1.日本総合研究所の2026年報告書では、自治体独自の内規・マニュアル保有は12.9%だった。
2.墓地埋葬法第9条は、火葬する者がいない場合、死亡地の市町村長に実施を義務づける。
3.親族探索、火葬判断、遺骨の個別保管・合祀に統一基準がなく、死亡地による取扱いの差が生じている。

日本総合研究所が2026年3月にまとめた厚生労働省の社会福祉推進事業報告書によると、引取り手のない遺体・遺骨を扱う自治体独自の内規やマニュアルがあるとの回答は12.9%にとどまった。調査は墓地埋葬法、行旅死亡人法、生活保護法の担当部署を対象とし、有効回答は1,257件、自治体数では約1,025に上る。現場では、どの時点で「引取り手がない」と判断するか、親族をどこまで探すか、火葬まで何日待つかについて、統一的な基準がない。
墓地、埋葬等に関する法律第9条は、埋葬または火葬を行う者がいない、あるいは判明しない場合、死亡地の市町村長が実施しなければならないと定める。身元不明の行旅死亡人には行旅病人及行旅死亡人取扱法、生活保護受給者には生活保護法の葬祭扶助が関係し、同じ「引取り手のない遺体」でも根拠法と費用処理は異なる。2025年3月の前年度報告書は、2023年度の該当事例を4万1,969件、同年度の死亡数の約2.7%と粗く推計した。全件を集計した公的統計ではないが、例外的な少数事例とは言い切れない規模を示す。
自治体規模による差も大きい。独自マニュアルの保有率は政令指定都市で68.4%だったのに対し、一般市は13.4%、町は6.0%、村は3.0%だった。マニュアルを持つ自治体でも、火葬前の親族調査の範囲、連絡方法、遺体の保管、庁内外の役割分担、火葬までの期間を記載していた割合はいずれも半数以下だった。発生件数の少ない自治体ほど経験を蓄積しにくく、担当者の異動後に判断根拠が失われる構造がある。
火葬後も事務は終わらない。2026年の報告書は、遺骨や遺留金品の保管期限が定まらず、保管場所と親族探索の負担が続く自治体の実情を示した。横須賀市と美濃加茂市で行った住民調査では、本人の意向が分からない場合、「一定期間、個別に保管した後に合祀する」とする回答が最も多く、個別保管は1年程度との回答が多かった。ただし、住民意識は法的基準ではなく、地域の葬送慣行や宗教上の考え方も一様ではない。
人権上の論点は、火葬を実施したかどうかだけでは測れない。故人の生前意思や身元の記録が残されるか、後から親族が判明した際に遺骨を特定できるか、宗教・祭祀上の希望を確認する機会が確保されたかまで含めて検討する必要がある。個別保管を無期限に続ければ自治体負担は増すが、早期の合祀は個別返還を難しくする。保管期間だけを全国一律に決めても、この二つの問題は同時には解けない。
同報告書は、警察、医療機関、地域包括支援センター、葬儀事業者との事前連携と、自治体マニュアルの整備を対応策に挙げた。厚生労働省と法務省は2025年に遺留金等の取扱い手引を改訂しているが、自治体独自の内規・マニュアル保有は12.9%にとどまる。厚生労働省、都道府県、市町村が国の手引と自治体実務を接続し、親族探索の範囲、火葬判断、個別保管、合祀前の再確認をどこまで共通化するかが、次の制度検証事項となる。
株式会社日本総合研究所「行旅病人及行旅死亡人取扱法、墓地、埋葬等に関する法律及び生活保護法に基づく火葬等関連事務を行った場合等の遺骨・遺体の取扱いに関する調査研究事業報告書(令和7年度)」
URL:https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/260413_hikitorite.pdf
厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」
URL:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei15/
株式会社日本総合研究所「行旅病人及行旅死亡人取扱法、墓地、埋葬等に関する法律及び生活保護法に基づく火葬等関連事務を行った場合等の遺骨・遺体の取扱いに関する調査研究事業報告書(令和6年度)」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001463077.pdf
厚生労働省「身寄りのない方が亡くなられた場合の遺留金等の取扱い」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html
