる。東京都は現在、低所得者や要保護者に加え、ホームレス、DV被害者、人身取引被害者などを例示し、医療保険加入の有無や国籍を問わないと案内している。ただし、東京都の案内を全国一律の利用要件と考えることはできない。実際の減免基準は各実施施設が定めており、利用前に確認する必要がある。

ここで区別しておきたいのが、「診療費を10%以上減免された患者が10%以上」という国の基準である。厚生労働省通知では、生活保護受給者と、無料または診療費の10%以上の減免を受けた患者の延数を合わせ、取扱患者総延数の10%以上とすることが実施施設の基準に含まれている。これは患者本人が制度を利用するための「所得10%基準」ではなく、医療機関が無料低額診療事業として運営する際の施設側の基準である。数字だけを切り取ると誤解しやすい部分だ。

全国745施設、病院と診療所はほぼ半数ずつ

厚生労働省が公表した令和5年度実績では、無料低額診療事業を実施する診療施設は745か所だった。内訳は病院374か所、診療所371か所で、前年より7施設増えている。法人別では消費生活協同組合213か所、社会福祉法人197か所、公益社団・財団法人156か所、医療法人・社会医療法人137か所などとなっている。

同資料で厚生労働省が「無低患者数」として集計した数は704万2,052人で、前年度より10万2,235人増えた。ただし、この概要資料では、この数字を個人単位の実人数として読むための詳細な注記は示されていない。このため、制度を利用した「704万人の異なる人がいた」と読み替えるのではなく、厚生労働省の公表項目名に沿って把握するのが適切である。

745施設という数だけでは、居住地域から実際に利用可能な医療機関までの距離や、必要な診療科があるかどうかまでは分からない。東京都のように自治体が実施施設一覧を公表している地域もあり、東京都は医療機関への直接相談のほか、福祉事務所や社会福祉協議会への相談を利用方法として案内している。無料低額診療事業は全国一律の窓口で診療費を免除する給付制度ではなく、実施医療機関と地域の福祉機関を通じて利用する仕組みである点が特徴となる。

医療費だけでなく生活状況を相談する仕組み

無料低額診療事業を、単純な「病院の割引制度」と捉えると制度の一部を見落とす。厚生労働省の基準では、実施施設に対し、医療上・生活上の相談に対応する医療ソーシャルワーカーを配置し、必要な相談設備を備えることを義務的な基準の一つとしている。生活保護受給者やその他の生計困難者を対象とする無料の健康相談、保健教育も基準に含まれる。

病気と生活困窮は別々に生じるとは限らない。収入の減少によって受診を控え、治療が遅れれば、健康状態の悪化によって働ける時間が減り、さらに収入が減少する場合がある。逆に、疾病や障害によって働けなくなったことが家計悪化の出発点になる場合もある。診療費だけを一時的に減額しても、家賃、食費、就労、債務、住まいなどの問題が残れば、継続的な治療が難しくなる。このため、無料低額診療事業では、診療と生活相談を制度上切り離していない。

厚生労働省の調査研究も、この「つなぐ機能」を調査対象としてきた。医療機関だけで問題を完結させるのではなく、福祉事務所、生活困窮者の自立相談支援機関、社会福祉協議会などへ接続できるかが、制度の実効性に関係する。無料低額診療事業は医療費を軽減する制度であると同時に、医療機関で把握された生活困窮を別の社会保障制度へつなぐ入口にもなり得る。

制度を「知っている人だけ」が利用する問題

制度へのアクセスでは、無料低額診療事業そのものが十分に知られているかという問題もある。厚生労働省の平成30年度調査研究で、無料低額診療施設143施設に減免方法の明示方法を尋ねたところ、「患者から相談を受けた際に説明」が72.7%、「院内にポスターや看板等で掲示」が66.4%、「ウェブサイト上で公開」が55.9%だった。複数回答のため単純比較はできないが、少なくとも当時の調査では、すべての施設がウェブ上で制度を知らせていたわけではない。

これは、制度の対象になり得る人ほど、自分から「無料低額診療事業を利用したい」と申し出ることが難しい可能性を示す。医療費を払えないことへの羞恥心、制度を知らないこと、日本語での情報取得の難しさ、住居喪失、孤立などが重なれば、相談窓口に到達する前に受診を断念することも考えられる。制度の基準が減免方法の「明示」を求めているのは、減免制度を内部規程として持つだけでは、受診機会の確保につながらないからである。

人権上の論点もここにある。日本国憲法第25条の生存権から、個々の患者に無料低額診療事業の利用が直接保障されると単純化することはできない。しかし、経済状態の悪化によって必要な医療へのアクセスが断たれることは、健康を維持し、生活を再建する条件そのものに影響する。無料低額診療事業は、医療への経済的障壁を小さくするために社会福祉法が設けている具体的な仕組みの一つとして捉えることができる。

「診療が無料なら薬も無料」とは限らない

利用時に特に確認したいのが、減免される費用の範囲である。東京都は、無料低額診療事業の減免範囲を「医療費(保険診療の範囲内)、日用品費等」とし、具体的な内容は施設ごとに規定すると案内している。したがって、「無料低額診療」という名称だけから、診療に関係するすべての支払いがなくなると判断することはできない。

特に問題になりやすいのが院外処方である。令和5年度実績では、745施設のうち、無料低額診療患者の外来調剤を**「全て院外」**としている施設が337か所あった。全て院内は182か所、患者の経済状況から薬剤負担が困難な場合は院内調剤とする施設が76か所だった。厚生労働省の調査研究には、院外処方の場合は投薬費用が別途かかると利用者に説明している施設の回答も記録されている。

つまり、診察を受けた医療機関で自己負担が減免されても、別法人の保険薬局で支払う薬代まで同じ仕組みで減免されるとは限らない。服薬が治療の中心となる疾病では、診察料だけでなく薬剤費を含めて治療を継続できるかが実際の医療アクセスを左右する。利用前または処方前に、医療機関の相談窓口で院外処方時の費用まで確認することが現実的な対応となる。

生活保護の医療扶助とは別の制度

無料低額診療事業と生活保護の医療扶助も区別する必要がある。無料低額診療事業は、実施する病院や診療所が定めた基準に基づき診療費などを減免する社会福祉事業である。これに対し、生活保護は、資産や能力などを活用しても最低限度の生活を維持できない人に対し、生活、住宅、医療などを包括的に保障する公的扶助制度である。厚生労働省によると、生活保護の医療扶助では医療サービスの費用を医療機関へ直接支払い、本人負担はない。

したがって、無料低額診療事業を「生活保護を受けないための制度」と理解するのも正確ではない。診療費だけでなく、食費、家賃、光熱費などを含めて生活そのものが維持できない場合には、無料低額診療事業だけでは困窮を解消できない。生活保護の相談・申請窓口は福祉事務所であり、必要な書類がそろっていない場合や住居がない場合でも申請できると厚生労働省は案内している。

生活保護に至る前の段階では、生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援、家計改善支援、住居確保給付金などが関係する場合もある。医療費の支払いが難しいという相談の背後に、失業、家賃滞納、住居喪失、債務、家族関係など複数の問題がある場合、無料低額診療事業、生活困窮者自立支援制度、生活保護を競合する制度として扱うのではなく、本人の生活状況に応じて接続することになる。

制度の実効性は「受診後」だけでは測れない

無料低額診療事業を検証する際、利用患者数や施設数だけを見るのでは不十分である。実施施設がない地域からどの程度アクセスできるのか、制度を必要とする人に情報が届いているか、院外処方を含め治療を継続できるか、医療ソーシャルワーカーから福祉制度へ適切につながっているか、といった点を分けて見る必要がある。

令和5年度実績の745施設という数字は、無料低額診療事業が現在も一定の規模で運用されていることを示す。その一方、減免基準と対象範囲は施設ごとに異なり、薬代など診療後の負担が残る場合もある。「医療費を払えないなら受診できない」と本人が判断する前に、無料低額診療事業を実施する病院・診療所の相談窓口、福祉事務所、社会福祉協議会へつながる経路があるかどうかが、制度を実際の受診機会へ変える条件となる。厚生労働省の通知に基づく無料低額診療事業は、診療費の減免と医療ソーシャルワーカーによる生活相談を組み合わせる仕組みとして、全国の実施医療機関で運用されている。

出典

厚生労働省「社会福祉法」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82001000&dataType=0&pageNo=1

厚生労働省「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb0072&dataType=1&pageNo=1

厚生労働省「無料低額診療事業等の実施状況の概要(令和5年度実績)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/muryou_sinryoujigyou_r06.pdf

厚生労働省「無料低額診療事業等の実態把握と生計困難者に対する支援のあり方に関する調査研究事業」
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000525506.pdf

東京都福祉局「無料低額診療事業・無料低額介護老人保健施設利用事業」
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/seikatsu/hogo/mutei

厚生労働省「生活保護制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html

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人権ニュース編集部

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