【独自調査】子どもの救済機関、回答61自治体の4分の1に擁護委員不在

この記事のポイント

1.こども家庭庁の調査では、相談救済機関を設置していると回答した61自治体のうち、15自治体が権利擁護委員を置いていなかった。
2.川西市、名古屋市、世田谷区などは、相談に加えて調査、調整、勧告、意見表明、公表まで条例で定めているが、正式な救済申立ての件数は少ない。
3.相談件数だけでなく、子ども本人からの相談割合、調整活動、自己発意調査、勧告後の報告まで公表しなければ、制度が権利回復に結び付いたかを検証できない。

子どもの救済機関

61自治体のうち15自治体に権利擁護委員なし

こども家庭庁が2025年に公表した調査研究では、子どもの相談救済機関を設置していると回答した61自治体のうち、権利擁護委員を3人置く自治体が24自治体、39.3%で最多だった。これに対し、権利擁護委員を置いていない自治体も15自治体、24.6%に上った。専任職員を配置していない自治体は12自治体、19.7%だった。

調査は、相談救済機関を設置している61自治体と、設置していない855自治体から回答を得たものである。したがって、61という数字は国内すべての設置自治体を確定した総数ではない。回答自治体の機関を見ても、弁護士や学識経験者によるオンブズパーソンを置く制度から、行政相談窓口に救済機能を加えた制度まで幅がある。

「相談救済機関を設置している」という一つの回答だけでは、子どもが権利侵害を訴えた後に何が起きるのかは分からない。人権ニュース編集部は、同調査に加え、埼玉県、札幌市、川西市、世田谷区、名古屋市、瀬戸市、新潟市の条例、活動報告書、相談実績を確認した。比較すると、制度には少なくとも「相談」「調整」「調査」「勧告・要請」という異なる段階があり、自治体によって利用できる手続が異なっていた。

「相談できる」と「救済を申し立てられる」は別の仕組み

相談窓口は、子どもの話を聴き、問題を整理し、助言や他機関の紹介を行う。相談員が本人の同意を得て学校や福祉機関へ連絡し、対応を協議する場合もある。これが「調整」である。

救済申立ては、これとは異なる。権利侵害を受けた子どもや関係者が、条例に基づいて第三者機関へ正式な調査を申し立てる手続である。制度によっては、申立てがなくても、報道や相談内容から重大な問題を把握した権利擁護委員が自ら調査を始める「自己発意調査」も認められている。

調査後の権限にも差がある。学校、市長部局、教育委員会などに事実確認への協力を求めるだけの制度もあれば、是正勧告、制度改善に関する意見表明、民間施設への要請、その内容の公表、措置結果の報告要求まで条例で定める制度もある。名称が「オンブズパーソン」「権利擁護委員」「権利救済委員」であっても、権限が同一とは限らない。

この違いは、相談相手と権利侵害を訴えられた相手が同じ組織に属する場合に表面化する。教員の対応を学校の相談窓口へ、児童福祉施設の対応を施設の運営部門へ訴えるだけでは、相談を受ける側が自らの組織を調べる構造になる。外部の専門家を含む第三者機関には、当事者間の力関係から距離を置き、子どもの意見を基準に事実と対応を検討する役割がある。

国のこどもコミッショナーは法律に盛り込まれず

こども家庭庁の報告書は、海外では国単位で「子どもコミッショナー」や「子どもオンブズパーソン」を設ける例が多いと整理する。日本では、2022年のこども基本法制定時に、子どもの権利について調査・勧告する第三者機関が検討されたものの、同法に設置規定は盛り込まれなかった。

国連子どもの権利委員会の一般的意見第5号は、政府自身による監視と評価だけでなく、独立した人権機関などが子どもの権利条約の実施状況を監視する必要を指摘している。行政が自らの施策を評価する仕組みと、行政から一定の独立性を持つ機関が権利侵害を調べる仕組みは、機能が異なる。

国の常設機関が法定されていない現在、個別救済の制度設計は自治体に委ねられている。その結果、居住地や通学先によって、第三者へ相談できるか、調査を申し立てられるか、行政機関に回答義務があるかが変わる。

川西市は相談から勧告後の報告まで条例化

兵庫県川西市は1998年12月、「川西市子どもの人権オンブズパーソン条例」を制定した。条例は、相談と救済申立てに加え、オンブズパーソンが独自に得た情報や報道などを端緒とする自己発意調査を認めている。調査後は、市の機関への是正勧告や制度改善に関する意見表明、市以外の機関・団体・事業者への是正要望、措置結果の報告要求、公表を行うことができる。

市の機関は、個別事案に関する勧告への措置を求められた場合、40日以内に報告する。制度改善に関する意見表明などについては60日以内である。勧告は裁判所の命令ではないが、市の機関に尊重義務と期限付きの報告手続を課すことで、単なる助言とは異なる行政上の応答関係を作っている。

2025年次の年間ケース数は94件で、うち新規は77件、相談・調整回数は702回だった。子どもとの相談・調整は418回で全体の59.5%を占め、制度開始後で最も高い割合となった。前年から継続していた自己発意調査1件では、調査結果を踏まえて条例上の対処を行っている。

94件のうち52件では、学校や保育所などの対応が相談内容に含まれていた。市内中学校の部活動を地域クラブへ移行する政策について、複数の子どもが自ら相談し、オンブズパーソンが学校や教育委員会との調整を行った事例も記録されている。個人的な悩みを聴くだけでなく、行政施策が子どもに与える影響を本人の訴えから検討する点に、一般的な教育相談との違いがある。

名古屋市は申立てがなくても三つの問題を調査

名古屋市は2020年1月、子どもの権利相談室「なごもっか」を開設した。名古屋市子どもの権利擁護委員は、相談や申立てへの対応に加え、申立てがなくても、権利侵害が疑われる場合に自己発意で調査・調整できる。改善が進まない場合は、関係機関に勧告や要請を行い、その内容を公表する権限も持つ。

2025年度の初回相談は444件で、前年度より2%増えた。このうち子ども本人からの相談は259件で、前年度比28%増だった。同年度は、学校施設・設備の安全確保、教員による不適切な対応、高校入学試験における合理的配慮の三つを、擁護委員の発意による調査・調整の対象として活動報告書に掲載した。

個々の相談から共通する制度上の問題を抽出し、申立人がいなくても調査する仕組みは、一人の子どもだけでは変えにくい学校規則や行政運用を扱うための手段になる。合理的配慮や施設の安全性は、相談した本人への対応だけで終わらせると、同じ条件に置かれる別の子どもに問題が繰り返されるためである。

世田谷区は区長と教育委員会の共同附属機関

世田谷区の「せたがやホッと子どもサポート」は、区長と教育委員会の共同附属機関として設置されている。2025年度は、弁護士、教育学、児童福祉を専門とする子どもサポート委員3人と、相談・調査専門員6人で運営した。相談、調査、調整、要請、意見表明、公表、見守り支援を職務として条例に定めている。

2025年度の新規相談は328件で、前年度からの継続分を含めた対応件数は453件だった。相談時間は平日の午後8時までと土曜日の午前10時から午後6時までで、フリーダイヤル、メール、FAX、面談、手紙、はがきを利用できる。区内の小中学生には相談用のはがきやカードも配布している。

相談窓口が平日の行政執務時間に限られていれば、学校に通っている子どもは電話や面談を利用しにくい。世田谷区の夜間・土曜対応や、学校を通さず使えるはがきは、制度上の権限とは別に、子どもが相談の入口へ到達するための設計である。

相談1,085件に救済申立て2件の札幌市

札幌市子どもアシストセンターは2024年度、1,085件の相談を受け、やり取りの延べ件数は3,234件だった。同年度に受理した救済申立ては2件である。相談件数に対して、正式な申立てはごく少ない。

札幌市の条例は、救済申立てや自己発意に基づく調査、調整、勧告、是正要請を救済委員の職務としている。したがって、申立てが少ないことは、制度に調査権限がないことを意味しない。相談員や救済委員が学校、家庭、関係機関の間に入り、正式な調査へ移る前に問題が解消する事案もある。

ただし、申立てが少ない理由を「相談段階で解決した」と自動的に評価することもできない。子どもが申立制度を知らなかった、手続が負担だった、調査を望んでも周囲の大人が同意しなかったという可能性と区別できないためである。相談から調整へ進んだ件数、調整先、本人が望んだ結果、調査を申し立てなかった理由まで記録して初めて、申立件数の少なさを解釈できる。

瀬戸市は権利擁護委員3人、相談は2件

愛知県瀬戸市は2022年、子どもの権利相談を設置し、弁護士や学識経験者ら3人の権利擁護委員を置いた。2023年度の相談は2件で、救済申立ては0件だった。市は設置時、子どもの権利条例を理念だけで終わらせず、困り事を受け止める具体的な窓口を作るとの考えを示していた。

2023年度当初予算では、権利擁護委員の委員報酬として72万円を計上した。相談者数の計画値は120人だったが、初年度の実績との間には差が生じた。機関の開設直後であることを考慮すれば、2件だけで制度の成否は判断できない。それでも、条例と委員を設けるだけで、子どもが窓口を認知し利用するとは限らないことは確認できる。

こども家庭庁の調査では、2023年度の相談が100件以上だった自治体は24自治体、39.3%だったのに対し、0件だった自治体も9自治体、14.8%あった。機関の人口規模、設置年、相談の数え方、周知方法が違うため、件数を自治体間で単純比較することはできない。

正式な救済申立てが0件でも、機能していないとは限らない

こども家庭庁の調査では、2019年度から2023年度まで、正式な救済申立てが0件だった自治体が毎年度最も多く、回答自治体の3割から4割程度を占めた。次に多かったのは1件から4件だった。

申立て件数だけを成果指標にすると、子どもの希望に沿って相談と調整で解決した案件が評価から外れる。川西市の2025年次報告では、1ケース当たりの相談・調整回数は平均7.47回で、10回から49回に及ぶ長期対応が全体の約4分の1を占めた。正式な勧告を出さなくても、子ども、保護者、教員、教育委員会との対話を重ねる実務が制度の中心になっている。

反対に、相談件数を多く示すだけでも足りない。子育て相談や進路相談を幅広く受け付ける機関と、権利侵害に限定する機関では集計対象が異なる。電話を1回受けた場合を1件とする自治体と、一人の子どもを1ケースとして数える自治体も比較できない。

自治体の活動報告書には、少なくとも相談者数、延べ相談回数、新規ケース数、子ども本人からの相談数、関係機関との調整数、救済申立数、自己発意調査数、勧告・要請数、措置報告、公表案件を分けて記載する必要がある。

電話窓口だけでは子どもに届かない

61自治体のうち、電話相談を設けていた自治体は59自治体、96.7%、対面相談は52自治体、85.2%だった。メールは35自治体、57.4%、ウェブフォームは28自治体、45.9%にとどまった。チャット、オンライン会議、子ども関連施設への出張相談、学校で配布するアンケートからの相談受付を導入する自治体もあった。

電話は即時性がある反面、家族が近くにいる、自分の声を聞かれたくない、知らない大人と話すことに抵抗がある子どもには利用しにくい。文字で送れるフォーム、学校外の面談場所、無料電話、夕方以降の受付、相談カード、施設への出張を組み合わせなければ、制度を知っていても利用できない子どもが残る。

新潟市は2024年8月、子どもの権利相談室「こころのレスキュー隊」を開設した。電話、対面、メール、ウェブフォーム、手紙、はがきを用意し、平日は午後7時まで、土曜日も相談を受ける。救済委員は、申立てまたは自己発意に基づき、調査、調整、勧告、是正要請、意見表明を行う権限を持つ。

受付手段の多さは、権利救済の十分条件ではない。しかし、子ども本人が相談できなければ、調査権や勧告権は発動されない。アクセス手段は広報上の付属機能ではなく、制度を作動させる前提である。

「独立性」は庁舎の外にあるかだけでは決まらない

調査対象となった機関の所管部署は、子ども・子育て担当課が41自治体、67.2%だった。首長の直轄機関と回答したのは2自治体、3.3%にとどまる。市役所の組織内に事務局があること自体で、直ちに独立性が失われるわけではない。重要なのは、権利擁護委員が個別案件について教育委員会や担当部局の指揮を受けず、資料提出を求め、独自の判断を公表できるかである。

世田谷区のように区長と教育委員会の共同附属機関とする方法、川西市のように市長の委嘱機関として学校や教育委員会も調査対象に含める方法、名古屋市のように独立した第三者機関であることを明記する方法がある。制度の名称や所管課よりも、委員の選任方法、任期、兼職制限、調査権限、行政側の協力義務、勧告後の報告手続を条文で確認しなければならない。

権利侵害を訴えられた学校や自治体部局が、調査範囲や報告書の公表を実質的に決められる制度では、第三者性は形式にとどまる。委員が専門的判断を行い、事務局がその活動を支え、行政機関が期限内に回答する構造まで設計されているかが基準となる。

比較から見えた六つの制度条件

各自治体の条例と活動実績を比較すると、子どもの相談救済機関には、次の六つの条件が必要になる。

1.条例に基づき、首長部局、教育委員会、学校から独立して個別案件を判断できること。

2.子ども本人が、保護者や学校を介さず、無料電話、面談、メール、フォームなどから直接相談できること。

3.申立てを受けた調査だけでなく、重大な権利侵害が疑われる場合の自己発意調査を認めること。

4.行政機関に説明、資料提出、面談への協力を求め、子どもの意向に沿って関係者間を調整できること。

5.勧告、是正要請、制度改善の意見表明を行い、行政側に期限付きの措置報告を課せること。

6.相談、調整、申立て、発意調査、勧告、措置結果を毎年度公表し、子どもの個人情報を除いた事例分析を残すこと。

六条件のすべてを強い権限として行使すればよいわけではない。調査や公表が子どもの負担を増やす場合には、本人の意思と最善の利益を確認し、相談や非公開の調整を優先する必要がある。権限を持つことと、個別案件で権限を行使することは別の判断である。

国の実証事業、100万円でどこまで制度化できるか

こども家庭庁は2026年5月、「こどもの権利擁護体制整備促進事業」の実証団体を公募した。応募条件は、子どもの権利を保障する条例を制定済み、または同年8月までに制定の見通しがあり、12月までに相談救済機関の運用を開始する自治体である。立ち上げ経費は1団体当たり100万円を目安とした。

100万円は、委員報酬、非常勤職員手当、会議費、印刷費などの立ち上げ費用を支える額であり、恒常的な相談員配置や独立した相談場所を長期運営する財源とは異なる。こども家庭庁調査では、2023年度予算が100万円未満の自治体が16自治体、26.2%だった一方、1,500万円以上の自治体も13自治体、21.3%あった。22自治体、36.1%は予算の80%以上を人件費に充てていた。

未設置自治体が挙げた課題では、担当部署の取組意欲を形成する難しさが69.2%、他自治体の好事例に関する情報不足が82.5%、利用できる財源情報の不足が71.9%だった。制度の必要性を認識していても、既存相談機関との違い、人材、担当部署、予算を説明できず、設置に進めない自治体の状況が表れている。

こども家庭庁の実証事業は、2026年12月までの運用開始を応募自治体に課した。新設される機関が、川西市の自己発意調査と40日以内の措置報告、名古屋市の勧告・要請と年次公表、世田谷区の夜間・土曜相談まで制度に組み込めるかによって、子どもの権利条例が理念の宣言で終わるか、本人が利用できる救済手続になるかが分かれる。

出典

こども家庭庁「こども・若者権利影響評価及び相談救済機関にかかる調査研究 報告書」 URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d0d674d3-bf0a-4552-847c-e9af2c596d4e/edc041cd/20250905_policies_kodomo-research_05.pdf
こども家庭庁「こどもの権利擁護体制整備促進事業 実証団体公募要領」 URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d2a2d82e-9ad5-4f4d-818e-85ebf4941225/17bf255d/20260512_procurement_d2a2d82e_01.pdf
川西市「川西市子どもの人権オンブズパーソン条例」 URL:https://www.city.kawanishi.hyogo.jp/kurashi/shimin/jinken/kdm_onbs/kdm_onbs6.html
川西市「子どもオンブズ・レポート2025」 URL:https://www.city.kawanishi.hyogo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/742/repo-to2025.pdf
名古屋市「名古屋市子どもの権利相談室『なごもっか』令和7年度活動報告」 URL:https://www.city.nagoya.jp/houdou/3003942/3003946/3004850.html
札幌市「令和6年度子どもアシストセンター活動状況報告書」 URL:https://www.city.sapporo.jp/kodomo/assist/r6-report.html
世田谷区「せたがやホッと子どもサポート 令和7年度活動報告書」 URL:https://www.city.setagaya.lg.jp/documents/1398/r7katudouhoukokusyo.pdf
埼玉県「令和5年度子どもの権利擁護委員会運営状況報告書」 URL:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0608/smile-net/05houkokusyo.html
新潟市「子どもの権利救済機関について」 URL:https://www.city.niigata.lg.jp/shisei/gyoseiunei/sonota/fuzokukikankonwakai/fuzokukikan/sechikikan/kodomomirai/kodomoseisaku/kodomokenri_iinkai/kenri_iinkai2024.files/2024-01_03_siryou3.pdf

人権ニュース編集部

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