1.東京都は2026年11月2日、犯罪で親などを亡くした18歳以下の子どもに、1人30万円を支給する「遺児見舞金」を新設した。
2.過剰な取材やインターネット上の誹謗中傷など、犯罪後に生じる二次的被害への対応にも、弁護士費用を最大23万円助成する。
3.刑事裁判の被害者参加に伴う弁護士費用の助成上限も10万円から40万円に拡大。国の法テラスによる支援との違いや、申請時の注意点を解説する。

犯罪被害後の生活再建へ、東京都が3つの支援を新設・拡充
東京都は2026年11月2日、犯罪被害者や遺族の生活再建を支える経済的支援制度を拡充した。新たに導入したのは、犯罪によって親などを亡くした18歳以下の子どもへの「遺児見舞金」と、事件後の誹謗中傷や過剰な取材などによる二次的被害に対応するための弁護士費用助成である。既存の「被害者参加制度」に関する弁護士費用助成も増額した。東京都総務局が10月27日に公表したもので、2026年4月1日以降に発生した故意の犯罪行為による生命・身体への被害が、新設・拡充部分の対象となる。
制度の根拠となるのは、東京都が2026年3月30日に策定した「第5期東京都犯罪被害者等支援計画」である。計画期間は2026年度から2030年度までの5年間。犯罪被害者への相談支援、経済的負担の軽減、精神的支援、二次的被害の防止などを柱としている。今回の改正は、被害直後の一時的な支援だけでなく、子どもの養育、インターネット上の情報への対応、裁判への参加といった、被害後の暮らしに生じる異なる問題を対象とした。
親を亡くした18歳以下の子どもに30万円、従来制度との違い
新設された遺児見舞金は、犯罪によって生計を共にしていた父母などの一方、または双方を亡くした18歳以下の子どもを対象に、1人につき30万円を支給する制度である。東京都には従来から、犯罪によって家族を亡くした遺族に30万円を支給する「遺族見舞金」があった。しかし、遺族見舞金は原則として法令上の順位が最も高い遺族を対象としており、同じ家族に複数の子どもがいても、それぞれに支給される制度ではなかった。今回の遺児見舞金は、遺族見舞金の第1順位遺族に該当しない子どもを個別に支援する仕組みである。
この違いには、子ども自身の生活を支えるという意味がある。家族が犯罪によって亡くなった場合、葬儀などの当面の支出だけでなく、生活費、教育費、転居など、残された家族の暮らしに影響が及ぶことがある。遺児見舞金は、子どもを単に遺族の一員として扱うのではなく、子どもごとに経済的支援を行う制度といえる。ただし、支給には住所や家族関係などの要件があり、遺児見舞金と遺族見舞金を同じ人が重複して受け取れるわけではない。被害を受けた日から原則1年以内の申出が必要で、制度の利用には東京都総合相談窓口での面接相談も必要となる。
誹謗中傷や過剰取材による「二次的被害」に初の弁護士費用助成
もう一つの新制度が、犯罪被害後に生じる二次的被害への弁護士費用助成である。東京都は、報道機関による過剰な取材や、インターネット上の誹謗中傷などへの対応を弁護士に依頼する場合、最大23万円を助成する。二次的被害とは、犯罪そのものによる被害とは別に、周囲の言動、事件に関する情報の拡散、プライバシー侵害などによって、被害者や家族が新たな精神的苦痛や生活上の不利益を受けることを指す。
東京都議会の2026年第1回定例会で、都の総務局長は、都が実施した調査において、約3割の犯罪被害者等がSNS上の誹謗中傷などの二次的被害によって精神的に傷ついたと回答したことを説明している。この数字は東京都の調査結果であり、全国のすべての犯罪被害者に同じ割合で二次的被害が生じていることを示すものではない。それでも、事件後の情報の扱われ方が、被害者の生活再建に関わる問題であることを示している。
二次的被害への対応では、被害者のプライバシーや名誉を守ることと、報道機関の取材活動や市民の表現の自由を区別して考える必要がある。事件の公益性に基づく報道や正当な批判と、被害者の私生活を過度にさらす行為、根拠のない誹謗中傷などは同一ではない。今回の東京都の制度は、報道やインターネット上の表現を一律に規制するものではなく、被害者側が弁護士の専門的な支援を利用して、自らの権利を守るための費用を補助するものである。
裁判への参加を支える弁護士費用、10万円から40万円へ
東京都は、刑事裁判の「被害者参加制度」に関する弁護士費用の助成上限も、従来の10万円から40万円へ引き上げた。対象となるのは、被害者参加について裁判所の許可を受け、弁護士に手続きを依頼する被害者や遺族などである。被害者参加制度は2008年12月1日に始まり、一定の犯罪の被害者や遺族が、裁判所の許可を受けて公判に出席し、一定の要件のもとで証人への尋問や被告人への質問などを行える仕組みである。
制度を利用するかどうかは、被害者や遺族の意思に関わる問題でもある。裁判への参加を希望する人が、法律知識や費用の不足を理由に参加を断念することがないようにする一方、本人が参加を望まない場合には、その選択も尊重される必要がある。弁護士費用の助成は、被害者に裁判への参加を促すためだけではなく、参加を希望した場合の経済的な障壁を軽減する制度として理解できる。
国の法テラス支援とはどう違うのか
東京都の制度を理解する上では、2026年1月13日に始まった国の「犯罪被害者等支援弁護士制度」との違いも押さえておきたい。国の制度は、2024年の総合法律支援法改正によって創設され、日本司法支援センター(法テラス)が実施している。殺人、一定の性犯罪、重い傷害などの被害者や家族が、刑事、民事、行政などの手続について、原則として法テラスの費用負担で弁護士の支援を受けられる仕組みである。
法テラスの新制度には、対象犯罪や経済状況に関する要件がある。例えば、申込者とその配偶者の現金・預金・有価証券等の合計が原則300万円以下であることが必要で、一定の治療費などは控除できる。また、対象となるのは原則として2026年1月13日以降の犯罪被害である。東京都の新設・拡充制度は2026年4月1日以降の対象犯罪被害に適用されるため、両者は開始時期も支援の範囲も一致していない。
国の制度は、対象となる被害者に包括的・継続的な法律援助を提供するのに対し、東京都の制度は特定の費用に対する助成を行う。国や自治体の援助を同じ弁護士業務に重複して利用できるとは限らない。実際に利用する際は、どの制度を利用できるのか、弁護士との契約前に窓口で確認することが適切である。
犯罪被害者等基本法から20年、支援の対象は生活全般へ
日本の犯罪被害者支援制度の基礎となるのは、2004年12月1日に成立し、2005年4月1日に施行された「犯罪被害者等基本法」である。同法は、犯罪被害者等が個人の尊厳にふさわしい処遇を保障され、被害の状況や原因、生活への影響などに応じた適切な支援を受けられることを基本理念に掲げている。国だけでなく、地方公共団体にも地域の実情に応じた施策を実施する責務を定めた。
こうした制度のもと、犯罪被害者支援は、捜査や刑事裁判に関する援助から、医療、心理的支援、住居、生活費、就業など、被害後の生活全般へと広がってきた。2026年3月17日に閣議決定された国の「第5次犯罪被害者等基本計画」では、従来11月25日から12月1日まで実施されていた「犯罪被害者週間」を拡大し、11月1日から12月1日までを「犯罪被害者月間」とすることも定めた。
今回の東京都の支援拡充には、被害者本人だけでなく、親を亡くした子ども、二次的被害に直面した家族、刑事裁判への参加を希望する人など、それぞれ異なる事情を持つ人々に個別の支援を用意したという特徴がある。犯罪被害者等基本法が掲げる尊厳の保障を、地域の経済的支援制度で具体化した事例として捉えることができる。
申請期限と相談先、制度を利用するための注意点
新しい制度を利用する際に確認したいのは、施行日だけでなく、犯罪被害が発生した日、申請者の住所、必要書類、弁護士費用の支払い状況などである。特に、2026年4月1日から11月1日までに生じた被害も対象になり得る点には注意したい。遺児見舞金については、犯罪被害から原則1年以内の申出が必要となるため、制度の利用を検討している場合は早めに相談先を確認できる。
東京都は、犯罪被害者等のための総合相談窓口として、公益社団法人被害者支援都民センターに相談窓口を設けている。電話番号は03-3222-9050。受付時間は月・木・金曜日が9時30分から17時30分、火・水曜日が9時30分から19時までで、土日祝日と年末年始を除く。多摩支所では042-506-1042で相談を受け付けている。東京都総務局人権部の制度担当窓口は03-5388-2589である。
東京都が2026年11月2日に始めた経済的支援の拡充は、犯罪被害後の生活再建を、被害者本人、子ども、遺族それぞれの事情に応じて支える取組である。遺児見舞金、二次的被害への弁護士費用助成、被害者参加制度の支援拡充という3つの施策が、必要な人にどのように利用されるか。東京都は第5期犯罪被害者等支援計画に基づき、総合相談窓口や関係機関との連携を通じて、制度の案内と支援を進めている。
東京都「犯罪被害者等支援に係る経済的支援策の拡充について」(2026年10月27日)
URL:https://www.metro.tokyo.lg.jp/ja/information/press/2026/10/2026102703
東京都総務局人権部「犯罪被害者等支援事業」
URL:https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/hanzai/jigyou
東京都「東京都犯罪被害者等支援 見舞金給付について」
URL:https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/soumu/mimaikin20261102
東京都「第5期東京都犯罪被害者等支援計画の策定について」(2026年3月30日)
URL:https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/03/2026033037
東京都議会「令和8年第1回定例会代表質問・答弁」
URL:https://www.gikai.metro.tokyo.lg.jp/netreport/2026/report01/04.html
警察庁「犯罪被害者月間」
URL:https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/koukei/week.html
警察庁「犯罪被害者等基本法の制定」
URL:https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2006/html/zenbun/part0/p0_07.html
最高裁判所「被害者参加制度」
URL:https://www.courts.go.jp/saibanin/vc-files/saibanin/2023/R5navi_p1-8.pdf
法務省「犯罪被害者等支援弁護士制度の運用開始について」(2026年1月13日)
URL:https://www.moj.go.jp/housei/sougouhouritsushien/housei04_00063.html
日本司法支援センター(法テラス)「犯罪被害者等法律援助(犯罪被害者等支援弁護士制度)」
URL:https://www.houterasu.or.jp/site/higaishashien/hanzaihigai-seido-7.html

