身元保証人不在だけの入院拒否は不可 厚労省が2026年再周知

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この記事のポイント

1.厚生労働省は2026年3月、身元保証人等がいないことだけを理由にした入院拒否を現在も把握しているとして、都道府県に2018年通知を改めて周知するよう求めた。
2.2019年の厚生労働省ガイドラインは、医療機関が「身元保証人」に期待してきた役割を、緊急連絡、入院費、退院支援など6項目に分解し、保証人がいない場合の対応を示している。
3.身元保証人や成年後見人に医療行為への同意権が与えられているわけではない。判断能力が低下した患者についても、本人の意思を中心に据えた意思決定支援が制度上の原則となる。

「身元保証人がいないと入院できない」は本当か 身寄りのない人と医療アクセス
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厚労省、2026年3月にも入院拒否を再周知

厚生労働省は2026年3月の「全国医政関係主管課長会議資料」で、患者に身元保証人等がいないことだけを理由に入院を拒否する事例を現在も把握しているとして、都道府県に医療機関への再周知と適切な指導を要請した。2018年4月27日に出した通知から約8年が経過しても、身元保証人の不在が医療へのアクセスを妨げる事例が解消していないことを、国自身が認めた形である。

2018年通知は、医師法第19条第1項の「応招義務」を根拠としている。入院による治療が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことのみを理由に医師が入院を拒否することは、同項に抵触すると厚生労働省は明記した。したがって、「家族や保証人を用意できなければ入院させてもらえない」という一律の扱いは、国が示している制度運用とは一致しない。

ただし、これは「患者が希望すれば、医療機関はいかなる場合でも入院を受け入れなければならない」という意味ではない。厚生労働省は2019年12月、応招義務について別の通知を出し、患者の緊急性や医療提供体制などを踏まえて、診療に応じないことが正当化される場合を整理している。問題になるのは、入院治療が必要な患者について、保証人がいないという一点だけを拒否理由にすることである。

「身寄りがない人」は親族がいない人だけではない

厚生労働省は2019年6月、「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を策定した。このガイドラインで対象とする「身寄りがない人」には、そもそも家族や親族がいない人だけでなく、家族や親族に連絡がつかない人、親族が存在しても支援を受けられない人も含まれる。

この定義は実務上大きい。戸籍上の親族が存在することと、入院中の支援を実際に頼めることは同じではないからだ。疎遠、関係悪化、遠隔地での生活、親族自身の高齢化など、個々の事情によって支援を得られない場合がある。ガイドラインは「親族の有無」だけで患者を分類せず、現実に支援を受けられるかどうかを基準に医療機関の対応を組み立てている。

2017年1月には、内閣府の消費者委員会が「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」を出していた。そこでは、病院や介護保険施設が身元保証人等の不在だけを理由に入院・入所を拒まないよう厚生労働省に対応を要請するとともに、そもそも病院や施設が保証人に何を担わせているのかを分析する必要性を指摘している。2018年の入院拒否通知、2019年のガイドラインは、この問題提起を受けた制度整備でもある。

「保証人1人」に集約されていた6つの役割

2019年ガイドラインの特徴は、「身元保証人」という一つの言葉をそのまま扱わず、医療機関が保証人や身元引受人に期待している仕事を分解した点にある。

厚生労働省は、その役割を①緊急時の連絡先、②入院計画書に関すること、③入院中に必要な物品の準備、④入院費等に関すること、⑤退院支援、⑥死亡時の遺体・遺品の引取りや葬儀等の6項目に整理した。

ここから分かるのは、「身元保証人が必要」という一つの問題に見えても、実際には性格の異なる複数の課題が混在していることである。入院費を誰が支払うかという財産上の問題と、緊急時に誰へ連絡するかという連絡体制、退院後の生活場所をどう確保するかという福祉上の問題は、それぞれ別に対応できる。

制度のポイントは、「代わりの保証人を何とか探す」ことだけではない。医療機関が保証人に何を頼もうとしているのかを分け、それぞれについて本人、医療機関、自治体、福祉サービス、成年後見制度などで対応できる部分を確認することにある。

入院費を払う人と、治療に同意する人は別

特に混同を避ける必要があるのが、入院費の支払いと医療行為への同意である。

本人に判断能力があり、入院費を支払える場合、ガイドラインは原則として本人が支払うとしている。経済的な困窮が考えられる場合には、公的医療保険の状況を確認し、自治体への相談につなぐ。生活保護の利用を検討する場合には入院時から早期に対応することも示されている。

成年後見人等がいる場合には、本人の財産から医療費を支払うための手続を代行することがある。しかし、成年後見人自身が患者の入院費を保証する立場になるわけではない。厚生労働省のガイドラインも、「成年後見人等が保証人として、入院費を負担することはありません」と整理している。

つまり、「成年後見人をつければ病院の連帯保証人になる」という理解も正確ではない。成年後見制度が担う財産管理や契約に関する権限と、第三者が自分の財産から患者の債務を支払う保証契約とは区別される。

身元保証人にも成年後見人にも医療同意権はない

さらに重要なのが、手術などの医療行為への同意である。

2019年ガイドラインは、医療機関が身元保証人・身元引受人等に「医療行為への同意」を期待している事例があることを認めた上で、医療行為への同意は本人に密接に属する行為であり、第三者である身元保証人や身元引受人に同意する権限はないとの考え方を示している。

成年後見人についても同様である。財産管理や一定の契約を本人に代わって行えるからといって、手術や治療について本人の代わりに同意する一般的な権限が付与されるわけではない。

この区別は、身寄りのない患者の権利を考える上で核心となる。「家族がいないから同意書に署名する人がいない。したがって治療できない」という処理ではなく、まず患者本人が意思決定できるかを確認する必要があるからだ。厚生労働省のガイドラインは、判断能力が十分な人、判断能力が不十分で成年後見制度を利用している人、判断能力が不十分で同制度を利用していない人の三つに分けながら、いずれについても本人の意思を確認し、尊重することを原則としている。

判断能力が低下しているからといって、本人を意思決定の過程から外してよいわけでもない。本人が理解できる形で説明し、これまで示した意思や価値観を確認しながら、家族等から得られる情報や医療・ケアチームによる検討を組み合わせる仕組みが必要になる。厚生労働省は2022年8月、実際の事例について医学的、法律的、倫理的な課題と対応を整理した事例集も作成し、医療機関への活用を促している。

保証人がいなければ退院できない問題もある

医療へのアクセスは、入院時だけで終わらない。治療後にどこへ戻るのか、介護や障害福祉サービスをどう利用するのか、生活費や住まいをどう確保するのかという退院支援も、身寄りのない患者には大きな課題となる。

2019年ガイドラインは、入院前からケアマネジャーや相談支援専門員などが関わっている場合には、本人の意思を確認しながら関係者と退院先や手続を調整するとしている。支援者がいない場合には新たに支援チームをつくり、高齢者なら地域包括支援センター、障害者なら障害福祉の相談窓口、経済的困窮のおそれがあれば生活困窮者向けの相談窓口につなぐ方法を示した。

ここでも「保証人がいるか、いないか」という二択にすると、問題の実態が見えにくくなる。必要なのは、退院後の住まい、介護、金銭管理、緊急連絡など、患者が不足している支援を特定し、それを担える制度や関係者を組み合わせることである。

介護施設でも「保証人がいないだけ」の拒否はできない

同じ問題は介護施設にもある。

厚生労働省が公表した2017年度の調査では、介護施設への入所時に本人以外の署名を求めていた施設は95.9%だった。一方、厚生労働省は、介護保険施設について身元保証人等を置くことを義務付ける法令上の規定はなく、身元保証人等がいないことはサービス提供を拒む正当な理由には当たらないと都道府県などに周知している。

病院と介護施設では適用される法令やサービスの性格は異なるものの、「家族や保証人がいない」という本人には容易に変えられない事情によって、必要な医療や介護への入口そのものを閉じないという方向は共通している。

身寄りのない高齢者が増える中で、病院から介護施設への移行時に再び保証人を要求されれば、入院拒否がなくなっても退院先を確保できない場合がある。このため、医療だけを切り離すのではなく、地域包括支援センターや自治体の福祉部門まで含めた連携が実務上の鍵になる。

民間の「身元保証サービス」と入院する権利は分けて考える

家族や親族の代わりに入退院手続、日常生活支援、死後事務などを担う「高齢者等終身サポート事業」も広がっている。内閣官房、内閣府、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省は2024年6月、省庁横断で「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定した。

こうしたサービスを利用すること自体と、病院へ入院できる法的扱いは分ける必要がある。民間事業者は緊急連絡、入退院時の手続、買物、死後事務などを契約に基づいて担うことができるが、「このサービスを契約しなければ入院できない」という一般的な制度ではない。

契約を利用する場合にも確認点がある。消費者庁は、サービス内容や費用、本人の支払能力などを確認し、不安があれば消費生活センターや地域包括支援センターへ相談するよう案内している。政府のチェックリストには、身元保証の内容と費用、解約方法、預託金の管理、判断能力が低下した場合の取扱いなども盛り込まれている。死後事務まで含む長期契約になり得るため、「保証人が必要と言われたから」という理由だけで契約内容を十分確認せず申し込むことは避けたい。

「誰が同意書を書くか」から本人の意思を残す仕組みへ

厚生労働省の検討は、保証人の代替を探す段階から、患者本人の意思をどう記録し、必要な時に医療現場へ伝えるかという段階にも進んでいる。

2024年度の厚生労働行政推進調査事業では、身寄りのない人の医療行為への同意を調査し、高齢者等終身サポート事業者が利用者の「医療に係る意向表明文書」の作成や保管を支援する際の留意点を整理した。そこでも、医療への同意権限が第三者にあるわけではないこと、文書を作成する主体は利用者本人であること、本人の意思は状況に応じて変化し得ることが基本認識とされている。

事業者が契約条件として意向表明文書の作成を強制するのではなく、本人が希望する人や医療・介護関係者とも相談しながら、本人が何を大切にしているのかを記録する。実際に医療が必要になった時点では、その時の本人の意思を改めて尊重する。この考え方は、「家族の署名を得ること」を中心にした医療手続から、患者本人の自己決定を支える仕組みへの転換を示している。

8年前の通知が2026年にも再周知された意味

身元保証人の問題について、制度上の原則はすでにかなり明確になっている。2017年の消費者委員会建議、2018年の厚生労働省通知、2019年のガイドライン、2022年の事例集、2024年の高齢者等終身サポート事業者ガイドラインと、行政文書も積み重ねられてきた。

それでも厚生労働省は2026年3月、「昨今も、そうした入院拒否が発生している」として2018年通知を再度周知した。

ここから検証すべきなのは、通知の有無だけではない。各医療機関の入院申込書や現場の運用が、依然として「身元保証人1人がいなければ手続を進められない」という設計になっていないか、緊急連絡、入院費、退院支援、死後事務、医療上の意思決定をそれぞれ別の問題として処理できているかである。厚生労働省が2019年ガイドラインで示した6つの役割を現場で分けて運用できるかどうかが、身寄りの有無によって必要な医療へのアクセスが左右されない制度を実効的なものにする分岐点となる。

出典

厚生労働省「令和7年度全国医政関係主管課長会議」
URL: 厚生労働省「令和7年度全国医政関係主管課長会議」

厚生労働省「全国医政関係主管課長会議資料(令和8年3月)」
URL: 全国医政関係主管課長会議資料

厚生労働省「身元保証人等がいないことのみを理由とする入院拒否について」
URL: 令和8年3月会議資料「身元保証人等がいないことのみを理由とする入院拒否について」

厚生労働省「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(2018年4月27日)
URL: 2018年4月27日厚生労働省通知

厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集」
URL: 厚生労働省「身寄りがない人への対応について」

厚生労働省「『身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン』の概要」
URL: 厚生労働省ガイドライン概要

厚生労働省「『身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン』に基づく事例集について」(2022年8月12日)
URL: 厚生労働省事例集通知

厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(2019年12月25日)
URL: 厚生労働省・応招義務通知

消費者委員会「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」(2017年1月31日)
URL: 内閣府消費者委員会・建議

内閣官房ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(2024年6月)
URL: 高齢者等終身サポート事業者ガイドライン

消費者庁「いわゆる『高齢者等終身サポート事業』の利用に関する注意点」
URL: 消費者庁・利用上の注意点

厚生労働省「『身寄りがない人への医療行為の同意に関する実態把握のための調査』を踏まえた医療に係る意向表明文書についての高齢者等終身サポート事業者の関わり方」
URL: 厚生労働省・意向表明文書に関する資料

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人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、裁判所、企業、公益団体、国際機関などが公表する一次情報を確認し、差別、子ども、障害者、高齢者、教育、福祉、司法・制度、外国人、ビジネスと人権などに関するニュース、制度解説、独自調査を発信しています。記事では出典を明示し、事実関係を確認したうえで、関連する法制度や統計、過去の経緯などを参照しながら、人権上の論点や社会的背景を整理しています。

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