職務上請求とは、弁護士、司法書士、行政書士などの専門職が、受任している事件や事務を処理するために必要な場合、戸籍謄本、住民票の写しなどを請求できる仕組みです。同和問題・部落差別との関係では、この制度が不正に利用され、身元調査や結婚差別、就職差別につながる個人情報の取得に使われた事例があるため、本人通知制度や戸籍・住民票の不正取得とあわせて理解する必要があります。
1.職務上請求の意味
職務上請求は、専門職が職務を行うために必要な公的証明書を取得する制度です。相続、訴訟、債権管理、登記、成年後見、各種許認可手続などでは、本人や関係者の戸籍謄本、除籍謄本、住民票の写し、戸籍の附票などが必要になることがあります。
通常、本人以外が戸籍や住民票を取得するには、本人からの委任状や正当な請求理由が必要です。職務上請求は、専門職が受任している事件や事務の処理に必要な範囲で、専用の職務上請求書を用いて請求する仕組みです。本人の同意を常に個別に確認する制度ではないため、厳格な管理と適正な使用が求められます。
職務上請求そのものは、法律実務や行政手続を円滑に進めるために必要な制度です。問題になるのは、職務上必要がないにもかかわらず戸籍や住民票を取得したり、調査会社などからの依頼で第三者の個人情報を取得したりする不正使用です。
2.制度・法律との関係
職務上請求は、戸籍法や住民基本台帳法に基づく証明書交付制度と関係します。弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士などの専門職は、それぞれの職務に関係する事件や事務を処理するために必要な場合、職務上請求書を用いて戸籍謄本や住民票の写し等を請求することがあります。
ただし、職務上請求は、専門職であれば自由に他人の戸籍や住民票を取得できるという制度ではありません。請求には、受任している事件や事務との関係、取得する必要性、請求する証明書の範囲が求められます。職務と関係のない目的で使用すれば、不正取得に当たる可能性があります。
戸籍法では、偽りその他不正の手段により戸籍謄本等の交付を受けた者に対する罰則が定められています。住民票の写し等についても、住民基本台帳法上、不正な請求や取得は問題になります。専門職団体も、職務上請求書の使用や管理について規則を設け、用紙の管理、控えの保存、管理台帳への記録などを求めています。
自治体の本人通知制度は、職務上請求の不正使用を発見・抑止する仕組みとも関係します。戸籍謄本や住民票の写し等が代理人や第三者に交付された場合、事前登録した本人へ交付の事実を通知することで、不正取得の早期発見につなげる制度です。
3.人権上の論点
職務上請求の人権上の論点は、戸籍や住民票に含まれる情報が、本人の知らないところで取得され、差別やプライバシー侵害に使われる危険がある点にあります。戸籍や住民票には、本籍、住所、氏名、生年月日、家族関係、転居歴など、個人の生活に深く関わる情報が含まれます。
同和問題・部落差別では、本籍や住所、家族関係を手がかりに、被差別部落の出身であるかどうかを調べる身元調査が問題とされてきました。職務上請求が不正に使われれば、結婚相手や就職希望者の出身地、家族関係、居住歴を調べるための手段になり得ます。これは、本人の能力や人格とは関係のない情報によって人生上の選択を左右する差別につながります。
一方で、職務上請求は、相続や裁判などの手続に必要な制度でもあります。そのため、この制度を説明する際には、制度自体を否定するのではなく、必要な範囲での適正使用と、不正使用の防止を分けて考える必要があります。
職務上請求をめぐる部落差別の問題を防ぐには、専門職による厳格な用紙管理、自治体窓口での審査、本人通知制度の周知、差別的な身元調査を依頼しない市民側の意識が必要です。戸籍や住民票は単なる事務書類ではなく、個人の尊厳と生活に直結する情報であるという理解が、制度の適正な運用の前提になります。