サプライチェーンとは

サプライチェーンとは、原材料の調達から、製造、加工、物流、販売、消費者への提供に至るまで、製品やサービスが届けられる一連の流れを指します。ビジネスと人権の分野では、企業が自社内だけでなく、取引先、委託先、下請企業、海外工場などを含めて、人権への負の影響を把握するための重要な概念です。

1.サプライチェーンの意味

サプライチェーンは、直訳すれば「供給の連鎖」です。企業が商品やサービスを提供するまでには、原材料を生産する人、部品を製造する工場、加工業者、物流業者、販売会社、委託先、下請企業など、多くの主体が関わります。これらのつながり全体をサプライチェーンと呼びます。

たとえば、食品であれば、農産物の生産、集荷、加工、包装、輸送、小売、外食などが連なります。衣料品であれば、綿花や化学繊維の生産、紡績、染色、縫製、輸送、販売が関係します。電子機器であれば、鉱物資源の採掘、部品製造、組立、物流、販売、廃棄やリサイクルまでが問題になることがあります。

ビジネスと人権でサプライチェーンが重視されるのは、人権への負の影響が、企業本体の中だけで起きるとは限らないからです。自社の正社員には問題がなくても、取引先や下請企業、海外の生産現場で、長時間労働、低賃金、安全衛生上の危険、強制労働、児童労働、差別、ハラスメントが起きている場合があります。

2.制度・法律との関係

サプライチェーンという言葉自体は、特定の法律名ではありません。しかし、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や、日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を理解する上で欠かせない用語です。

国連指導原則は、企業に対し、自社が人権への負の影響を引き起こさないこと、助長しないことに加え、取引関係を通じて自社の事業、製品、サービスと直接関連する負の影響にも対応することを求めています。つまり、企業は「自社が直接雇っていない」「別会社の問題である」というだけで、人権リスクを完全に切り離せるわけではありません。

日本政府のガイドラインも、企業による人権尊重の取組を、自社だけでなくサプライチェーン等を含めて考えるものとして整理しています。企業は、人権方針を定め、人権デュー・ディリジェンスを実施し、人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、必要な情報を開示し、被害が生じた場合には救済に取り組むことが求められます。

企業実務では、調達方針、取引先行動規範、契約条項、取引先アンケート、監査、現地訪問、労働者への聞き取り、苦情処理メカニズムなどが、サプライチェーン上の人権リスクを把握する手段になります。ただし、書面調査だけでは、実際の労働環境や被害の声を十分に把握できない場合があります。

3.人権上の論点

サプライチェーンの人権上の論点は、企業活動の利益や効率が、見えにくい場所で働く人の権利侵害の上に成り立っていないかを確認する点にあります。消費者の目に触れる企業ブランドの背後には、原材料を生産する人、工場で働く人、倉庫や物流で働く人、清掃や警備を担う人など、多くのライツホルダーがいます。

特に問題になりやすいのは、企業本体から距離がある現場です。海外の原材料調達先、二次・三次下請、季節労働、移住労働、技能実習、請負・派遣、家内労働などでは、労働条件や相談窓口が見えにくくなります。強制労働、児童労働、賃金未払い、危険な作業、差別、ハラスメントが起きていても、発注元企業が気づかない場合があります。

サプライチェーン上の人権リスクに対応するには、取引先に一方的に責任を押し付けるだけでは不十分です。過度な短納期、低価格での発注、急な仕様変更、取引停止の圧力など、発注側の取引慣行が下請先や労働者に負担を与えることもあります。企業は、自社の調達や契約のあり方が人権への負の影響を助長していないかを点検する必要があります。

用語集でサプライチェーンを扱う意義は、ビジネスと人権が「自社の中の労務管理」だけではなく、取引関係全体に広がる課題であることを理解できるようにする点にあります。人権デュー・ディリジェンスは、サプライチェーンのどこで、誰の権利に、どのような影響が生じる可能性があるのかを確認するところから始まります。

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