ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインとは

ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインとは、正式には「ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別を撤廃するための原則及びガイドライン」といい、ハンセン病の影響を受けた人々とその家族への差別をなくすため、国連で整理された国際的な人権文書です。条約ではありませんが、国連人権理事会決議15/10と国連総会決議65/215で各国政府などに十分な考慮が促されました。ハンセン病を医療の問題だけでなく、尊厳、家族、教育、雇用、地域生活、差別撤廃の問題として扱うための重要な基準です。

1.ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインの意味

ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインは、ハンセン病の患者・回復者とその家族が、他の人と同じように人権と基本的自由を享有できることを確認する文書です。ハンセン病は治療可能な感染症ですが、誤った知識や偏見により、本人だけでなく家族も長く差別を受けてきました。

この文書は、ハンセン病の影響を受けた人々を、医療や救済の対象としてだけでなく、権利の主体として扱います。本人の尊厳、差別されない権利、教育を受ける権利、働く権利、結婚・家族生活、地域社会への参加、移動、住まい、政治参加、司法へのアクセスなど、生活全体に関わる課題を扱っています。

特徴は、家族も対象にしている点です。ハンセン病をめぐる差別は、本人だけでなく、配偶者、子ども、親族にも及んできました。日本でも、療養所への隔離政策により、家族関係、結婚、就学、就職、地域生活に深刻な影響が生じました。この原則・ガイドラインは、そうした家族への差別も人権課題として明確に扱う枠組みです。

2.制度・法律との関係

ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインは、国連人権理事会諮問委員会で検討され、平成22年9月の人権理事会決議15/10で留意されました。同年12月には、国連総会決議65/215が採択され、各国政府、国連機関、専門機関、国内人権機関などに対し、政策や施策を策定・実施する際に、この原則・ガイドラインを十分考慮するよう促しました。

日本政府は、この国連文書の作成過程に関与しました。外務省は、ハンセン病差別撤廃を目的とする原則及びガイドラインについて、国連人権理事会諮問委員会で日本出身の坂元茂樹委員が中心となって策定作業に携わったと説明しています。日本のハンセン病政策は、国内の隔離政策への反省と補償だけでなく、国際社会での差別撤廃の取組とも接続しています。

国内制度との関係では、「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」があります。同法は、国の隔離政策によりハンセン病の患者であった者等が地域社会で平穏に生活することを妨げられ、人権上の制限や差別を受けたことを踏まえ、福祉の増進、名誉の回復などを進める法律です。国連の原則・ガイドラインは、日本国内のハンセン病問題を、国際人権基準の中で捉え直す際の参照軸になります。

3.人権上の論点

ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインの人権上の論点は、ハンセン病を理由とする排除を、医療上の誤解や過去の政策だけでなく、現在も続く差別の問題として扱う点にあります。治療法が確立していても、病歴、療養所入所歴、家族関係を理由に、結婚、就職、地域生活、教育、医療、住まいで不利益を受けることがあります。

家族差別も重要です。ハンセン病にかかった本人ではない家族が、出自や親族関係を理由に差別されることは、本人の尊厳だけでなく、家族の人生や社会参加を大きく制限します。ハンセン病家族国家賠償請求訴訟でも、家族が受けた差別被害が大きな争点となりました。国連の原則・ガイドラインが家族を明示していることは、この問題を理解するうえで重要です。

この文書は、隔離や排除ではなく、地域社会での生活、教育、雇用、医療、家族生活への平等な参加を重視しています。国、地方公共団体、学校、医療機関、福祉関係者、報道機関が、ハンセン病に関する正確な知識を伝え、本人と家族の尊厳を傷つけない対応を取れるかが問われます。ハンセン病差別撤廃原則・ガイドラインという用語は、ハンセン病問題を、感染症対策ではなく、人権回復と差別撤廃の国際基準として理解するための基本用語です。

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