性的指向とは、恋愛感情や性的感情がどの性別に向かうかを表す言葉です。異性に向かう場合、同性に向かう場合、複数の性別に向かう場合、あるいは性的感情を抱かない場合など、性的指向には多様なあり方があります。性的指向は、性的マイノリティだけに関係する言葉ではなく、すべての人が持つ性のあり方の一つです。
1.性的指向の意味
性的指向は、人が恋愛感情や性的感情をどのような相手に抱くかに関わる概念です。一般には、異性愛、同性愛、両性愛などの言葉と結び付けて説明されますが、実際にはそれだけで単純に分類できるものではありません。
性的指向は、「どのような服装をするか」「戸籍上の性別が何か」「自分の性別をどのように認識しているか」とは別の概念です。たとえば、性自認は自分の性別をどう認識しているかを表す言葉であり、性的指向とは区別されます。
この区別があいまいなまま使われると、性的マイノリティに関する誤解につながります。性的指向は、本人の意思で簡単に変えられる好みや一時的な選択ではなく、その人の尊厳や人格に関わる属性として理解する必要があります。
2.制度・法律との関係
日本では、2023年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が施行されました。同法は、性的指向を「恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向」と定義しています。
この法律は、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性について国民の理解を増進するための理念法です。国や地方公共団体の役割、事業主や学校の努力義務などを定めていますが、個別の差別行為に対する罰則や救済手続を直接定める法律ではありません。
もっとも、性的指向を理由とする不当な差別的取扱いが許されないことは、憲法の法の下の平等や個人の尊重の考え方とも関係します。職場、学校、医療、行政窓口、住宅、家族関係など、生活のさまざまな場面で、性的指向に基づく偏見や不利益取扱いを防ぐことが課題になります。
3.人権上の論点
性的指向をめぐる人権上の論点は、本人が誰を好きになるか、誰と生活を共にするかについて、偏見や排除を受けずに暮らせるかという点にあります。性的指向を理由に、職場でからかわれる、学校でいじめられる、家族や周囲に否定される、行政サービスや医療現場で配慮を欠いた対応を受けるといった問題が起こり得ます。
特に深刻なのは、本人の同意なく性的指向を第三者に暴露するアウティングです。性的指向は、本人の尊厳やプライバシーに深く関わる情報であり、誰に、いつ、どのように伝えるかは本人が決めるべき事柄です。
性的指向について理解を広げることは、性的マイノリティだけを特別に扱うことではありません。異性愛の人を含め、すべての人が自分の性的指向を理由に不利益を受けず、安心して生活できる環境を整えることが、人権保障の基本になります。