1.生活保護では親族による扶養は保護に優先するが、扶養を受けられること自体は保護開始の要件ではない。
2.10年程度の音信不通、著しい関係不良、DVや虐待などでは、扶養義務の履行が期待できないとして扶養照会を行わない取扱いが可能である。
3.申請者が照会を望まないという理由だけで自動的に中止される制度ではなく、福祉事務所が家族関係などを聞き取って個別に判断する。

厚生労働省は2026年度も、生活保護における親族の扶養について「保護の要件」ではなく「保護に優先して行われるもの」とする運用を続けている。生活保護法第4条第2項は民法上の扶養を保護に優先すると定めるが、親やきょうだいから援助を受けられないことを証明してからでなければ申請できない制度ではない。厚生労働省も、扶養義務者による扶養の可否が保護の要否判定に影響するものではないと明示している。実際に仕送りなどを受ければ収入として扱うことと、親族から援助を得られることを生活保護の入口の条件とすることは、制度上別の問題である。
親族全員へ機械的に照会する制度ではない
扶養照会は、確認された扶養義務者全員に自動的に文書を送る仕組みでもない。厚生労働省が2021年2月に整理した手順では、まず本人の申告を基本に扶養義務者の存在を確認し、本人から家族関係や生活歴を聞き取って「扶養の可能性」を調べる。その結果、扶養義務の履行が期待できないと判断した親族については、個別に検討した上で直接照会しないことができる。2026年3月の厚生労働省主管課長会議資料でも、親族確認のための戸籍謄本等について、個別事情に応じて取得を省略できることが改めて示された。
「10年音信不通」やDV、虐待は省略判断の材料
具体的な判断基準も示されている。扶養義務者自身が生活保護受給者、長期入院患者、概ね70歳以上の高齢者などである場合のほか、申請者との間に著しい関係不良がある場合が対象となる。従来は「20年間音信不通」が例示されていたが、2021年の見直しで「10年程度」に短縮された。相続をめぐる対立、親族への借金、絶縁状態なども個別判断の材料となる。DVから逃れた人や虐待を受けた経緯があり、親族へ扶養を求めることが本人の自立を明らかに妨げる場合も、直接照会しない対象として示されている。
ただし、本人が「親族に知られたくない」と申し出れば必ず照会が止まるわけではない。政府は2022年の国会答弁で、申請者が扶養照会を拒んでいるかどうかだけで決めるのではなく、本人からの聞き取りを踏まえて福祉事務所が照会の要否を判断すると説明した。照会を行わないと判断した場合でも、それを理由に生活保護の審査を止めるものではない。この仕組みでは、申請者が家族との断絶、暴力、過去のトラブルなどを福祉事務所へ伝えられるか、その事情が適切に記録・評価されるかが実際の運用を左右する。
自治体ごとの差も検証対象となる。市川市が2025年12月市議会で示した数字では、扶養照会率は2022年度65.7%、2023年度66.9%、2024年度63.1%で、2024年度は4,250世帯だった。同市によると、2022年度から2024年度までの扶養照会から新たな金銭的支援の申出につながった事例はなかった。これは一自治体の実績であり全国の効果を示す数字ではないが、照会件数だけでなく、援助につながった割合や、照会を省略した理由まで把握する必要性を示す。生活保護を必要とする人の申請を妨げず、同時に扶養可能性を適切に確認するには、厚生労働省と福祉事務所が2021年の運用見直しをどの程度実務に反映できているかを継続して検証する必要がある。
厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000746078.pdf
厚生労働省「社会・援護局関係主管課長会議資料(令和8年3月)」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001671241.pdf
厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」
URL:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8432&dataType=1
衆議院「生活保護の扶養照会に関する質問に対する答弁書」
URL:https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b208062.htm
市川市議会「いちかわ市議会だより令和8年2月14日号 生活保護の扶養照会」
URL:https://www.city.ichikawa.lg.jp/site/gikai/32609.html

