三菱マテリアルが「現代奴隷・人身売買」声明を公表 カナダ・英国法が企業に求めるサプライチェーン人権対応とは

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この記事のポイント

① 三菱マテリアルは、カナダのサプライチェーン法に基づき、2025年度の強制労働・児童労働防止に関する報告書を公表した。
② 同社は英国現代奴隷法に基づく声明も公表しており、国際的に企業へサプライチェーンの人権リスクを開示させる制度が広がっている。
③ 重要なのは「自社が強制労働をしていない」と宣言するだけではなく、原材料・物流・委託先まで調べ、問題を予防・是正する「人権デューデリジェンス」である。

ビジネスと人権
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1.三菱マテリアルが2025年度報告書

三菱マテリアルは、カナダで2024年1月に施行された「サプライチェーンにおける強制労働・児童労働の防止等に関する法律」に基づき、2026年3月31日に終了した2025年度の取組について報告書を公表しました。

また、英国で2015年に施行された現代奴隷法に基づく声明も公表しています。

英国向けの声明には、グループ企業の取組も含まれています。

2.「現代奴隷」とは何か

「奴隷」という言葉から、歴史上の奴隷制度を思い浮かべる人も少なくありません。

しかし「現代奴隷(modern slavery)」は現在も存在する人権問題を表す言葉です。

強制労働、人身取引、債務による拘束、強制結婚など、人が自由意思に反して支配・搾取される状況を広く指します。

ILOなどが2022年に公表した推計では、2021年時点で世界の約5000万人が現代奴隷状態にあり、そのうち約2800万人が強制労働、約2200万人が強制結婚の状態にあると推計されました。

これは2021年時点を推計した数字であり、2026年現在の人数そのものを示す数字ではない点には注意が必要です。

3.なぜ素材メーカーが「奴隷」の問題を扱うのか

現代の企業活動では、自社工場だけを見ても人権リスクを把握できません。

鉱物。

金属。

原料。

部品。

物流。

清掃。

人材派遣。

海外の加工会社。

複雑なサプライチェーンのどこかで強制労働や児童労働が発生すれば、最終製品を販売する企業も無関係ではいられません。

特に三菱マテリアルのような素材企業では、鉱物資源や原材料を世界各地から調達するため、上流のサプライチェーン管理が重要になります。

4.カナダ法は2024年施行

カナダの「Fighting Against Forced Labour and Child Labour in Supply Chains Act」は2024年1月に施行されました。

一定の企業や政府機関に対し、サプライチェーンで強制労働・児童労働が使われるリスクを防止・低減するために行った取組を毎年報告することを求める制度です。

ポイントは、

「問題が絶対に存在しないことを保証せよ」

という制度ではなく、

どのようなリスクがあり、それを企業がどのように調べ、予防し、改善しているかを外部へ説明すること

です。

5.英国では年間声明を求める

英国の現代奴隷法第54条は、英国で事業を行い、一定規模以上の売上高を持つ企業などに、毎年度「現代奴隷声明」を公表することを求めています。

英国政府の最新ガイダンスでは、企業構造、サプライチェーン、人権リスク、デューデリジェンス、研修、効果測定などを記載することが推奨されています。

声明は取締役会などの承認を受け、責任者が署名する必要があります。

つまり、人権問題をCSR担当部署だけに任せず、経営レベルの問題として扱う仕組みです。

6.三菱マテリアルはサプライヤーを審査

三菱マテリアルの公開情報によると、物流資材部門では2024年度、

新規取引先27社の採用審査を100%実施。

既存取引先131社について予定していた定期評価を100%実施。

さらにリスク評価で高リスクと判断した物流資材部門22社、サービス等4社に対して人権デューデリジェンスを実施したとしています。

2025年からはCSR調達ガイドラインを日本語、英語、中国語で展開し、海外サプライヤーともコミュニケーションを進めています。

7.「人権デューデリジェンス」は監査だけではない

人権デューデリジェンスとは、企業活動が人権に与える負の影響を、

特定する。

評価する。

予防・軽減する。

実施状況を追跡する。

外部へ説明する。

必要なら救済につなげる。

という継続的なプロセスです。

一度アンケートを行って終わるものではありません。

また、「問題のあるサプライヤーを発見したら即座に契約解除する」という対応が、必ずしも被害者にとって最善とは限りません。

英国政府の2025年改訂ガイダンスも、問題が見つかった際は被害者中心の救済を行い、拙速な対応によって労働者へさらなる不利益を与えないよう求めています。

8.日本企業にも無関係ではない

英国やカナダの法律は外国法ですが、日本企業でもその国で一定規模の事業を展開すれば対象となる場合があります。

さらに、取引先である海外企業から人権情報の提出を求められるケースもあります。

そのため、

「日本には同じ法律がないから関係ない」

とは言えません。

サプライチェーンが国境を越える現在、強制労働や児童労働への対応は、倫理だけでなく取引・調達・企業価値に関わる経営課題になっています。

三菱マテリアルの開示は、企業の人権対応が「人権方針を掲げる段階」から「具体的に取引先を調べ、その結果を説明する段階」へ移っていることを示す事例として見ることができます。

出典

三菱マテリアル「現代奴隷および人身売買に関する声明」
https://ir.mmc.co.jp/ja/sustainability/social/modern_slavery_act.html

三菱マテリアル「サプライチェーンマネジメント」
https://ir.mmc.co.jp/ja/sustainability/social/supply_chain.html

三菱マテリアル「人的資本・人権」
https://ir.mmc.co.jp/ja/sustainability/social/human_resource.html

ILO「Global Estimates of Modern Slavery: Forced Labour and Forced Marriage」
https://www.ilo.org/publications/major-publications/global-estimates-modern-slavery-forced-labour-and-forced-marriage

Government of Canada「Fighting Against Forced Labour and Child Labour in Supply Chains Act」関連情報
https://www.canada.ca/en/department-finance/corporate/transparency/annual-supply-chains-act-report.html

UK Government「Slavery and human trafficking in supply chains: guidance for businesses」
https://www.gov.uk/government/publications/transparency-in-supply-chains-a-practical-guide

UK Government「Transparency in supply chains: a practical guide」
https://www.gov.uk/government/publications/transparency-in-supply-chains-a-practical-guide/transparency-in-supply-chains-a-practical-guide-accessible

関連用語

現代奴隷
強制労働、人身取引、強制結婚など、搾取から離れることが困難な状態を包括的に示す概念。
https://www.ilo.org/publications/major-publications/global-estimates-modern-slavery-forced-labour-and-forced-marriage

強制労働
処罰などの脅威の下で、本人が自発的に申し出たものではない労働を強いられること。

人権デューデリジェンス
企業が自社やサプライチェーンにおける人権への負の影響を把握し、予防・軽減・是正し、その結果を説明する継続的な取組。

英国現代奴隷法
2015年制定。一定の企業にサプライチェーンの現代奴隷対策について毎年声明を公表することを求める。
https://www.gov.uk/government/publications/transparency-in-supply-chains-a-practical-guide

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人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、裁判所、企業、公益団体、国際機関などが公表する一次情報を確認し、差別、子ども、障害者、高齢者、教育、福祉、司法・制度、外国人、ビジネスと人権などに関するニュース、制度解説、独自調査を発信しています。記事では出典を明示し、事実関係を確認したうえで、関連する法制度や統計、過去の経緯などを参照しながら、人権上の論点や社会的背景を整理しています。

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