笹川保健財団、ハンセン病当事者の若者9人を支援 ナイジェリアとバングラデシュ

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この記事のポイント

1.笹川ハンセン病イニシアチブは2026年9月、ナイジェリアとバングラデシュを訪問し、職業訓練などに取り組むハンセン病当事者の若者計9人と面談した。
2.WHOの2025年統計では、世界のハンセン病新規患者は16万7,356人。ナイジェリアで2,482人、バングラデシュで3,558人が報告された。
3.職業訓練による経済的自立とともに、当事者が地域社会や支援団体の意思決定に参加する力を育てることが、同プログラムの特徴となっている。

ハンセン病当事者の若者を支援──ナイジェリアとバングラデシュのヤングスカラーを訪問

2か国で若者9人に職業訓練とリーダー育成

公益財団法人笹川保健財団は2026年10月9日、笹川ハンセン病イニシアチブが9月にナイジェリアとバングラデシュを訪問し、「ヤングスカラープログラム」の支援対象者計9人と面談したと公表した。同プログラムは18~35歳のハンセン病当事者を対象とし、専門技能の習得、就業・起業による経済的自立、地域社会や当事者コミュニティを担うリーダーの育成を目的としている。

9月6日にはナイジェリアで4人、22~23日にはバングラデシュで5人と面談した。支援対象者は現地の当事者団体によって選出され、それぞれの希望に応じた職業訓練やリーダーシップ研修に参加している。単に就職先を確保するだけではなく、当事者が自らの経験を生かして地域の課題解決に関わる仕組みを目指している。

ナイジェリアでは療養地出身の若者も参加

ナイジェリアでは、かつてハンセン病の療養地として使われたUzuakoli Leprosy Settlementを訪問し、当事者団体Purple Hope Women Empowerment Initiative Nigeria(PHWEIN)が選出した4人と面談した。

笹川保健財団によると、同地域では施設の老朽化が進み、子どもたちが通う学校の屋根が失われるなど、生活環境に困難が残っている。近隣の病院でも、差別によってハンセン病患者の受入れが難しい状況があるという。今回選ばれた4人のうち2人は同地域の出身で、ハンセン病によって両親を亡くした若者なども含まれる。

支援対象者は靴製造、電気工事、自動車修理、ファッションデザイン、美容など、それぞれ異なる技能の習得を目指す。7歳でハンセン病を発症した23歳の女性は、美容技術を身につけて経済的に自立し、将来はその技術をほかの人にも教えたいと語った。別の女性はファッションブランドを立ち上げ、事業を通じてハンセン病への理解を広めることを目標としている。

ここで問題となっているのは、個人の職業能力だけではない。生活環境や教育機会、医療機関へのアクセスなど、地域社会の側に残る障壁をどう取り除くかという課題もある。技能を習得しても、出身地や病歴などを理由に就労機会を制限されれば、経済的自立は難しくなる。

バングラデシュでは44人から5人を選出

バングラデシュのボグラでは、当事者団体Bogura Federationが44人の応募者から選んだ5人と面談した。5人はTMSSの職業訓練機関と連携した研修に参加し、職業技能に加えてリーダーシップ、コミュニケーション、ジェンダー、人権、組織運営などを学んでいる。

参加者のTaslima Akter氏は、Bogura Federationのリーダーとして将来は国際的な活動にも参加したいと説明した。検眼に関する資格を取得し、地域住民や社会的に弱い立場にある人へ視力検査などを無料で提供する構想も示している。

この取組は、支援を受ける当事者が将来、ほかの人を支える側にもなることを目指している。ハンセン病当事者の社会参加を考える際には、学校へ通えることや職業に就けることに加え、地域の団体や公的な意思決定に参加できるかも重要となる。

WHO統計では世界16万7,356人の新規患者

世界保健機関(WHO)が2026年9月17日に公表した2025年の世界統計によると、203の国・地域から報告されたハンセン病の新規患者数は16万7,356人だった。2024年の17万2,717人から3.1%減少したものの、8,344人は15歳未満の子どもであり、9,428人には診断時点で重度の機能障害が確認された。

ナイジェリアの2025年新規患者は2,482人で、前年の1,770人から40.2%増加した。バングラデシュでは3,558人が報告された。ただし、新規患者数は実際に発見・報告された人数であり、診断体制や積極的な患者発見活動の変化によっても増減する。数字の増加だけで感染拡大の原因を断定することはできない。

WHOの報告では、ハンセン病を理由とする差別を認める法律が、2025年時点で11か国に残っていることも指摘された。病気そのものの治療が可能になっても、法律や制度による差別が残る場合があることを示している。ただし、この数字からナイジェリアやバングラデシュの法制度が該当すると判断することはできない。

バングラデシュではWHOが2026年9月に対策を評価

バングラデシュでは、今回のヤングスカラープログラムの訪問と同じ2026年9月、政府とWHOなどによるハンセン病対策の合同評価が実施された。

WHOが9月30日に公表した結果によると、同国では1998年に公衆衛生上の問題としてのハンセン病の「制圧」を達成したが、その後も感染は続いている。2025年には子どもの新規患者185人、診断時に重度の機能障害が確認された患者208人が報告された。

ここでいう「制圧」は、ハンセン病患者がいなくなったことや、差別がなくなったことを意味しない。WHOの合同評価では、患者の早期発見、接触者調査、医療従事者の能力強化、障害への対応、当事者による政策参加などが課題として整理された。

差別を恐れて病気を隠したり、地元を離れて治療を受けたりする状況も指摘されている。偏見によって受診が遅れれば、早期治療の機会が失われ、障害が残る危険にもつながる。感染症対策と差別防止は、別々の施策でありながら相互に関係する。

治療の保障と社会参加の保障は異なる

ハンセン病は、らい菌による慢性感染症であり、適切な多剤併用療法によって治療できる。しかし、治療が可能であることと、当事者が差別なく生活できることは同じではない。

教育、雇用、住居、医療機関の利用、結婚などで不利益を受ける状況が残れば、治療後も生活上の困難が続く。国連は2010年、ハンセン病にかかった人とその家族に対する差別の撤廃に関する原則・ガイドラインを示した。病気やその経験を理由として差別されず、教育、雇用、地域社会への参加などで平等な機会を得ることを基本としている。

笹川ハンセン病イニシアチブのヤングスカラープログラムは、当事者が職業能力を得るだけでなく、地域の支援団体を運営し、ほかの当事者のために行動できる力を育てようとしている。この点は、国際的な差別撤廃の考え方とも関係する。

支援後の就労と社会参加まで検証を

ヤングスカラープログラムの成果を評価する際には、研修への参加人数や技能を習得した人数だけでなく、実際に就職や起業へつながったか、収入が安定したか、当事者団体や地域活動に参加できたかを継続して確認する必要がある。

今回公表されたのは9人の研修状況や将来の希望であり、全員が既に経済的自立を実現したという報告ではない。本人が目標を持てたことと、その目標が達成されたことは区別して考える必要がある。

笹川ハンセン病イニシアチブは、PHWEIN、Bogura Federation、TMSSなどの現地団体やメンターと協力し、今後も若者の育成を進める。ナイジェリアとバングラデシュの9人が技能習得後にどのような職業や社会参加の機会を得るかが、当事者主体のハンセン病支援を評価するうえでの具体的な材料となる。

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人権ニュース編集部

人権ニュース編集部は、官公庁、自治体、裁判所、企業、公益団体、国際機関などが公表する一次情報を確認し、差別、子ども、障害者、高齢者、教育、福祉、司法・制度、外国人、ビジネスと人権などに関するニュース、制度解説、独自調査を発信しています。記事では出典を明示し、事実関係を確認したうえで、関連する法制度や統計、過去の経緯などを参照しながら、人権上の論点や社会的背景を整理しています。

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