認知症と人権とは

認知症と人権とは、認知症の人を「判断できない人」「保護されるだけの人」と見なすのではなく、尊厳、自己決定、社会参加、地域生活を支えるべき権利の主体として捉える考え方です。認知症は医療や介護の課題であると同時に、本人の意思、財産、住まい、移動、就労、家族関係、地域での暮らしに関わる人権課題でもあります。

1.認知症と人権の意味

認知症になると、記憶、判断、見通しを立てる力、言葉で説明する力などに変化が生じることがあります。そのため、医療、介護、金融、交通、買い物、住まいの契約など、日常生活のさまざまな場面で支援が必要になる場合があります。

しかし、支援が必要であることは、本人の意思がないことを意味しません。認知症の人にも、どこで暮らしたいか、誰と会いたいか、どのような介護や医療を受けたいか、自分のお金をどう使いたいかについて、本人なりの希望や考えがあります。人権の問題として見る場合、まず確認すべきなのは、本人の意思をどのようにくみ取るかという点です。

認知症と人権をめぐっては、偏見や決めつけも大きな問題になります。「認知症だから分からない」「危ないから外に出さない」「家族が決めた方が早い」といった対応は、本人の安全を理由としていても、生活の自由や社会参加を狭めることがあります。本人の状態に応じて支援方法を工夫し、できる限り本人が選択に関わる形を整えることが基本になります。

2.制度・法律との関係

認知症と人権に関わる中心的な法律の一つが、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」です。同法は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的に進めることを目的としています。

認知症基本法は、認知症の人を基本的人権を持つ個人として扱い、本人が自らの意思によって日常生活・社会生活を営むことを基本理念に含めています。生活上の障壁を取り除くこと、社会参加の機会を確保すること、本人に直接関係する事項について意見を表明する機会を確保することも、認知症施策の基本に置かれています。

成年後見制度、介護保険制度、高齢者虐待防止法、意思決定支援の仕組みも、認知症と人権に関係します。財産管理や契約に支援が必要な場合には成年後見制度が関わることがありますが、その場合でも、本人の意思を無視してよいわけではありません。介護サービスの利用や施設入所、医療の選択、金銭管理などでは、本人の意思を確認しながら支援する姿勢が必要になります。

3.人権上の論点

認知症と人権の中心的な論点は、本人保護と自己決定の関係です。認知症の人には、悪質商法、財産搾取、虐待、事故、孤立などから守られる必要があります。一方で、保護を理由に本人の行動を広く制限すれば、外出、買い物、交友、地域活動、金銭の使用、住まいの選択が本人から奪われることになります。

特に注意が必要なのは、家族や支援者の都合が本人の意思に置き換わる場面です。介護負担を軽くするための施設入所、財産管理を簡単にするための金銭制限、事故を避けるための外出制限などは、現実には必要な調整を含むことがあります。ただし、その判断が本人の生活を大きく変える場合、本人の意思、過去の生活歴、価値観、安心できる環境を確認しないまま進めることは、人権上の問題を生みます。

地域生活の継続も重要な論点です。認知症の人が住み慣れた地域で暮らすには、医療・介護サービスだけでなく、交通、金融機関、店舗、地域活動、近隣住民の理解が関わります。市町村、地域包括支援センター、医療機関、介護事業者、成年後見関係者、地域の事業者が、本人の意思を確認しながら支援を組み立てることで、認知症の人を地域から切り離さない対応につながります。

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