先住民族の権利に関する国際連合宣言とは、先住民族が個人としても集団としても人権と基本的自由を享有し、差別を受けず、文化、言語、土地、資源、教育、自己決定に関する権利を持つことを示した国連総会の宣言です。平成19年9月13日に国連総会で採択されました。条約ではないため、各国を直接拘束する国際条約とは異なりますが、先住民族の権利を考える国際基準として大きな意味を持ちます。
1.先住民族の権利に関する国際連合宣言の意味
先住民族の権利に関する国際連合宣言は、英語名を United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples といい、略称としてUNDRIPと呼ばれることがあります。先住民族の権利を、文化保護や福祉施策だけでなく、人権、差別禁止、自己決定、土地や資源、教育、言語、参加の問題として整理した文書です。
宣言は、先住民族が集団または個人として、国際人権法で認められる人権と基本的自由を十分に享有する権利を持つとしています。先住民族であることを理由とする差別を受けない権利、強制的な同化や文化の破壊を受けない権利、自らの文化的伝統や慣習を実践し再生する権利なども示されています。
この宣言の特徴は、先住民族を個人の権利だけでなく、集団としての権利を持つ存在として扱っている点です。言語、文化、土地、資源、伝統的な制度は、個人だけではなく民族集団としての継承と深く関わります。そのため、宣言は、先住民族が自らに関わる事項について意思決定に参加し、文化的・社会的発展を追求する権利を重視しています。
2.制度・法律との関係
先住民族の権利に関する国際連合宣言は、国連総会で採択された宣言であり、条約のような批准手続を通じて各国に直接の法的義務を課す文書ではありません。しかし、先住民族政策を考えるうえで、各国政府、国際機関、裁判、研究、教育、当事者団体の活動において重要な参照基準となっています。
宣言には、自己決定、自治、参加、土地・領域・資源、文化、言語、教育、伝統的知識、開発事業への関与など、幅広い内容が含まれます。特に、先住民族に影響を及ぼす施策や開発について、当事者である先住民族の意思をどのように確認し、反映させるかが重要な論点になります。
日本との関係では、平成20年6月6日に衆議院と参議院が「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を採択しました。その後、政府は、アイヌの人々が日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教、文化を有する先住民族であるとの認識を示しました。平成31年にはアイヌ施策推進法が制定され、アイヌの人々の誇りが尊重される社会の実現を目的とする国内制度が整備されました。
3.人権上の論点
先住民族の権利に関する国際連合宣言の人権上の論点は、先住民族の権利を、文化紹介や地域振興だけに縮小しないことにあります。文化や言語の継承は重要ですが、それだけでは、土地、資源、遺骨返還、教育、差別防止、政治参加、開発への関与といった課題を十分に扱えません。
アイヌ民族との関係では、アイヌ文化の保存・継承、アイヌ語の復興、学校教育での扱い、インターネット上の差別、遺骨や副葬品の返還、地域振興、観光利用のあり方などが論点になります。文化を観光資源として紹介するだけでは、アイヌの人々が自らの歴史や文化をどのように継承し、施策にどう関与するかという問題が見えにくくなります。
宣言は、先住民族について「保護される少数者」としてだけでなく、自らの文化、社会、発展のあり方を決める主体として扱う考え方を示しています。日本でこの用語を使う場合、アイヌ施策推進法、ウポポイ、アイヌ文化振興、教育・啓発、遺骨返還などの個別施策を、国際人権基準との関係で読み解くための基本用語になります。