1.埼玉県では全63市町村がパートナーシップ制度を導入したが、6町は制度利用者が使える行政サービスを「なし」と回答した。
2.札幌市などでは、子育て、介護、住民票関係の多くが受領証を提示しなくても利用できる。制度の有無と行政サービスの範囲は一致しない。
3.犯罪被害者支援金、災害弔慰金、住宅補助など金銭給付の対象にパートナーを含める自治体もあるが、法的な婚姻・親族関係は生じない。

全市町村に制度があっても、使えるサービスは同じではない
埼玉県では2026年5月1日時点で、県内63市町村のすべてがパートナーシップ制度を実施している。このうち47市町村は、子どもなどを含めたファミリーシップ制度も設けた。交付実績はパートナーシップ603組、ファミリーシップ11組に達している。
ところが、県が同日に取りまとめた行政サービス一覧では、吉見町、ときがわ町、皆野町、長瀞町、小鹿野町、美里町の6町が「利用できる行政サービスはない」と回答した。制度の受領証を交付していても、それによって新たに利用できる行政手続や給付が設定されていない自治体が残る。
人権ニュース編集部は、埼玉県、札幌市、福岡県、福井県、和歌山県、三重県、東京都が2026年7月25日までに公表した制度案内とサービス一覧を確認した。全国すべての自治体を網羅した調査ではない。公営住宅、医療、犯罪被害者支援、災害給付、子育て、介護、職員制度、転居時の連携について、公式資料から運用を確認できた自治体を比較した。
調査から見えたのは、パートナーシップ制度の「導入数」だけでは生活上の効果を判断できないという点である。自治体が関係性を証明していても、受領証を使える手続がなければ実務上の変化は限られる。反対に、制度の受領証を提示しなくても、同性パートナーを家族や同一世帯員として扱う行政サービスもある。
受領証は婚姻届の代わりにはならない
東京都パートナーシップ宣誓制度は、パートナー関係にあることの届出を東京都知事が証明する仕組みである。都は制度案内で、法律行為である婚姻とは異なり、宣誓によって法律上の効果が生じるものではないと明記している。
ファミリーシップ制度も同様である。刈谷市は、子どもを含めて関係を宣誓できる一方、婚姻や親族関係の形成、相続、税控除などの法的効果は生じないと説明している。受領証に子どもの氏名を記載しても、法律上の親子関係が新たに形成される制度ではない。
自治体が実施できるのは、自ら所管する住宅、福祉、子育て、職員福利厚生などの制度について、同性パートナーやその子どもを家族と同様に扱う範囲を広げることである。戸籍、法定相続、国税上の配偶者控除など、国の法律が婚姻関係を要件としている制度を、自治体の受領証だけで変更することはできない。
パートナーシップ制度の実効性は、婚姻と同じ法的地位を生じさせるかではなく、行政が「配偶者」「親族」「家族」「保護者」と定めてきた手続のうち、どこまで対象を広げたかによって決まる。
埼玉県、制度の効果は市町村ごとに分裂
埼玉県の一覧は、県内全63市町村について、公営住宅、公立病院、保育園の送迎、公営墓地、市町村職員の給与・休暇・互助会、住民票の続柄、税証明などを共通項目で比較している。制度導入率が100%となった県内でも、利用範囲には大きな差がある。
さいたま市は、公営住宅、公立病院、公営墓地、市職員の給与・休暇・互助会、税証明などを対象とする。国民健康保険上の同一世帯加入、里親制度、犯罪被害者支援、記念樹贈呈事業にも関係性を反映させている。
深谷市は、公営住宅に加え、市職員の給与・休暇・互助会、住民票、税証明を対象とし、犯罪被害者等見舞金、老人ホーム入所措置、徘徊者検索システム、移住支援金、罹災証明書、救急搬送証明書などにも範囲を広げた。
伊奈町では、一時預かり事業、教育・保育給付認定、放課後児童クラブ、犯罪被害者等見舞金などを利用できる。同一住所であれば、住民票上の世帯を同じにしていなくても、保育や学童保育の申請を認める手続がある。
これに対し、制度利用によって新たに使える行政サービスがない6町も、受領証自体は交付している。「制度を設置した自治体」と「生活上の不利益を具体的に改めた自治体」は、同じ分類にはできない。
公営住宅は共通項、宣誓が不要な自治体も
パートナーシップ制度で最も広く見られる行政サービスは、公営住宅への入居申込みである。埼玉県内では多くの市町村が対象とし、三重県も県営住宅と25市町の公営住宅で受領証を利用できるとしている。
和歌山県は、県営住宅と15市町の公営住宅を利用先として掲載した。ただし、同県の一覧は、パートナーシップの宣誓をしなくても入居できる自治体があることを注記している。受領証が入居資格を新設する自治体と、既に事実婚や共同生活者として同性カップルを受け入れている自治体が混在する。
埼玉県の一覧も、制度の有無にかかわらず同性パートナーが利用できる場合を「利用可能」として集計している。したがって、公営住宅欄の丸印を、そのまま「パートナーシップ制度によって新たに権利が生じた自治体数」と読むことはできない。
制度の効果を測るには、少なくとも次の三つを分ける必要がある。
1.受領証がなければ利用できないサービス
2.受領証以外の書類でも関係性を証明できるサービス
3.同居や同一世帯などの要件を満たせば、受領証なしで利用できるサービス
現在の自治体一覧では、この区別が表中の注記に埋もれ、サービス名だけでは判別しにくい。
札幌市、行政サービスの多くは受領証不要
札幌市は2026年4月1日現在、パートナーシップ関係を反映する行政手続を6ページにわたって公表している。犯罪被害者等支援金、罹災証明、住民票、税、保険、介護、障害福祉、子育て、教育相談、職員休暇、合同納骨塚など、生活の各段階を対象とする。
この一覧で特徴的なのは、受領証の提示を「不要」とする項目が多いことである。
住民票上で同一世帯なら、国民健康保険や介護保険の加入・届出を委任状なしで行える。要介護認定、福祉用具購入費、高額介護サービス費、日常生活用具給付なども、パートナーによる代理申請を認めている。これらは受領証によって特別な資格を付与するのではなく、同一世帯や本人との関係を確認して取り扱う手続である。
子育て分野では、マタニティ教室、母子健康手帳の代理交付、放課後児童クラブ、保育所・認定こども園の利用申込み、保育園の送迎、就学援助、教育相談などで、パートナーを保護者として扱う。これらも一覧上は受領証の提示を原則不要としている。
札幌市職員の介護・育児関係休暇や福利厚生にも、パートナーとその親族を含めている。これに対し、合同納骨塚の使用申請や犯罪被害者等支援金では、受領証の提示を求める。
札幌市の運用は、受領証をすべての手続の入口にする方式ではない。本人との同居、生計、保護者としての関与など、各制度本来の要件で確認できる場合には、性的指向や性自認を行政窓口で明らかにさせずに手続を認めている。
これはプライバシーにも関係する。行政サービスを利用するたびに受領証の提示を求めれば、制度を利用していることや性的少数者であることを、手続と直接関係のない窓口職員にも伝えなければならない。受領証を使わずに済む制度設計は、利用者が関係性を説明する負担を減らす。
病院で「使える」は、何を認めることなのか
医療機関での利用は、自治体の説明だけでは範囲を誤解しやすい。
和歌山県は、県内の医療機関で面会などの際に受領証を利用できるとしている。その一方で、受領証がなくても患者本人の意思確認によって面会できる医療機関があること、利用可能な範囲は面会、病状説明など病院ごとに異なることを明記した。
三重県も、県内の病院を「面会等」の利用先として列挙しているが、すべての病院で同じ手続が認められるとは示していない。
福岡県は、県立太宰府病院での病状説明と治療方針の同意に受領証を利用できるとする。ただし、病院が受領証の提示を必須としているわけではなく、二人の関係を簡潔に説明する資料として使えるという運用である。
「病院で利用できる」という表現には、少なくとも次の内容が含まれ得る。
- 病室への面会
- 病状や治療方針の説明
- 緊急連絡先としての登録
- 入退院手続の支援
- 患者本人の意思を伝える場への参加
受領証を提示すれば、法律上の配偶者と同じ代理決定権が自動的に生じるわけではない。患者本人の意思、病院の規程、緊急時の状況によって対応が変わる。自治体は「医療機関で利用可能」とだけ表示せず、面会、説明、手続、意思確認のどこまでを対象とするのかを分けて示す必要がある。
犯罪被害や災害時に生じる金銭上の差
パートナーシップ制度の効果が明確に表れるのは、見舞金や支援金の対象となる遺族・家族の範囲を広げた場合である。
札幌市は、犯罪被害者等支援金・助成金について、パートナーを配偶者と同様に支援対象とする。利用時には受領証などの提示が必要となる。
埼玉県内では、さいたま市、秩父市、飯能市、春日部市、羽生市、深谷市、三郷市、坂戸市、ふじみ野市、白岡市、伊奈町、鳩山町などが、犯罪被害者支援の対象にパートナーを含めている。白岡市は、パートナーを犯罪被害者の配偶者として扱い、遺族見舞金の申請を認める。
福井県の一覧では、越前市が犯罪被害者等見舞金の対象にパートナーを含める。高浜町とおおい町は災害弔慰金、高浜町などは災害慰問金の対象として扱う。福井市とおおい町では、災害で死亡した世帯主の葬祭を行ったパートナーが災害見舞金を申請できる。
これらは、単に窓口で関係性を説明しやすくする取組ではない。従来の条例や規則で「配偶者」「遺族」「親族」としてきた支給対象を同性パートナーまで広げ、給付を受けられるかどうかを変更する措置である。
制度比較では、記念品、相談、代理申請と、遺族見舞金や住宅補助のような金銭給付を同じ一件として数えるべきではない。生活への影響の大きさが異なるためである。
福井県、住宅支援は公営住宅を超える
福井県の利用先一覧には、公営住宅への入居だけでなく、自治体独自の住宅取得・改修・移住支援が含まれる。
小浜市と越前市では子育て世帯等向けの住まい支援、鯖江市では多世帯近居支援、敦賀市では空き家購入・改修、旧耐震住宅の建て替え、移住者・新婚世帯家賃支援、越前市では新住宅取得支援の対象にパートナーシップ宣誓者を含めている。高浜町は結婚祝い金も対象とする。
住宅政策は「新婚世帯」「子育て世帯」「親族との同居・近居」といった家族関係を要件にすることが多い。パートナーシップ制度をこうした補助制度に接続すれば、同性カップルが制度名だけを理由に対象外となる状況を改められる。
同じ県内でも、対象となる補助金は市町ごとに異なる。福井県の受領証を持っていること自体では、県内のすべての住宅支援を利用できない。住宅の所在地、年齢、所得、同居する家族、移住歴など、それぞれの補助要件を満たす必要がある。
ファミリーシップは「子どもの氏名記載」で終わらない
埼玉県では、63市町村のうち47市町村がファミリーシップ制度を導入している。しかし、保育園の送迎、保育認定、児童手当、こども医療費、学童保育などへの対応は市町村ごとに異なる。
北本市は、児童手当、こども医療費、乳幼児用品貸出、子育て応援事業を対象とする。吉川市は、教育・保育給付認定、施設等利用給付認定、学童保育の手続を認める。久喜市は家庭児童相談や子育て優待カードなどに関係を反映している。
札幌市は、受領証に未成年の実子または養子の氏名を記載できる。行政サービスでは、パートナーが保育所、学童保育、就学援助、教育相談などで子どもの保護者として手続できる。
ただし、ファミリーシップ制度によって婚姻や法的な親族関係が形成されるわけではない。行政手続上、保護者や家族として扱う範囲を広げる制度であり、法律上の親子関係とは区別しなければならない。
制度の実効性を判断するには、子どもの氏名を受領証に載せられるかだけでなく、保育、学校、医療、災害時の引渡し、相談、手当の申請など、日常の場面でパートナーがどこまで手続できるかを確認する必要がある。
転居時の書類は減っても、サービスは引き継がれない
パートナーシップ制度には戸籍のような全国共通の登録簿がないため、転居すると、転出元への受領証返還と転入先での再申請が必要となる場合がある。独身証明書、戸籍抄本、住民票などを再び用意しなければならない。
「パートナーシップ制度自治体間連携ネットワーク」に加入する自治体間では、この負担を減らす取組が進んでいる。札幌市は、連携自治体へ転居する場合、転出元への返還手続を省き、独身証明書などの提出を省略して、転居先から新しい受領証を受けられるとしている。
ただし、転居先の制度要件を満たすことが条件である。自治体によって、対象を性的少数者に限定するか、事実婚の異性カップルを含めるか、同居を必要とするか、子どもや親をファミリーシップの対象にするかが異なる。
自治体間連携は、主として受領証の交付手続を簡素化する仕組みである。転出元で利用できた犯罪被害者支援、住宅補助、職員手当などが、転入先でも同じ条件で利用できることを保証するものではない。行政サービスの内容は、転入先の条例、規則、要綱によって決まる。
受領証を全国的に「持ち運べる」ようになっても、その受領証で利用できるサービスは住所地によって変わる。この二つを分けて案内しなければ、利用者は転居後も同じ支援を受けられると誤解する可能性がある。
「利用可能サービス数」の多さだけでは比較できない
自治体が公表するサービス一覧には、性質の異なる項目が並んでいる。
札幌市の一覧には、犯罪被害者等支援金のように受給資格が変わるものと、住民票や介護申請のように同一世帯であれば受領証なしで手続できるものが含まれる。職員の休暇や福利厚生は、市民全体ではなく自治体職員に限られる。
埼玉県の一覧には、公営住宅、遺族見舞金、児童手当と並んで、記念樹、広報誌の特別表紙、急須の贈呈、記念撮影なども掲載されている。いずれも制度利用者への行政対応だが、生活保障への影響は同じではない。
サービス数を単純に足し上げれば、記念品を複数設けた自治体が、住宅・医療・遺族支援を一つずつ整えた自治体より多く見える場合がある。自治体比較では、少なくとも次のように分類する必要がある。
- 権利・給付型:公営住宅、犯罪被害者見舞金、災害弔慰金、住宅補助
- 代理手続型:介護申請、税証明、罹災証明、母子健康手帳
- 家族認定型:保育、学童保育、病状説明、墓地・納骨
- 職員制度型:扶養手当、結婚休暇、介護休暇、互助会給付
- 啓発・記念型:記念証、記念樹、広報誌、写真撮影
さらに、受領証が必須か、同居や同一世帯であれば不要かを併記しなければならない。
自治体が一覧に示すべき七つの項目
パートナーシップ制度を生活上の支援として評価するには、自治体は各サービスについて次の七項目を公表する必要がある。
1.利用できる行政サービスの正式名称
2.受領証の提示が必須か、代替書類を使えるか
3.同居、同一世帯、生計同一などの追加要件
4.利用によって得られる給付、申請権限、説明範囲
5.パートナーの子どもや親を対象に含むか
6.制度の根拠となる条例、規則、要綱
7.実際の利用件数と、利用できなかった主な理由
受領証がなくても利用できる場合は、その旨を明記した方がよい。制度利用者だけを特別扱いするのではなく、行政が確認できる生活実態に基づいて同性パートナーを家族として扱う制度もあるためである。
医療機関については、「利用可」という表示だけでは足りない。面会、病状説明、緊急連絡、入退院支援などの範囲を個別に示す必要がある。子育て分野では、送迎だけでなく、保育申請、就学援助、教育相談、医療費助成などを分けて公表するべきである。
受領証を「持っている」だけでは生活は変わらない
パートナーシップ制度は、自治体が同性カップルなどの関係を公に受け止める仕組みであり、行政窓口や民間事業者へ関係性を説明する資料にもなる。しかし、受領証自体が婚姻と同じ法的地位を作るものではない。
埼玉県では全63市町村が制度を導入したが、6町は利用可能な行政サービスを設けていない。札幌市では広い分野の手続を対象とする一方、その多くは受領証を提示せず利用できる。和歌山県では、公営住宅や病院の利用が宣誓の有無だけで決まらないことを注記している。福井県では、犯罪被害者見舞金、災害弔慰金、住宅取得・改修補助など、金銭上の効果を伴う制度への接続が進む。
次に比較すべき数字は、制度を導入した自治体数ではない。埼玉県の6町が行政サービスを新設するか、札幌市が受領証不要の運用を維持できるか、福井県の住宅・災害支援が他市町へ広がるかという、制度導入後の手続改正である。
埼玉県「県内市町村のパートナーシップ制度等実施状況」
URL:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0303/lgbtq/partnership-joukyou.html
埼玉県「パートナーシップ・ファミリーシップ制度 利用できる行政サービス一覧」
URL:https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/223582/080501_partnership-services.pdf
札幌市「札幌市パートナーシップ宣誓制度」
URL:https://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/lgbt/seido.html
札幌市「パートナーシップ宣誓書受領証の提示等により利用可能な行政サービス」
URL:https://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/lgbt/documents/gyousei_serviece260401.pdf
札幌市「パートナーシップ制度自治体間連携ネットワーク」
URL:https://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/lgbt/seido/renkei.html
福岡県「福岡県パートナーシップ宣誓制度について」
URL:https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/fukuokapartnership.html
福井県「福井県パートナーシップ宣誓制度で利用できるサービス一覧」
URL:https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/tihuku/partnership-sensei_d/fil/service-shousai.pdf
和歌山県「和歌山県パートナーシップ宣誓制度の利用先一覧」
URL:https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/031400/danjo/minority/partnership_d/fil/service.pdf
三重県「三重県パートナーシップ宣誓制度の利用先」
URL:https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001265740.pdf
東京都「東京都パートナーシップ宣誓制度」
URL:https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/sonchou/partnership/partnership01
刈谷市「パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度について」
URL:https://www.city.kariya.lg.jp/kurashi/shiminkyodo/1013852/1020732.html

