1.キリンホールディングスは10月19日、グループ初となる「キリングループ人権レポート2026」を公開した。
2.製造・物流委託先177社を調査し、14社に改善を依頼したほか、フジテレビジョンとの広告取引に関する人権デュー・ディリジェンスも開示した。
3.国連のビジネスと人権に関する指導原則に基づき、取引先との対話、是正措置、被害者救済の実効性が問われる。

キリングループ初の人権専門レポート
キリンホールディングス株式会社は2026年10月19日、グループとして初めて人権分野に特化した「キリングループ人権レポート2026」を公開した。全19ページの報告書で、人権方針と経営上の管理体制、人権デュー・ディリジェンス、取引先などの関係者との対話、苦情処理・救済制度を体系的に整理している。対象期間は主に2025年1月から12月までで、一部に2026年の取組を含む。対象はキリンホールディングスと主要な連結グループ会社。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などを参考に作成したが、レポート全体について第三者保証は取得していない。
キリンホールディングス株式会社のプレスリリース
+1
キリングループは2018年に人権方針を制定し、2023年10月に改定した。今回の報告書では、自社の従業員だけでなく、原材料の調達先、製造・物流の委託先、広告代理店やメディア企業なども対象としている。人権デュー・ディリジェンスは、企業活動による人権への負の影響を特定・評価し、予防・軽減し、対応の実効性を検証する継続的な取組であり、企業自身による方針表明や取引先への質問票送付だけで完結するものではない。
製造・物流委託先177社のうち14社に改善依頼
レポートによると、キリングループは2025年、製造・物流領域の委託先177社に自己評価質問票(SAQ)を用いた人権デュー・ディリジェンスを実施した。内訳はキリンビールが10社、キリンビバレッジが29社、キリングループロジスティクスが138社。改善を依頼した企業は計14社で、キリンビバレッジの委託先6社、キリングループロジスティクスの委託先8社だった。
改善事項として挙げられたのは、外国人労働者の管理体制、労働安全衛生管理、物流業務の労働時間管理などである。質問票には児童労働、強制労働、結社の自由、賃金、労働時間、差別やハラスメントなどの項目も含まれる。キリングループは重大な人権侵害は検出されなかったと報告する一方、要改善という判定が直ちに法令違反や人権侵害の存在を意味するものではないと明記している。
質問票による調査は、取引先の管理体制を把握する手段となるが、回答内容と労働現場の実態が常に一致するとは限らない。特に外国人労働者や技能実習生など、雇用関係上弱い立場に置かれやすい人については、相談制度が存在していても、不利益を恐れて問題を申告できない場合がある。調査結果を検証するには、企業側の回答だけでなく、必要に応じて労働者本人の声を確認することも課題となる。
フジテレビジョンとの広告取引に関する対応
今回のレポートでは、広告・メディア分野における人権デュー・ディリジェンスの具体例として、株式会社フジテレビジョンとの取引が取り上げられた。
キリングループは、2025年にフジテレビジョンで人権尊重に関わる重大な事案が顕在化したことを受け、一部の広告出稿を停止するとともに、同社への人権デュー・ディリジェンスの一環として対話を実施した。外部有識者の助言を得て評価項目を設定し、質問書への回答や複数回の面談を通じて、人権尊重の取組や企業風土の改善状況を確認したという。
レポートでは、事前に設定した評価項目が望ましい水準に達し、コンプライアンス体制と企業風土の改善に進捗が見られたと説明している。ただし、企業文化の改善には時間を要することから、人権尊重に向けた取組が定着したと確認できるまで広告出稿停止を全面解除せず、対話とモニタリングを継続する方針を示した。
広告主による人権上の対応を考える際には、広告出稿を停止したかどうかだけでなく、取引関係を通じて相手企業の是正を促すことができたかが問題となる。国連の指導原則は、企業自身による人権侵害だけでなく、取引関係を通じて企業の事業、製品、サービスに直接関連する負の影響についても対応を重視している。キリングループの事例は、広告主の責任を広告表現の審査に限定せず、取引先の企業統治や労働環境にまで広げるものといえる。
人権リスクの予防と被害者救済
キリングループは、広告制作に関わる出演者やスタッフへのハラスメント、長時間労働、差別的な広告表現なども人権リスクとして整理している。広告の内容に問題がなくても、制作過程で働く人の権利が侵害されていれば、企業活動による負の影響は残る。このため、広告表現の事前審査と、制作会社などの労働環境の確認を区別する必要がある。
レポートでは、従業員向けの通報窓口に加え、取引先や顧客などが利用できる窓口を紹介している。また、一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)の対話救済プラットフォームを利用していることも明らかにした。
救済制度の実効性を評価する際には、相談窓口の設置だけでなく、相談した人が不利益を受けずに利用できるか、適切な調査が行われるか、権利侵害が確認された場合に救済措置へつながるかが問題となる。苦情が寄せられていないという事実だけでは、人権侵害が存在しないことを証明できない。
是正措置の成果を継続的に開示できるか
キリングループは2026年、メルシャン、小岩井乳業、キリンホールディングスのヘルスサイエンス事業に関係する製造・物流委託先にも、人権デュー・ディリジェンスの対象を拡大するとしている。2025年の調査で改善を依頼した14社についても、改善状況の確認を継続する方針である。
今回のレポートは、取引先の調査数や改善依頼件数に加え、フジテレビジョンとの対話という具体的な事例を開示した点で、企業の人権尊重の取組を検証する材料を提供している。しかし、問題を発見し改善を依頼したことと、人権への負の影響が実際に解消されたことは異なる。
キリンホールディングスが今後、改善措置の完了状況、労働者や関係者との対話、苦情処理制度による救済の実績を継続的に示せるかが、「キリングループ人権レポート2026」で開示された取組の実効性を評価するうえで具体的な検証事項となる。
キリンホールディングス株式会社「キリングループ人権レポート2026を公開」
URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001633.000073077.html
キリンホールディングス株式会社「キリングループ人権レポート2026」(PDF)
URL:https://www.kirinholdings.com/jp/sustainability/files/pdf/human_rights_report2026_jp.pdf
人権デュー・ディリジェンス
URL:https://jinken-news.com/glossary/human-rights-due-diligence/
ビジネスと人権に関する指導原則
URL:https://jinken-news.com/glossary/business-human-rights-guiding-principles/
関連用語 苦情処理メカニズム
URL:https://jinken-news.com/glossary/kujo-shori-mechanism/
.jpg)
